第三者side
人質立てこもり事件から数日。
莉乃は動けるようになるまで回復したため退院し、家に戻っていた。
事件があった当初はマスコミが殺到して落ち着けなかったが、気づけばマスコミが取材に来ることはパタリと無くなっていた。
「いらっしゃいませ」
莉乃は普段と変わらず、キトゥンの手伝いをしていた。
「すまなかったな。守ってやれなくて」
「いえ。鏑木刑事が止血してくれたおかげで私は一命を取り留めたんですから守ってもらってます」
誠の言葉に莉乃はそう返す。
隣に座っている鏑木は少し頬を赤らめている。
「本当なら、君の体に傷なんぞ残したくなかったのだが……」
誠は悔しそうに拳を握る。
「いいんです。別に私の体なんて誰も興味ないですから」
「そういうのは男前ではやめておくんだな」
西宮がコーヒーを飲みながらそう言う。
「え?何故ですか?」
「とことん世間知らずな娘だな」
「おい、西宮。失礼だぞ」
西宮にピシャリと麒麟が言う。
「だがな、こういうのはちゃんと言っておかないと取り返しがつかないことにだな?」
「だとしても言い方というものがだな?」
「おい、2人とも!喧嘩しない!」
鏑木が慌てて止めに入る。
「随分と仲良しなんですね」
「ああ。だが、まだ青い。君の方がよっぽど大人だ。だが、その青臭さがいいんだよ」
誠は柔らかい目で3人を見ていた。
「こちら、伝票になります」
薫がはそう言って伝票を置いていく。
「……っ!」
「どうかしましたか?」
「い、いや。なんでもない」
「そうですか?」
莉乃は首を傾げながらも他の客に注文を取りに行った。
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翌日。
莉乃たちは普段通り、学校に登校していた。
「よし、席に着け〜」
担任に言われ、全員が席に着く。
「今日は転入生を紹介する!入ってこい!」
すると教室のドアが開く。
「初めまして!石川 みのりです!」
そう名乗った女生徒はお辞儀をした。
そして、莉乃を見つけて。
「久しぶり莉乃ちゃん!」
笑顔でそう声をかけた。
「知り合いか?」
「知りません」
颯斗の問いにキッパリと答え、みのりの方を見て。
「誰です?」
「ガーン!覚えてないの!?同じ幼稚園だった!」
「幼稚園……?」
莉乃は思考を巡らせる。
「ん〜…そのあたりの記憶はボヤ〜っとしていてわかりませんね……」
「ボヤッとってのは?」
「ないんですよ。あの心中事件が起きた前後の記憶が」
「まぁ、昔の記憶ってそんなもんだろ」
「ですが、父母の顔は思い出せるんです」
「それはちょっとなんか違和感があるな」
「そうですか?」
「ああ。もし、昔の記憶が曖昧になるっていう定説が通るんだったら、心中事件で亡くなったお前の両親の顔なんて思い出せないか、思い出せてもボヤッとしてるもんだろ?なのにはっきりと思い出せる。その心中事件の記憶だけが抜け落ちてるってことじゃないか」
颯斗の言い分に莉乃は頷く。
「しかし、写真が残っていますからその影響かもしれません」
「それを言われちゃどうしようもねえな……」
颯斗は困ったようにそう言った。
「まぁ、いいや!改めてよろしくね!」
「はい。よろしくお願いします」
そう言って莉乃はみのりと握手を交わした。
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誠side
「ここか……」
現在、俺は心中事件の現場に来ていた。
捜査資料はデータとしてタブレットに保存している。
「見た感じは特に変わりはない、か……」
俺は周辺を軽く歩きまわってみる。
「ん?」
その時、気づいてしまった。
「写真と違う……?」
よく見れば、少し違う。
「この痕跡は……」
俺は道路に手を触れる。
そこには写真にはない痕跡があった。
それは急ブレーキ痕。
「無いな……」
どれだけ資料の写真を見てみても、それらのどこにも急ブレーキ痕は存在しない。
「聞いてみるか」
交通課にいる同期に電話してみる。
「もしもし?」
『どうした氷室?お前から連絡なんて珍しいこともあるもんだな?』
「俺をなんだと思ってるんだよ」
『愛妻家』
「それはそうかもしれないがな?もう少し刑事としての印象をだな……」
『で?何の用だ?こっちだって忙しいんだぞ?』
「俺の話は無視かよ……まぁ、いい。お前に聞きたいことがあったんだ」
『聞きたいこと?』
「ああ。9年前くらいに心中事件があっただろ?」
『七瀬一家心中事件か?』
「そうだ。その事件から今までで同じ場所で事故はあったか?」
『調べるからちょっと待て』
電話は保留状態になる。
もし、事故が起きていないとしたら……
嫌な考えが頭をよぎる。
それから数十分して、保留状態が終わる。
『調べてみたが、特に事故があった履歴はないな』
「そうか……わかった。ありがとう」
『お役に立てて何よりだ』
そこで電話は終わった。
あの事件以降、事故は起こってない……
なのに残っている急ブレーキ痕……
事故は起こっていなくても、急ブレーキくらいはあるかもしれない。
だが、急ブレーキ痕の方向がおかしいのだ。
カーブ道路に対してほぼジグザグになっている。
そして最後は、カーブ道路に垂直になっている。
そうなっている以上、最後に辿る結末は崖からの転落だ。
だが、心中事件以降事故はない。
となると、急ブレーキ痕は写真から意図的に消されたものだろう。
それともう一つ、違和感が出てきた。
「なぜ、急ブレーキをかけた?」
そう、そもそも何故急ブレーキをかけたのかだ。
莉乃ちゃんの両親が一家心中を図るつもりであれば、急ブレーキをかける必要などないはずだ。
万が一、直前で怖くなって辞めようとしたのだとしてもジグザグはおかしい。
そのまま真っ直ぐ進むか、Uターンを目標にするだろうから残るブレーキ痕は直線、もしくは曲線のはずだ。
「この事件、心中じゃないのか……?」
意図的に消されたであろう急ブレーキ痕といい、何か隠蔽したい事実でもあるのだろうか。
当時の私はこの事件に関わっていたわけではない。
ただ、退職する先輩刑事から莉乃ちゃんが目覚めた時のために、と引き継ぎをしてくれていただけだ。
「一体誰が指揮を取って……」
俺は資料の1番最後のページに記載された当時指揮を取っていた人物の名前を見て絶句した。
その名前はそれほどまでに信じがたいものだった。
“石川 律人”
それは、誠実で事件に真っ直ぐな現在の警視庁トップである警視総監の男の名だった。
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第三者side
莉乃と颯斗はみのりに学校を案内していた。
「ここが、生徒会室だ」
最後に紹介した場所は生徒会室であった。
「放課後は俺は基本的にここにいるから何かあったら来るといい。俺がいなくても美香とか公人とかがいるからそっちを頼ってやってくれ」
「わかった!」
みのりは元気よく返事をした。
そんな時、莉乃の携帯が鳴った。
「もしもし」
『莉乃ちゃん、オミナスが出現したわ!』
「わかりました。場所はどこですか?」
『庵原公園よ!』
「ありがとうございます」
莉乃はそこで電話を切った。
「颯斗君」
莉乃がみなまで言わずとも颯斗は理解した。
「悪い、ちょっと用事を思い出した」
「私たちはここで失礼します」
そう言って2人は走り出した。
「行っちゃった……」
1人残されたみのりはポツリと呟いた。
「私も莉乃ちゃんの助けにならないと!」
みのりの手にはオムニバスチェンジャーに似たものがあった。
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「あそこか!」
2人は現着した。
「行くぞ!莉乃!」
颯斗は莉乃に呼びかけるが莉乃は返事をしない。
「莉乃……?」
颯斗が後ろを振り返れば。
「カ、カブトムシ……っ!!」
そう呟いて震え、過呼吸になっていた。
「莉乃!?」
「グオオオオオッ!!」
「危ねぇ!」
こちらに突っ込んでくるオミナスから莉乃を庇った。
「はぁはぁ……!!」
「(そういえば、カブトムシが苦手って言ってたな……)」
颯斗はそんなことを思い、オミナスを見る。
その時、莉乃の脳裏に何かがフラッシュバックしていた。
「(今の記憶は……!?)」
「莉乃、落ち着け!あれはカブトムシじゃない!」
「え?」
「クワガタだ!!」
颯斗は莉乃の肩を掴んでそう言った。
「……一緒じゃないですか」
落ち着きを取り戻した莉乃がそう返事する。
「落ち着いたみたいだな」
「はい。おかげさまで」
「グオオオオオッ!!」
「ったく!今は12月だぞ!?季節外れもいい加減にしろ!」
颯斗はそう言ってカードをスキャンする。
『UFO!』
『マジシャン!』
「そうですね」
莉乃もそれに続く。
『リアクター!』
『ナイト!』
「「オムニバスチェンジ!」」
『未確認の手品師!UFOマジシャン!』
『灼熱の騎士!リアクターナイト!』
「グオオオオオッ!!」
スタッグオミナスが2人に向かって突進をしてくる。
「はあああっ!!」
莉乃はオムニバスブレードで大顎を受け止める。
「ぐっ……!!」
途轍もないパワーで莉乃が地面を削りながら押される。
「莉乃!」
「グオオオオオッ!!」
そんな雄叫びが颯斗の背後から聞こえる。
「……っ!?」
颯斗が振り返ればそこには。
「恐竜かよっ!!」
「グオオオオオッ!!」
Tレックスオミナスの尻尾による攻撃が颯斗に直撃する。
「ぐあああっ!!」
回避が間に合わなかった颯斗は強烈な一撃をもろに喰らい、地面を転がる。
「颯斗君!」
莉乃は一瞬、颯斗の方に意識を向けた。
「グオオオオオッ!!」
スタッグオミナスはその一瞬の隙を見逃さなかった。
「きゃあああっ!!」
スタッグオミナスの顎による一撃で莉乃も地面を転がる。
「「グオオオオオッ!!」」
2体のオミナスが咆哮を上げた。
そんな様子をビルの上からみのりが見ていた。
「助太刀しないと」
『アナザーオムニバスチェンジャー!』
みのりはカードを2枚スキャンする。
『アナザーリアクター!』
『アナザーナイト!』
「アナザーチェンジ」
そう言ってチェンジャーの外枠を回転させた。
『灼熱の騎士!リアクターナイト!アナザー!』
彼女の姿は禍々しく、顔も半分以上がバケモノのような見た目にであった。
みのりはビルから2人の場所に向かって飛び降りた。
「はああああっ!!」
アナザーヴァルキリーによるアナザーオムニバスブレードの一撃で、2体のオミナスは吹き飛ばされる。
「何者だ!!」
颯斗が声を上げる。
「アナザーヴァルキリー!」
「アナザー……」
「ヴァルキリー……?」
「早くアイツらをやっつけよう」
「あ、ああ!」
颯斗は立ち上がり、カードをスキャンする。
『マグネット!』
『ライオン!』
『磁力の百獣王!マグネットライオン!』
「私も」
そう言って莉乃もカードをスキャンする。
『クレイドール!』
『ケルベロス!』
『3つ首の土人形!クレイベロス!』
アナザーヴァルキリーもアナザースパイダーカードをスキャンする。
『アナザースパイダー!』
『アナザースパイダー!アビリティ!』
「はああああっ!!」
みのりは糸を射出し、2体を拘束する。
「今だよ!」
2人は頷き、チェンジャーの外枠を回転させた。
『マグネットライオン!』
『クレイベロス!』
『『フィニッシュ!』』
2体のオミナスは2人のキックでそれぞれ貫かれ、爆散した。
「よし!」
颯斗はTレックスの力を回収した。
「あなたは味方なんですか?」
莉乃がアナザーヴァルキリーに問う。
「私はあなたの力になりたいの」
「私の、ですか?」
「そんな……異形になってまでもか?」
颯斗はそう言う。
アナザーヴァルキリーの見た目は半分が溶解したような見た目で、もう半分が機械的というなんともアンバランスな異形だった。
「うん」
「正直言って、私はまだあなたを信頼出来ません」
「いいよ!そんないきなり信用しろなんて言わないよ!だから、これから勝ち取ってみせる!この身に変えても!じゃあね!」
そう言ってアナザーヴァルキリーは姿を消した。
「なんなんだよアイツ……」
「ですが、敵は確実に強くなっています」
「だな。気を引き締めないとな」
2人は決意を新たにした。
そんな様子をダークエイドヴァルキリーは見ていた。
「ゲイル様は一体何を考えているんだ?」
To be continue……