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第18話 失ったもの、失いたくないもの


莉乃side


「…………………………」


クリスマスのあの日以来、お店は開いていない。

学校にも行っていない。

というより、行く気になれない。


「おばさん……」


あの日、私は信じていたもののほとんどを失った。

父の遺言は偽物で、おじさん、いや、ゲイルがその主犯で、おばさんも殺された。


「私は……」


これからどうすればいいのだろうか。

ふとベッドから起き上がって目に入ったのは、亡き両親との写真だった。


「お父さん……お母さん……どうすれば……」


私はどうすればいいんですか……?


─────────────────────────────────────


颯斗side


「莉乃……」


俺は未だに埋まらない隣の席を見ていた。

今日は終業式。

明日からは冬休みだ。


「そんなに心配なら家に行けばいいじゃないか」

「行ったさ。でも、ドアは開かなかった」

「そうか……」


公人もそれ以上踏み込むつもりはないらしい。

俺はあの事件の後、少しおかしいと感じたことがある。

それは満さんが殺害されたというのに事件は報道されていないことだ。

跡形もなく消えたからしょうがないのかもしれない。

だが、行方不明になった、みたいな感じで報道されてもおかしくないのに一切報道されていない。

裏に誰かがいる可能性が高い。

でも、俺にはそんなのを調べる力はない。

そこで現職復帰した父さんが動いてくれている。

父さんからは“お前のやるべきことをやれ”と言われた。

俺のやるべきこと……

それは莉乃を絶望から救うことだろう。


「もう一回行ってみるか」


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第三者side


颯斗は莉乃の家へと足を運んでいた。

彼はインターホンを鳴らす。


『……またあなたですか』

「ああ。また俺だ」

『帰ってください』

「悪いが帰るわけにはいかない。荷物も置いてあるしな」

『荷物、ですか……?そんなものを頼んだ覚えは……』

「……満さんからだ」

『おばさんから……?』

「ああ。差出人にそう書いてある」


颯斗は言ってインターホンのカメラに見せる。

すると、ガチャリとドアが開いた。


「……よぉ」

「……どうぞ」


莉乃は颯斗を家へと招き入れた。


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莉乃side


リビングに移動した颯斗君は私に荷物を差し出して。


「これ、荷物な」

「ありがとうございます……」


私は荷物を受け取り、床に座って開封する。


「マフラー……?」


私が取り出すと、ひらりと紙が落ちる。


「これは……」


私がそれを拾い上げるとそこには柔らかく丸い字で、“莉乃ちゃんへ”と書かれていた。

それを私は丁寧にその手紙を開封する。


『莉乃ちゃんへ

 遅くなりましたがクリスマスプレゼントです。ちょうど探しに行った時、1番早くてもこの日にしか届けられなかったので遅れました。ごめんなさい。

 いつも莉乃ちゃんはお店を手伝ってくれたり、オムニバスになって命懸けで戦ったりすごいと思います。私には到底真似できません。莉乃ちゃんを引き取って一緒に過ごした時間はとっても幸せでした。これからもよろしくお願いします。 満より』


手紙を読み終えると、数粒の涙が手紙に落ちる。


「私も幸せでした……っ!!おばさん……これからもよろしくって書くなら……死なないでくださいよ……私を1人にしないでくださいよ……!!」


溢れ出した涙は止め処なく流れる。


「莉乃……」

「もう…戦えません……私は…もう……」


私はマフラーをギュッと抱きしめてそう言う。


「莉乃」

「……聞きたくないです」

「莉乃!!」


颯斗君は私の肩を掴み、自分の方へと向ける。


「お前は何のために戦ってきたんだ!!」

「何の…ために……」

「よく思い出してみろ!!父親の残した願いを叶えるためか?動機はそうだったかもしれない、最初はそうだったかもしれない……でも、今は違うだろ!!」

「私は…私は……」


私は初めてオムニバスになった時のことを思い出す。


─────────────────────────────────────


2年前。

目覚めた私におじさんは父の遺書を見せてくれた。

そこには『オムニバスになって欲しい』という旨の文章が書かれていた。


「オムニバス……?何ですかそれは」

「大事なものを守る力だ」


おじさんはそう言ってオムニバスチェンジャーと2枚のアビリティカードを渡してきた。


「これは……」

「オムニバスチェンジャーとアビリティカードだ。このチェンジャーにカードをスキャンして、回転させれば変身できる」


私がおじさんから説明を受けていると。


「早速オミナスが現れたわ!」


おばさんがそう告げた。


「オミナス……?」

「君が戦う怪物の名前だ」

「莉乃ちゃん、戦ってくれる?無理にとは言わない。嫌なら嫌と言って?」

「……もし、私がオムニバスにならなければどうなるんですか?」


その言葉に2人は視線を逸らした。

その行動だけで私がならなければ、人々が、私の大切な人たちが苦しむのだとはっきりとわかった。

私はチェンジャーとアビリティカードを手に取って。


「私、なります。オムニバスに」


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「そう…でした……」


私がオムニバスになったのは、大切な人を…みんなを守るため。

ここで立ち止まっていては守れるものも守れない。


「颯斗君、ありがとうございます。私はもう、迷いません」


私のその言葉に颯斗は嬉しそうに笑った。

すると、颯斗君の携帯がなる。


「もしもし?俺だ。……ああ。ああ、何!?わかった、今すぐ行く」


そう言って颯斗君は電話を切った。


「どうかしたんですか?」

「公人から連絡だ。オミナスが現れた」

「わかりました。いきましょう」

「大丈夫なんだな?」

「はい。今を受け入れて前に進みます」

「わかった。ならこれを」


颯斗君は2枚のカードを渡してくる。


「ありがとうございます」

「行くぞ」

「はい」


私たちは現場へと向かった。


─────────────────────────────────────

第三者side


「「「きゃあああああっ!!」」」


2人が現着すれば、そこにはオミナスとダークエイドヴァルキリーがいた。


「あのオミナスは……イカですね」

「そうみたいだな」

「今日はお前も来たのか?」

「はい」

「フッ。ゲイル様に身内を殺されたくらいでメソメソ泣いていたやつが今更何の用だ」

「メソメソする時間は終わりました。私は前に進みます。颯斗君」

「ああ!」


2人はカードをスキャンする。


『オーロラ!』

『Tレックス!』


『ブラックホール!』

『フェニックス!』


「「オムニバスチェンジ!!」」


そう言ってチェンジャーの外枠を回転させた。


『北極の暴君!オーロラレックス!』

『暗黒の不死鳥!ブラックフェニックス!』


「イカは俺に任せろ」

「はい」


莉乃はダークエイドヴァルキリーに殴りかかった。


「はああああっ!!」


ダークエイドヴァルキリーは防御姿勢でそれを受ける。

が、莉乃のパンチ力が高く、地面は大きく凹む。


「ぐっ……!」

「はああっ!」


彼女の一瞬の隙を逃さず、莉乃は横っ腹に鋭い蹴りを放つ。


「ぐああっ!」


ダークエイドヴァルキリーは地面を転がる。


「クソッ……!!何なんだお前は!!」

「エイドヴァルキリー。それが私の名です」

「ふざけるな!!」


ダークエイドヴァルキリーは叫びながら、オムニバスブレードにカードをスキャンする。


『ケルベロス!』

『ケルベロス!ブースター!』


「はああっ!」


莉乃にオオカミの首が3つ襲いかかる。


「はああああっ!!」


莉乃は炎を纏ったパンチで2つは破壊し、もう一つはブラックホールを作り出し、消滅させた。


「何!?」

「これで終わりです!」


莉乃はブラックホールを作り出し、ダークエイドヴァルキリーと共に移動する。


「宇宙だと!?」


移動先は宇宙であった。

莉乃はチェンジャーを回転させる。


『ブラックフェニックス!フィニッシュ!』


大きなフェニックスの形をした炎を纏い、ダークエイドヴァルキリーに蹴りを放つ。

そして、ブラックホールに押し込んだ。


「ぐあああああっ!!」


無傷の莉乃とボロボロのダークエイドヴァルキリー。

地上の戻った2人は対照的であった。

莉乃がトドメを刺そうとダークエイドヴァルキリーに近寄る。


「おっと。そこまでだ」

「ゲイル……!!」


2人の間に割って入るようにゲイルが現れた。


「もう“おじさん”とは呼んでくれないのか?」

「黙れ」

「おぉ!言うようになったな?お前の相手は今度してやるよ」


そう言ってゲイルはダークエイドヴァルキリーを抱える。


「ダークエイドヴァルキリー、元気になったらまた肉じゃがでも作ってくれ」


彼女にそう声を掛け、ゲイルは姿を消した。


「逃げられましたか……」


それと同時に莉乃は膝をつく。


「はぁはぁ……このカード、力が強い分、消耗も激しいですね……」


莉乃は息絶え絶えだった。


─────────────────────────────────────


「イカ如きが俺に勝てると思うなよ!」


颯斗はイカの足を容易く捌いていた。


「ふっ!はっ!はあああっ!!」


颯斗のパンチやキック1つ1つにTレックスが噛み砕いているようなエフェクトがつく。


「ゲソなしイカの完成!」


颯斗はスクイッドオミナスの足を全て切った。


「これで決めるぜ?」


そう言ってチェンジャーを回転させる。


『オーロラレックス!フィニッシュ!』


「はああああっ!!」


Tレックスの顎のエフェクトを纏った蹴りでスクイッドオミナスを貫いた。

貫かれたスクイッドオミナスは爆散した。


「はぁはぁ……これ、ホントに消耗が激しいな……」


颯斗もまた息絶え絶えだった。


「私の出番…なかった……」


物陰からアナザーヴァルキリーは様子を見てそう呟いた。


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「本当にありがとうございました」


莉乃は頭を下げて礼を言う。


「いやいや!それに、まだ何かが残っている気がする」


そう言って颯斗は帰路に着く。

莉乃もそれに続く。


「と、言いますと?」

「俺と父さんの勘なんだけど、ゲイルはまだ全て語ってないような気がする」

「まだ何か隠されてるってこと?」

「その可能性は高い」

「きっと何とかなります」


莉乃の発言に颯斗は少し驚いた顔をする。


「どうかしたんですか?」

「君がそんな楽観的なことを言うなんて珍しいと思って」

「だって、私は颯斗君がいますから」

「……っ!?」


不意打ちを喰らい颯斗の顔は赤くなる。

そろそろ喫茶キトゥンに着くといったタイミング。

2人は足を止めた。


「あれは……颯斗君のお母さんですよね?」

「ああ。俺の母さんだな」

「何してるんですか?」

「何してるんだろうな」


すると京子はこちらに気付き、駆け寄る。


「莉乃ちゃん!莉乃ちゃんが学校に行ってる間、私がお店をやるわ!!」

「え?」

「「えええええええええええっ!?」」


           To be continue……


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