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第16話 ストーキング・テラー


莉乃side


アナザーヴァルキリーの出現から数日。

私は普段通り、お店を手伝っていた。


「………………………」


机を拭いていた私は視線を感じていた。

現在は店内は繁盛しており、誰からの視線かまでは特定出来ない。

だが、確実に私の方を見ている。

この視線の存在に気がついたのはちょうど2日前だ。

仕事をしているとなにやら普段は感じないような強い視線を感じた。

その時も店内が繁盛しており、犯人の特定には至らなかった。

別に現状何か不利益はないため放置している。

というより、おばさんたちに心配をかけたくないから黙っている。


「莉乃ちゃん、どうかした?」


おばさんが声を掛けてくる。


「いえ、別になんでもありません」


私は普段通りに振る舞っていた。

だが、この放置が悪手だったとわかるのにそう時間は掛からなかった。


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颯斗side


「はぁ〜……」


父さんがソファに座ってため息をついている。

珍しいこともあるものだと思い、声をかける。


「どうしたんだ?父さん」

「いや、なんでもない」

「いやいや!徐にため息を吐いてなんでもないってことはないでしょ!」

「確かにそうだが……お前に話しても解決にならないしな」

「そうかもしれないけどさ……話くらいは聞くよ?」

「そうか?」


俺は父さんの言葉に頷く。


「あなた、守秘義務はどうしたの?」

「別に事件のことじゃない」

「そうなの?」


事件以外で父さんが悩むなんて……

一体なんなのだろう。


「実はな?莉乃ちゃんの事件を捜査してたんだ。そしたらよ、写真に改ざんが見られた」

「改ざん!?」

「ああ。詳細は控えるが、隠蔽されていた」

「おいおい……」


それって、莉乃の事件はただの心中じゃないってことじゃないか!


「誰が改ざんしたのか思って調べてみたら、現在の警視総監だった」

「警視総監?」

「ああ。警視庁の最高位の役職だ」

「そんな人が改ざんしてたの!?」

「確たる証拠はない。だが、写真が改ざんされ、当時の刑事たちは何も言っていないことを踏まえると、警視総監が現場に行かないように指示して、さらには捜査を早めに切り上げ、今の扱いにした可能性がある」

「嘘だろ……」


俺は絶句した。

ここまで汚い大人がいるとは……


「だから、頭を抱えているんだ。まさか、敵が警察内部にいる可能性が高いなんて……」


そりゃ悩む。

自分の信じていた組織が、人物が真っ黒な可能性が高いのだ。

落ち込まないわけがない。


「父さん、悩んでてもしょうがないよ。莉乃の事件の真実を明らかに出来るのは父さんだけなんだから」

「そう、だな!そうだよな!こんなことでウジウジなんてしてられないよな!」


そう言って父さんは自身の頬を強く叩いた。


「サンキュー颯斗!おかげで気が楽になった!」


父さんは俺の頭を撫でて、部屋と戻っていった。


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莉乃side


「莉乃ちゃん、ちょっといい?」


お店の営業も終わり、ゆっくりとした時間の中、私はおばさんに呼ばれた。


「なんでしょうか?」

「莉乃ちゃん、靴下とかちゃんと洗濯に出した?」

「はい。もちろん出しましたが……」

「おかしいな〜……」

「どうかしたんですか?」

「無くなってるのよ。学校用の靴下が一組」

「おかしいですね……」

「誰かに取られちゃったのかしら……」

「…………っ!!」


おばさんからそう告げられた時、背筋がゾワッとした。


「莉乃ちゃん?どうかしたの?」

「い、いえ…なんでもありません。靴下のことは気にしないでください。予備はありますので」

「そう?ごめんね」


私はそそくさと部屋に戻った。


「まさか……」


あの視線の正体が……

まさか、そんなわけない。

そう自分に言い聞かせて、眠った。


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第三者side


「おはようございます……」

「おはよう。……どうした?元気なさそうだけど」


あんなことがあって莉乃は寝られるわけがなかった。


「いえ、少し寝不足なだけです」

「寝不足?何か悩み事か?」

「……問題ありません」

「(これは絶対なにかあるやつだな)」


颯斗は少し間を空けて返答した莉乃に対してそう感じていた。


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放課後。


「どうしたんですか?みなさん揃って」


颯斗たち5人はキトゥンを訪れていた。


「莉乃ちゃん、隠し事してるでしょ?」

「え?」

「水臭いよ!莉乃っち!」

「何か困り事があるなら相談してくれないと」


全員が莉乃に詰め寄る。


「えっ、いや、別に私は困ってなんか……」

「今朝、お前返事にちょっと間があっただろ」

「それが何か?」

「何か思い当たる節があって、それを隠したかったんじゃないか?」

「……っ!(す、鋭いですね……!)」

「そんなに僕たちが頼りにならないかい?」


公人もそう言う。


「そういうわけでは……」


莉乃は困った顔をする。


「もしかして、靴下が無くなったことと関係あるのかしら?」

「おばさん!」


莉乃は言って欲しくなかったように満の名前を呼ぶ。


「靴下が無くなった?」

「そうなのよ。ちゃんと干したはずなんだけど、無くなっちゃったのよ」

「不可解だね……」


すると颯斗が莉乃の方を見る。


「なぁ、莉乃1つ聞いていいか?」

「なんですか?」

「お前、最近おかしなことがあるんじゃないか?」

「おかしなこと、ですか?」

「ああ。例えば、視線を感じるとか、着けられてるとか」

「………っ!」


莉乃は確信を持っていた。

今日、帰り道で店で感じる視線と、背後の人の気配を感じていたのだ。


「颯斗、お前それまさか!」

「ああ。俺は莉乃の隠し事はストーカー被害だと思ってる」


颯斗は莉乃を見て、はっきりと言い切った。

莉乃はそれに目が泳ぎ、動揺を隠しきれない。


「……………………………」

「沈黙は肯定と受け取るぞ」


莉乃は諦めたように。


「す、すみません……颯斗君の言う通り、おそらくストーカー被害に遭っています」


莉乃の言葉に全員が驚きの表情を浮かべる。


「絶対に許せない」

「莉乃っちを怖がらせるなんて……!」

「ですが、着けられ始めたのは今日の帰り道からなんです」

「なるほどね。莉乃が気づいていないと踏んで今日から行動に移した可能性が高いわね」

「心当たりはないのか?」

「少し前からお店のお手伝いをしている時に誰かから視線を向けられてる気がしていたんです」


莉乃の暴露に颯斗はため息をついた。


「なんで相談してくれなかった?」

「……心配をかけたくなかったんです」

「馬鹿野郎。俺たちはともかく、満さんや薫さんには話せばよかったんだよ。親が子を心配するなんて当たり前なんだからさ。でも、お前の気持ちもわからんでもない。父さんが刑事だからな。心配かけたくなくて、被害を出来るだけ黙ってる子も少なくないと聞く。ま、もう心配すんな!後は俺たちに任せておけ」


颯斗はそう言ってポンと肩を叩いた。


「随分と頼もしくなったじゃないか。颯斗」


そう声を掛けてきたのは誠だった。


「父さん!」

「話は聞かせてもらった。ここからは警察の仕事だ」

「いや、警察にバレたと知られれば姿を眩ます可能性がある。だから、俺たちがギリギリまで守る」

「なるほど。遠くから見守らせるってことか?だが、莉乃ちゃんが目当てなら、お前たちが危険だぞ」

「こういうやつって、同級生は眼中に入れない気がするんだ」

「……確かに。同じ年齢の友達なら一緒にいても不自然ではないな。わかった。俺はお前を信じる」

「任せろ。父さん」

「じゃあ俺は鏑木たちに連絡をしておく」


そう言って誠は去っていった。


「コーヒー、要らなかったんでしょうか」

「随分と余裕だな」

「はい。いざとなれば……」


莉乃はオムニバスチェンジャーにそっと触れた。


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皆が帰った後、莉乃は買い忘れに気付き、1人で買い出しに出ていた。


「私としたことが……ストーキングに気を取られて買い忘れをしてしまうとは……」


莉乃にとってのターニングポイントはこの行動だった。


「……っ!!」


莉乃は例の視線を感じた。


「(いる……!私を見てる……!)」


彼女の額に冷や汗が流れる。


「(落ち着け私……冷静になれ)」


そう言い聞かせ、ざわつく心を落ち着かせ、歩いていく。

そして、ちょうど裏路地がある場所に差し掛かった頃。


「んぐっ!?」


莉乃はいきなり手で口を押さえられ、裏路地へと引き摺り込まれる。


「んんっ!!」


パニックになった莉乃はバタバタと踠き、普段の冷静さは失われていた。


「(誰か……!助けて……!)」


莉乃がそう願った時。


「何をしている!!」


男の声が響いた。

その声の主は鏑木刑事であった。

誠が連絡してからすでに来ており、莉乃の様子を見ていたのだ。


「……っ!!」


その声に驚いたのは莉乃だけではなかった。

ストーカーもまた驚き、動きを止めた。


「その子を離せ!!」


ストーカーは再びビクッと跳ね、莉乃を鏑木のほうに突き飛ばし、逃走した。


「おい!待て!」


鏑木は男を追おうとするが、莉乃に袖をクイッと掴まれ、それ以上は追えない。


「麒麟!マルヒが逃走!俺は莉乃ちゃんを保護する」

『了解』


麒麟はそれだけ言って電話を切った。


「大丈夫?莉乃ちゃん?」

「はぁはぁ……」


莉乃は鏑木の胸の中で震え、今にも泣き出しそうになっていた。


「(無理もないか……あれだけ怖い目にあったんだ)」


鏑木は莉乃の手をぎゅっと握って。


「大丈夫。俺がいるから」


鏑木は莉乃を家まで送り届けることにした。


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「「莉乃(ちゃん)!!」」


キトゥンに戻れば、満と薫が泣きそうな声で莉乃に飛びつく。


「おじさん…おばさん……」

「ごめん!ごめんなさいね!!」

「守ってやれなくてすまない……」

「いえ…元々買い忘れをしてしまった私が悪いんですから」


莉乃は2人に抱きしめられながらどう答える。

その声色には明らかに元気がなかった。

その時、麒麟がキトゥンにやってきた。


「麒麟!」

「悪い。俺としたことが逃げられてしまった」

「そうか……」


その日はそのまま解散となった。


─────────────────────────────────────


翌日。

学校にて。


「七瀬は〜…ああ、欠席の連絡が来てたな」

「「「……っ!」」」


担任のその言葉に颯斗達はピクッと反応する。

ホームルームが終わった後、颯斗は担任に問うた。


「莉乃の休みの理由ってなんです?」

「普通に体調不良だと言っていたが?」

「そうですか。ありがとうございます」


颯斗はすぐにそのことを報告した。


「体調不良……」

「絶対何かあったよね」

「父さんに聞いてみる」


颯斗は誠に連絡を取る。


『どうした?』

「昨日、俺たちが帰った後、何かあった?」

『……いや、何もない』

「そう?」

『ああ』

「わかった。ありがとう」


颯斗は電話を切る。


「どうだった?」

「父さんは何もないって言ってた。でも、明らかに間があったから何かあったのは確実だ」

「行ってみるか」


公人の言葉に全員が頷いた。


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「いらっしゃいませ!」


入り口に背を向けて机を拭いていた満はいつもと変わらない元気な声で挨拶をしながら振り返った。


「颯斗君……」

「どうも」


満は颯斗の顔を見て表情が一気に翳った。


「どうしたの?」

「莉乃について聞きたくて」

「そう……」

「やっぱり何かあったんですね?」

「……ストーカーが一気に接近してきたんだ」


店の奥から薫が出てきてそう言った。


「あなた!」

「今は颯斗君達以外いないから問題はない」

「やっぱりストーカーか……」


颯斗はぎゅっと拳を握りしめた。

その時だった。

外で何やら騒ぎが起きているようだった。


「なんだ?」


颯斗が外に出てみれば。


「住居侵入及び窃盗の容疑で逮捕する!」


鏑木が1人の男を押さえつけていた。


「なんで警察がいるんだよ!!」


男がもがいていたが、警察には敵わず、手錠を掛けられた。


「……あなたがストーカーですか」


元気のない声でそう言ったのは莉乃だった。

パジャマ姿で、髪もボサボサ、目の下には隈が出来ていた。


「ストーカー?何を言っているんだ?僕は君のファンさ!僕にとっての全て!今日も“グッズ”を貰いに来たのに警察に邪魔された!ねぇ、ファンの僕にグッズくれるよねぇ?」


そう言って男が突き出した手に握られていたのは莉乃の下着だった。


「……っ!!」


莉乃は数歩後退りする。


「なんで?僕が守るよ?君もこの店も!全部!」


莉乃の顔は恐怖に染まり上がっていた。

そんなストーカーの言い分に堪忍袋の尾が切れたのは颯斗だった。


「ふざけんじゃねぇぞ!!」


そう言ってストーカーの胸ぐらを掴み上げる。


「何がファンだ!!何がグッズだ!!お前はただの最低な下衆野郎なんだよ!!下着を盗んでおいて俺が守る?ふざけんじゃねぇ!!莉乃はお前如きが近づいていい女じゃないんだよ!!お前にこの店に来る資格はない」

「颯斗君……」


莉乃は颯斗に釘付けになっていた。


「落ち着いて颯斗君!」

「……すいません。つい取り乱しちゃいました」


そんな颯斗の耳元で鏑木は呟く。


「愛ゆえだね」

「なっ!?」


颯斗はその一言に顔を真っ赤にしていた。


「こんなところで終わらない!!!俺は莉乃ちゃんを愛してるんだああああ!!!」


ストーカーがそう叫んだ瞬間、何かが2つ彼に吸い寄せられる。


「アビリティカード!?まさかっ!!」

「うおおおおおっ!!」


ストーカーはオミナスへと変貌した。


「おいおいマジかよ……!!」

「グオオオオオッ!!」


オミナスはそう叫び、光の帯で莉乃を捕える。


「莉乃っ!!」

「颯斗君っ!!」


互いに手を伸ばすが、2人の手はギリギリのところで届かず、莉乃はそのまま連れ去られてしまった。


「クソったれ!」


鏑木達もすでに車に乗って追いかけているため、もういない。


「オムニバスチェンジ!」


『UFOマジシャン!』


颯斗はUFOに乗って追跡を開始した。


─────────────────────────────────────


「離してください」


莉乃の言葉に一向に耳を傾けない。


「仕方がありません」


莉乃はため息をついて。


「オムニバスチェンジ」


『ジェットナイト!』


オムニバスブレードで光の帯を切り裂き、ジェットの能力で空を飛ぶ。


「グオオオオオッ!!」


それに気づいたオミナスが雄叫びを上げる。


「2枚重ねがけとは……!」


『蒼空の糸使い!ジェットスパイダー!』


「グオオオオオッ!!」

「はっ!」


莉乃は蜘蛛の糸を飛ばすが、オミナスは吸い込んでしまう。


「この能力達は……!全く厄介なものを使ってオミナスになってくれましたね……!」

「莉乃!!」

「颯斗君」

「無事だったか!」

「はい」

「安心しろ。俺が守ってやる」


颯斗はそう言って一歩前に出る。

だが、莉乃はそんな颯斗の隣に並び立つ。


「いえ、オミナスとなると話は別です。それにこのオミナスは厄介なアビリティカードを使っています」

「厄介?」

「はい。アビリティカードの中でも最上位の1枚を除いて、頂点に君臨する4枚のカードのうちの2枚です」

「残りの2枚は?」

「私達が持っているTレックスとフェニックスです」

「じゃああれは……」

「オーロラとブラックホールです」

「大分やばくないか?」

「ええ」

「グオオオオオッ!!」


オミナスは熱光線を放ってくる。


「やばっ!」


『ジュエルナイト!』


回避出来なかった颯斗を庇うように防御特化のジュエルナイトフォームになる。


「うああああっ!!」


莉乃が大きく吹き飛ばされる。


「莉乃!」

「大丈夫です……!」


そんな時だった。


『アナザージュエルシャーク!フィニッシュ!』


「はああああああっ!!」


アナザーヴァルキリーの一撃にオミナスは大きく後退する。


「大丈夫?」

「アナザーヴァルキリー!」

「私が弱体化させるからフィニッシュをお願い!」

「出来るんですか?」

「もちろん!にもアナザーアビリティカードには君達のカードに対する特効能力があるからカード自体の能力を弱めることが出来るんだ!」

「相性的に有利ってわけか」

「そういうこと!」

「わかりました。それしかない以上、やるしかありません」

「よ〜し!いっくよ〜!」


アナザーヴァルキリーはカードを2枚スキャンする。


『アナザーリアクター!』

『アナザーナイト!』


「アナザーチェンジ」


『灼熱の騎士!リアクターナイト!アナザー!』


アナザーオムニバスブレードにカードをスキャンし、柄頭を引く。


『アナザーケルベロス!』

『アナザーケルベロス!ブースター!』


「はあああっ!!」


アナザーヴァルキリーが剣を振り下ろせば、狼の頭が3つ、オミナスに噛み付く。


「今です!」


『リアクター!』

『リアクター!ブースター!』


『UFOマジシャン!フィニッシュ!』


「「はああああっ!!」」


莉乃は横一線に切り裂き、颯斗は蹴りを放った。


「グオオオオオッ!!」


そんな雄叫びを上げて、オミナスは爆散した。


「よし!」


2人はカードにそれぞれ力を回収した。


「じゃ、またね!」


そう言ってアナザーヴァルキリーはすぐに姿を消した。


「なんでいっつも一瞬で……」

「何かあるんでしょうか」


その後、駆けつけた鏑木達によってストーカーは逮捕され、莉乃に平穏が戻ったのだった。


           To be continue……


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