颯斗side
莉乃のストーカー事件も解決し、数日が経った。
「ふぅ〜……」
教室の自席に座る俺は緊張していた。
「随分と緊張してるねぇ?」
「うるさい」
緊張するに決まっている。
今日、俺は莉乃を誘うのだ。
2日後に迫るクリスマスの日に一緒に出掛けようと。
「おはようございます」
「おはよう、七瀬さん」
「颯斗君もおはようございます」
「あ、ああ。おはよう」
緊張しているせいでどこかぎこちない挨拶になってしまう。
「どうかしましたか?」
「いや、えっと……その〜……」
言葉に詰まった俺を見て、莉乃は首を傾げる。
「明後日、空いてるか?」
「空いていますけど…それがどうかしましたか?」
「お、俺と一緒に出掛けないか?」
「構いませんよ」
「へ?」
思いの外あっさりと了承され、変な声が出てしまう。
「ですから、構いませんよと言っているんです」
「あ、ああ!ありがとう!」
「いえ、私も元々お誘いするつもりでしたので」
「うぇっ!?」
「おっと……」
莉乃の発言は想定外だったらしく、公人も驚きを隠せない。
「マジで?」
「ええ。おばさんから“電飾が綺麗だから颯斗君と見に行ってきなさい”とその日、お手伝いを休みにさせられました」
「で、電飾……」
イルミネーションのことなのはわかるけど……
それにしても少し、いや、そこそこ年季を感じる。
こんなことを満さんに言ったら怒られるんだろうけど。
「な、ならよかった!」
俺は一安心した。
だが、今年のクリスマスは決してハッピーエンドではなかった。
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第三者side
莉乃達が学校にいる頃、喫茶キトゥンを誠が訪れていた。
「いらっしゃいませ!あ、氷室さん!この前はどうも!」
「いえ、今の私では部下に守らせることが精一杯でしたのであまり力にはなれませんでした」
誠はハハハと苦笑して満にそう言う。
「それで、今日はご主人は?」
「うちの人なら、今は買い出しですよ」
「なら、ちょうどよかったです」
「え?」
「満さんにお聞きしたいことがあるんです」
「なんですか?」
「心中事件のことで───」
こちらもまた真実に辿り着こうとしていた。
その日の夕方。
「はいもしもし」
『莉乃ちゃん。少しいいかな?』
莉乃の携帯に誠からの連絡があった。
「構いませんが、なんでしょう?」
『現時点での七瀬一家心中事件の推理を聞いて欲しいんだ』
「推理、ですか?」
『ああ』
「今は時間がないので難しいですね……クリスマスの日、颯斗君と出掛けるのでそのタイミングでよければお願いします」
『わかった』
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莉乃side
それから2日後。
「「「メリ〜クリスマ〜ス!」」」
キトゥンはお客さんで大盛況だった。
小さなクリスマスパーティーを開催したり、飲み潰れている人もいる。
そんな中、私は不安で胸がいっぱいだった。
「本当に大丈夫ですか?」
「もちろん!私たちのことなんて気にしないで!」
「……わかりました」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
そう言って私は家を出た。
この時の私はどうすればよかったのだろうか。
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第三者side
街に出た莉乃たちはイルミネーションの方へと歩いていた。
「綺麗ですね」
「そうだな」
ここまであまり会話は無かった。
莉乃はまともに同年代と接したことがなかったため自分から会話の内容を振るのは苦手だ。
だからいつも颯斗に頼ってばかりだった。
その颯斗も今日は口数が少ない。
「……楽しく、ないですか?」
莉乃は思わず聞いてしまった。
「えっ」
颯斗は驚いた様子で莉乃を見る。
「颯斗君、全然喋らないので楽しくないのかと……」
「そんなことない!」
颯斗は莉乃の言葉を遮って、言葉を紡ぐ。
「俺、莉乃といられてすっげぇ楽しい」
「そうなんですか?」
「ああ」
「では、何故今日は口数が少ないんですか?」
「そ、それは……」
颯斗は急にしどろもどろになる。
「き、緊張してるから、だ……」
「緊張…ですか?一緒に行動することは少ないと思いますが今更緊張とは……病気ですか?」
「なぁ!?」
真面目な顔でそう伝える莉乃に颯斗は頭を抱えた。
「(おいおい…脈なしはキツいぜ……)」
そんな颯斗の落胆を掻き消すようにお腹の音がなった。
「えっ」
「すみません。お腹が空いてしまいました」
莉乃は恥じらいもなくそう言う。
「莉乃さんや、そういうのは少しは恥じらいを持った方が可愛らしいですぞ」
「恥じらい……流石に美香ちゃんや瑞稀ちゃんの前では恥ずかしいですが……颯斗君の前ならいいと思っています」
「!?!?」
颯斗は混乱した。
「(え!?それって俺にだけはそういうのを許容してくれてるほど近い距離に居るってこと!?)」
「どうかしましたか?」
「い、いや?なんでもないよ?」
「その割には声が上擦っていますが」
指摘され、目が泳ぐ。
「まぁ、構いません。それより、どこで夕食にしましょうか」
「え?あ、ああ!実は予約してあるんだ!」
「そうなんですか?いくらですか」
莉乃はそう言って財布を取り出す。
「いやいや!ここは俺が払うから!」
「いえ。私は颯斗君に奢ってもらう道理はないです」
「いつもお世話になってるし……」
「私の方がお世話になっていると思います」
莉乃は一歩も引かない。
それからしばらく不毛なやりとりを続けていた。
「───はぁ〜…わかった。俺の負けだ」
やがて、颯斗が折れ、莉乃に値段を伝え、料金を受け取った。
「(カッコつけたかったのになぁ〜……)」
颯斗はガクリと肩を落とし、予約していたレストランへと向かった。
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「ふぅ〜……」
「美味しかったですね」
「それにしてもなんでシャケなんだろうな」
「え?」
「クリスマスと言ったらチキンだろ?」
「何言ってるんですか?“クリスマスにはシャケを食え!”ですよ?」
「ごめん、何言ってるかわからん」
「常識ですよ?」
「俺そんなの知らないわ」
食事を終えた2人は満足そうな表情でレストランから出た。
「莉乃ちゃん」
するとそこに誠が現れた。
「父さん?どうかしたのか?」
「……約束通り私の推理を聞いてくれるかな」
「推理…ってまさか!?」
「ああ。そのまさかだ」
そんな時だった。
「ツリー!!!」
「「……っ!」」
現れたのはクリスマスツリーオミナスとダークエイドヴァルキリーだった。
「こんな時に!」
「莉乃ちゃん、逃げるんだ!」
莉乃はダークエイドヴァルキリーをまっすぐ見据える。
「颯斗君、仕方がありません」
「ああ。そうだな」
2人は彼らに背を向けることはなかった。
「行くぞ」
「はい」
2人はそれぞれカードをスキャンする。
『リアクター!』
『ナイト!』
『UFO!』
『マジシャン!』
「「オムニバスチェンジ!」」
そう言って外枠を回転させた。
『灼熱の騎士!リアクターナイト!』
『未確認の手品師!UFOマジシャン!』
「姿が変わった……!?」
「父さん!俺たちがアイツらをなんとかする!避難をお願い!」
誠はその言葉にハッとし、すぐに行動に移した。
「今日はみなさんが幸せになる日です。それを邪魔しないでください!」
莉乃はダークエイドヴァルキリーに殴り掛かって言う。
「幸せになる日だと?笑わせるな!少なくとも、お前にとっては最悪な日になる!!」
彼女は莉乃を吹き飛ばす。
「どういう意味ですか!」
「後でよくわかる!!」
ダークエイドヴァルキリーは莉乃に追撃を仕掛ける。
彼女はそれをバク転で回避する。
「お前は絶望する!!」
2人はハイキックでぶつかり合う。
「あなたの思い通りにはならない!」
『絢爛の狩人!ジュエルシャーク!』
「はあああっ!!」
ハイキックの体勢から莉乃は一気に体を動かして、左手のハンマーをダークエイドヴァルキリーに叩きつける。
「ぐっ……!!」
ダークエイドヴァルキリーは大きく後退する。
「そんなものは詭弁に過ぎない」
ダークエイドヴァルキリーはニヤリと笑った。
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『反射の毒蛇!ミラーコブラ!』
「はあああっ!!」
颯斗は巨大な蛇を操り、クリスマスツリーオミナスを絞めあげる。
「追加でこれもだ!」
言って指を鳴らせば、四方に鏡が現れ、光を反射させ、クリスマスツリーオミナスの目を眩ませる。
「ツリー……ッ!?」
「今度はこれだ!」
『磁力の百獣王!マグネットライオン!』
「はあああああっ!!」
ライオンのエフェクトを纏ったパンチをオミナスに入れる。
「私も手伝うよ!」
そう言って現れたのはアナザーヴァルキリーだった。
「サンキュー!」
「「はあああああっ!!」」
2人の同期キックにより、オミナスは吹き飛ばされた。
「これで決める!」
颯斗はチェンジャーを回転させる。
『マグネットライオン!フィニッシュ!』
颯斗はライオンのオーラを纏い、突進した。
颯斗の攻撃を受けたクリスマスツリーオミナスは爆散した。
「よし!」
そう言って颯斗が振り返った瞬間。
「がはぁ!」
アナザーヴァルキリーによって蹴り飛ばされた。
「……っ、どういうつもりだ……!」
「……………」
だが、アナザーヴァルキリーは答えない。
「……っ!」
颯斗はアナザーヴァルキリーの顔を見て、驚愕した。
普段は青い瞳が赤く光っていた。
「力が暴走してるのか……!?」
アナザーヴァルキリーは無言で殴り飛ばしてくる。
「ぐああっ!!」
颯斗は大きく吹き飛ばされた。
「クソ……ッ!今目を覚まさせてやる!」
颯斗はカードを取り出す。
「こっち使ってみるか!」
選んだ2枚をスキャンする。
『オーロラ!』
『Tレックス!』
「オムニバスチェンジ!」
『北極の暴君!オーロラレックス!』
オーロラの神秘的な雰囲気の中に、Tレックスの荒々しさを感じる衣装へと変わった。
「行くぜ」
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『蒼空の糸使い!ジェットスパイダー!』
『蒼空の暗黒糸使い!ダークジェットスパイダー!』
「「はああっ!!」」
互いに高速移動で激突し、糸を撃ち合う。
「エイドヴァルキリー!貴様はこの手で殺す!!」
「何故なんですか……!!何故そんなに私を憎むんですか!!」
『三つ首の土人形!クレイベロス!』
『三つ首の暗黒土人形!ダーククレイベロス!』
「お前が憎いからに決まっているだろうが!!」
ダークエイドヴァルキリーは黒いケルベロスを放つ。
莉乃も負けじとケルベロスを放った。
互いの攻撃は相殺しあった。
『絢爛の狩人!ジュエルシャーク!』
『絢爛の暗黒狩人!ダークジュエルシャーク!』
「「はああああっ!!」」
互いに腕のハンマーをぶつけ合い、反動で吹き飛び、互いにリアクターナイトフォームに戻る。
「これで決める!!」
「こちらもこれで終わらせます!!」
2人はチェンジャーの外枠を回転させる。
『リアクターナイト!』
『ダークリアクターナイト!』
『『フィニッシュ!』』
「「はああああああっ!!」」
互いの蹴りがぶつかり合う。
その蹴りはダークエイドヴァルキリーが打ち勝ち、莉乃を吹き飛ばした。
「ぐあああああっ!!」
莉乃は地面を転がる。
「これで終わりだ!!」
ダークエイドヴァルキリーが莉乃にトドメを刺そうとしたところ。
「そこまでにしておけ」
重厚な声が響いた。
「貴様は……」
「誰…ですか……!」
「これは失礼。申し遅れた。私の名はリット。ゲイルの仲間さ」
カメレオンのような怪人体のリットはそう言った。
「なんですって……!!」
莉乃はゆっくりと立ち上がる。
「コイツを殺したら意味がなくなる」
「だが!」
「何度も言わせるな」
リットはそう言って爪やすりで自身の爪をやすっている。
「さぁ、帰るぞ」
「わかった」
そう言って2人は姿を消した。
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「目を覚ませ!!」
そう言って颯斗はアナザーヴァルキリーと肉弾戦を繰り広げる。
「ふっ!!」
オーロラの光でアナザーヴァルキリーを拘束する。
「そりゃあ!!」
クルッと前方に回転し、尻尾を伸ばしたような感じで攻撃する。
「これで決める!」
颯斗はチェンジャーを回転させる。
『オーロラレックス!フィニッシュ!』
「はああああああっ!!」
颯斗はTレックスの顔のようなオーラを纏い、キックを放った。
それを受けたアナザーヴァルキリーは大きく吹き飛び、地面を転がった。
「……あ、あれ!?私は一体……」
「正気に戻った…みたいだな……」
颯斗は膝を着き、強制変身解除する。
「このフォーム、めちゃくちゃ体力使うな……」
「大丈夫ですか」
そこに莉乃も合流する。
「ああ、大丈夫だ。アナザーヴァルキリーも力を貸してくれたしな。暴走したけど」
「え?暴走ですか?」
「だよな?……って、居ないし」
だが、すでにそこにはアナザーヴァルキリーの姿はなかった。
「颯斗!莉乃ちゃん!」
誠が駆け寄ってくる。
「大丈夫だったか?」
「はい。氷室刑事こそ怪我はありませんか?」
「ああ」
「よかったです」
「それにしてもまさか2人が化け物と戦っていたとは……」
「黙っててごめん」
颯斗は謝罪する。
「いえ、彼を巻き込んでしまったのは私です」
「だから俺は巻き込まれたんじゃなくて巻き込まれに行ったんだって!」
「別に怒ってないから大丈夫だって」
誠は笑顔でそう言う。
「だが、これは母さんには内緒だな」
「うん!」
「それで氷室刑事。聞かせてください。あなたの推理を」
「……わかった」
誠は重い口を開いた。
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喫茶キトゥン。
「全く……」
そう呟いたのは薫だった。
その目の前には満が倒れていた。
「何をしているんですか!!!」
今までに見たことがないほど感情が荒ぶっている莉乃が現れた。
「もう来たのか?随分と早い到着だ」
「おばさん!!」
莉乃は満に近づく。
「莉乃…ちゃん……ごめんねぇ……」
「うるさい。お前はもう黙ってろ」
そう言って薫が指を鳴らすと、満は消滅した。
「おば…さん……?」
「何をしやがった!!」
「何って、邪魔になったから消した。特に面白みのない最期だったがな」
「やはり、お前が犯人だったんだな?」
「犯人?まぁ、一応そうなるか」
満がいた場所をじっと見ていた莉乃が声をあげる。
「あなたは…恩人じゃないんですか……?」
「はぁ……だったらこれで思い出せるか?」
そう言うと、薫はオーラを放つ。
そして、姿が変わる。
「カブトムシ……?うっ……!!」
莉乃はそれを見て頭を抑える。
そして、記憶が一気にフラッシュバックした。
「はぁはぁ……!!」
「莉乃!?大丈夫か!?」
颯斗はすぐさま駆け寄る。
「思い…出しました……!!」
「え?」
「あの日…私はお父さんとお母さんにいきなり連れ出されたんです。そして、あの山道を走っていて……それで……あの怪物が目の前に現れて、カーブを曲がりきれなくて……それで……!!」
「ようやく思い出したか」
薫はつまらなさそうに言う。
「それにしてもまさか一般の刑事如きに突き止められるとはな」
「これのおかげだ」
そう言って誠が提示したのはいつぞやの伝票の写真だった。
「ここに書かれている文字の筆跡が似てるなと思ったんだ。莉乃ちゃんのお父さんが書いたはずの遺書の文字とな」
「ふははははははははは!!」
薫は左手で顔を覆い、笑う。
「まさか、そんなことで気付かれるとは……」
「現職刑事を舐めるなよ?」
するとそこにダークエイドヴァルキリーが現れる。
「ダークエイドヴァルキリー!?」
「ここにいたんですね。“ゲイル様”」
「「……っ!?」」
「お前…まさか……!!」
「ああ。俺はゲイル。オミナスたちを統べる王だ」
「ふざけるなぁ!!」
『UFOマジシャン!』
颯斗は変身して殴りかかる。
その拳をダークエイドヴァルキリーが受け止める。
「ずっと俺らを騙してたのかよ!!」
「騙す?あはははは!騙される方が悪いに決まってるだろ?そ・れ・に!よかったじゃないか。戦う力を手に入れられて。俺の足元にも及ばないどころか、莉乃の持ってるチェンジャーの劣化版だがな」
「なっ!?」
「だから、お前はカードの組み合わせが固定なんだよ」
ダークエイドヴァルキリーは颯斗を弾く。
「くっ!……莉乃のことなんとも思ってねえのかよ!!」
「大事に思ってるさ?実験動物として」
「お前っ!!」
「哀れだよなぁ?亡き父親の願いだからってオムニバスになってさ?実際は父親はお前をオムニバスにさせまいと俺から逃げてたってのに!」
「なんだと!?」
「俺が書いた遺書に騙されてまんまとオムニバスになって!最高に面白かったぜ?」
「お前……っ!!」
「じゃあな」
そう言ってゲイルとダークエイドヴァルキリーは姿を消した。
莉乃はただ、呆然と座り込むだけだった。
To be continue……