第三者side
「ガイタが死んだか」
ゲイルが呟く。
「マジで?」
「ああ。エイドハンターに倒された」
「エイドハンター……?」
聞き馴染みのない名前にヴィテレは首を傾げる。
「殺したと思ったら殺し損ねていた男だ」
「なるほど」
「だが、今回の戦いでよくわかった。アイツも完全には回復していない。なら、俺の方が有利だ」
「潰すつもり?」
「3人まとめて冥土に送ってやる」
ゲイルはニヤリを笑った。
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「ご飯、出来ましたよ」
莉乃がそう言えば、2人が食卓に着く。
「……肉じゃが」
「なんですか?嫌いですか?」
「いや、ちょっと懐かしくなっただけだよ」
透馬はそう言って椅子に座る。
「さぁ、冷めないうちに食べよ!」
「そうですね」
春香の言葉に莉乃も席に座る。
「「「いただきます」」」
透馬は肉じゃがを口に入れる。
「……っ!」
透馬は目を見開いて、食事する手が止まる。
「透馬?」
春香が声を掛けると、透馬は涙を流す。
「ちょっと!?何泣いてんのさ!」
「ごめん…もう2度と食べられないと思ってたから……」
涙声でそう言ってご飯を掻きこむ。
「透馬……」
「よかったです。同じ味を作ることが出来て」
莉乃は柔らかく微笑む。
「莉乃ぉ〜!」
透馬は立ち上がって莉乃を抱きしめる。
「ちょっ、な、なんですかいきなり!」
「もう2度と悲しい思いをさせたりしないから」
「お父さん……」
春香は2人を優しく見守っていた。
「それは分かりましたが、私がしばらく許すつもりはありませんからね」
「……はい」
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片付けを終え、お風呂にも入った後、莉乃はベランダいた。
「…………………」
「莉乃」
夜空見上げている莉乃に透馬が声を掛ける。
「なんですか?」
「莉乃に渡したいものがあるんだ」
「渡したいもの、ですか?」
透馬は頷き。1枚のカードを取り出す。
「これは……」
「27枚目のアビリティカード、オーディンだ」
「オーディン……」
「これは何のカードと組み合わせるんですか?」
「わからない。出力が高すぎてどれも拒否されるんだ」
「……何でそんなもの渡すんですか?」
「オムニバスの適性は莉乃が1番高いからだ」
「私を利用したいということですか」
「そういうわけじゃ……」
「いいですよ。元々私はオムニバスにやりがいを感じていましたし、世界を守るためです。オーディンカード、使いこなしてみせます」
莉乃はそう言って透馬からオーディンカードを受け取った。
「莉乃……」
「用はそれだけですか?」
「……ああ」
「そうですか」
会話が止まる。
「お風呂上がったよ〜!」
春香の声が聞こえてくる。
「……じゃあ、お風呂入ってくる」
「はい」
透馬はそう言ってその場を後にした。
「オーディンカード、ですか……」
莉乃は空に掲げながら呟いた。
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翌日。
「おはようございます」
「おはよう、七瀬さん」
公人は何か言いたそうに挨拶をする。
「何かが言いたそうですね」
「いや、そういうつもりじゃないけど……」
「なんですか?お父さんとの関係が気になってるんですか?」
「それは……」
「図星みたいですね」
莉乃はチラッと見れば、瑞稀や美香も彼女のことを窺っていた。
「はぁ…進展はありませんよ」
「そうなの?」
「ええ。仲が悪いわけではないので安心してください」
「なんだ〜!よかった〜!」
「てっきりずっとあのままかと思ってたわ」
「まぁ、それはそれとして許してはいませんよ」
「「「で、ですよね〜……」」」
先ほどまで笑顔だった3人は気まずそうに視線を逸らした。
「莉乃!おはよう」
「おはようございます、颯斗君」
颯斗は視線を逸らしている3人を不思議に思いながら席に着く。
「この前は悪かったな」
「え?」
「莉乃の親父さんなのにあんなに悪く言って……」
「いえ、気にしていません。それに悪いのは颯斗君ではなく、お父さんの方ですから」
「そう言ってくれると助かる」
颯斗は嬉しそうに笑った。
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放課後。
莉乃は帰宅し、キトゥンの手伝いを始めた。
「莉乃、いいって!俺がやる」
「なんでですか?」
「莉乃にはオーディンカードを使いこなして欲しいからな」
「そう、ですか……」
莉乃はそう答え、奥へと引いていった。
「今のは最悪ね」
「え?」
京子の言葉に透馬は首を傾げる。
「あなた、莉乃ちゃんのことちゃんと見ているの?」
「当たり前じゃないですか!莉乃は大事な娘ですよ!?」
「申し訳ないけど、私にはそうは見えない」
「え?」
透馬は気の抜けた声を出す。
「今のあなたは莉乃ちゃんを娘として見ているんじゃなくて、ゲイルを倒すための人材としてしか見ていない」
「そんなわけ……!」
「だったらなぜ、莉乃ちゃんにお店の手伝いをさせないの?」
「それは…今の2人じゃダークオムニバス…ゲイルには勝てないからで……」
「そうだとしても、3人で力を合わせるとか色々あるでしょう?」
「………………………」
京子の言葉に透馬は黙ってしまう。
「京子さん」
「莉乃ちゃん……」
呼びかけられ、振り返れば莉乃がいた。
「私は気にしていません。お父さんの言い分も分かります」
「でも……」
「今の私たちではゲイルに勝てないのは事実です。それに3人で協力してもお父さんは10分も戦えません。それだけの短時間で決着を着けられるとも思っていません」
「莉乃ちゃんが納得しているならいいのだけど……」
「では、私は特訓してきます」
莉乃はそう言って再び奥へと向かった。
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「ふぅ……今度はこれで行きますか」
莉乃は一息吐き、カードをスキャンする。
『オーディン!』
『ジェット!』
「オムニバスチェンジ!」
莉乃はチェンジャーを回転させる。
「きゃあっ!!」
しかし、変身は出来ずに吹き飛ばされる。
「これも…ダメですか……!!」
莉乃はそう言って弾き飛んだチェンジャーとカードを拾う。
「今度は……」
『オーディン!』
『フェニックス!』
「オムニバスチェンジ!」
しかし。
「きゃあっ!!」
変身できず、また吹き飛ばされる。
「はぁはぁ……!」
莉乃は諦めずに立ち上がる。
「オムニバスチェンジ!」
「オムニバスチェンジ!」
「オムニバスチェンジ!」
それから何度もカードの組み合わせを変えて挑戦するが、全て弾かれる。
そんな時、莉乃は走って行く颯斗と透馬を見た。
「颯斗君……?来てたんですね……」
莉乃はチェンジャーを拾い上げる。
「私も行かないと……」
莉乃は2人を追って走り出した。
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「ゲイル!!」
2人は一足早く現着していた。
「来たか。オムニバスども」
「当たり前だ。お前をぶっ倒さないといけないからな」
「フッ!フハハハハ!俺を倒す?とんだ夢物語だ」
「やってみないと分かりませんよ」
「「莉乃!?」」
莉乃の登場に2人は驚く。
「莉乃!お前……」
「すみません。まだです」
「じゃあなんで!」
「黙って見てられるわけないでしょう?」
莉乃は透馬にそう言って颯斗の隣に並ぶ。
「行きますよ」
「ああ!」
「仕方ない。短期決戦だ」
『ロボット!』
『ドラゴン!』
『フォートレス!』
『ユニコーン!』
『ライナー!』
『ホエール!』
「「「オムニバスチェンジ!」」」
『機械仕掛けの逆鱗!ロボドラゴン!』
『要塞の一角獣!フォートレスユニコーン!』
『定刻の巨獣!ライナーホエール!』
「はぁ…無駄な足掻きだ」
「はあああっ!!」
莉乃はバスターのブレードモードでゲイルに斬りかかる。
「ダークオムニバスチェンジ」
ゲイルはそう言うと同時にパンチを繰り出し、バスターを受け止める。
『暗黒の原子象!アトミックマンモス!』
「フン!!」
ゲイルは回し蹴りで莉乃を蹴り飛ばす。
「「はああああっ!!」」
颯斗と透馬はダブルパンチを繰り出す。
ゲイルはガードする素振りも見せずに、胸で受け止める。
「なに!?」
「俺には勝てない!!」
ゲイルはそう言って2人の腹部に手を当て、衝撃波を放つ。
「「ぐっ……!」」
2人は地面を擦って後退する。
「ほう?」
「この程度…屁でもない!」
そう言って透馬は鯨刻を取り出し、斬撃を放つ。
「全く……」
ゲイルはダークオムニバスブレードを取り出し、斬撃を弾き飛ばす。
「だったら!」
『スペリオルライナー!』
『スペリオルホエール!』
「オムニバスチェンジ!」
『定刻の超巨獣!ライナーホエール!スペリオル!』
「それはもう見た」
「はああああっ!!」
透馬は鯨刻を振り翳す。
ゲイルはバリアを展開し、攻撃を防ぐ。
しかし、バリアにヒビが入る。
「ほう?だが……」
透馬の変身が解除される。
「もう制限が……っ!!」
莉乃はカードをスキャンする。
『スパイダー!』
『バスターフィニッシュ!』
「はあっ!」
莉乃は糸を発射し、透馬を捕まえて自分の元へと引っ張る。
「ありがとう」
「気にしないでください」
莉乃はそれだけ言ってゲイルに立ち向かう。
「「はああっ!」」
颯斗はそれを見て息を完璧に合わせ、2人で徒手空拳でゲイルを攻める。
「その程度か?」
「はぁはぁ……」
颯斗は息が上がり、その場に膝を着き、変身が解除される。
「颯斗君!」
「大丈夫だ!」
颯斗の返事を聞き、莉乃はゲイルに集中する。
「残念だが、終わりだ」
「……っ!!」
ゲイルは莉乃の腹部に手を当てて。
『アトミックマンモス!フィニッシュ!』
「ぐああああっ!!」
莉乃は吹き飛ばされ、地面を転がり強制変身解除する。
「「莉乃っ!!」」
「お前達は俺には勝てない」
「私たちは…負けません……!!」
莉乃は立ちあがろうとする。
「春香さん…みのりちゃんに学校の友達…颯斗君、お母さん…お父さん……みんなが私を愛してくれています……!私は守りたいんです…私の大切なものを…愛するものを!!!だから…私は最後まで諦めません!!」
莉乃がそう言うと、体が輝き出す。
「な、なんだ!?」
「莉乃……?」
「うおおおおおおっ!!」
すると莉乃の体から光が分離し、長方形に変化する。
莉乃はそれを掴み取る。
「アビリティカード!?」
「なんだと!?」
莉乃はカードをスキャンする。
『アムール!』
『オーディン!』
「オムニバスチェンジ!」
莉乃はチェンジャーの外側を回転させる。
『博愛の超絶神!アムールオーディン!スペリオル!』
「なんだ!!なんなんだお前は!!」
「私はスペリオルエイドヴァルキリー!これが私の新たな力です!!」
そう言って莉乃はゲイルに飛びかかった。
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「ふん!!」
莉乃のパンチはゲイルの反応速度を超えていた。
「ぐああっ!!」
ゲイルは大きく吹き飛ばされる。
「あなたはもう、私には勝てない!」
「舐めるなぁ!!」
ゲイルは爆弾を放つ。
『オムニバスブレード!』
莉乃はオムニバスブレードを取り出し、更には左手をハンマーに変える。
「ふっ!はあっ!せやあっ!」
莉乃は爆弾を全て破壊する。
「まさか…アビリティカードの力を全て使えるのか!?」
「どうやらそのようですね」
莉乃はそう言って右手で半円を描く。
すると小型のジェット機が現れる。
「こんなのはどうです?」
指をパチンと鳴らすと、炎に包まれる。
「発進!」
そう言えば、ジェット機はゲイル目掛けて飛んでいく。
「くっ!ぐああっ!」
ゲイルはそれを避けきれずに喰らう。
「はああっ!」
莉乃はライオンのエフェクトと共に蹴りを入れ、更にはユニコーンのエフェクトと共にドリル状のエネルギーを纏ったパンチを放つ。
「ぐあああっ!!」
「ゲイル…あなたを倒す!」
莉乃はチェンジャーの外側を回転させる。
『アムールオーディン!スペリオルフィニッシュ!』
「はあああああっ!!」
莉乃はエネルギーを纏った蹴りを放つ。
「ぐあああああっ!!」
ゲイルは大きく吹き飛び、地面を転がる。
「ぐああああっ!!」
そして、爆発する。
「ぐっ、ぁ……!」
ゲイルは強制変身解除し、地面に倒れる。
そして、ダークオムニバスチェンジャーは砕け散った。
「倒した……!」
「すごい……!」
「クソっ…次はこうは行かないぞ!」
そう言ってゲイルは姿を消した。
それと同時に莉乃は変身解除した。
「あれ……?まだ5分くらいしか経っていないはずなんですが……」
「そのフォームは5分ほどしか維持できないみたいだな」
「なるほど。そういうことですか」
「やったな」
「はい」
颯斗と莉乃はクロスタッチした。
「じゃ、俺は帰るよ」
「お気をつけて」
「おう」
颯斗はそう言って去っていった。
「私たちも帰りましょう」
「そうだな」
2人は一緒に歩き出した。
To be continue……