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第21話 青い脅威対決

一方、空とアリスは、二人だけの戦場で大量の怪物たちに囲まれていた。周囲は荒れ果て、遠くにはムラトとエリザベスの戦いの余波がまだ残っているが、彼らが直面している脅威はそれとは別のものだった。数えきれないほどの化け物たちが、まるで夜の闇から湧き出るように現れ、空とアリスを追い詰めていた。


「これだけの数じゃあ、いくらなんでも無理だろ…!」空は手にしたピストルを握りしめ、周囲を警戒して呟いた。彼の目には少しの焦りが見えたが、それでも戦闘の経験からか、冷静に立ち回っていた。


アリスはその隣で、まるで戦闘を楽しんでいるかのような笑みを浮かべながら、握り拳に気を貯める。「まだ大丈夫よ、空。数が多いってことは、戦うチャンスも増えるってこと。」


空は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻した。「まあ、そうだな。でも、このままだとどんどん増えていくんじゃないか?」


アリスは短く笑った。「その通り。でも、それが問題じゃない。問題なのは、ここからどうやって突破するかよ。」


その言葉が終わると同時に、アリスは握り拳を真っ直ぐ伸ばした。エネルギーが辺りに満ち、空気を波打ちながら強烈な衝撃波を放つ。


「空、少しの間だけ耐えて!」アリスが叫び、次の瞬間、拳から放たれた強烈な衝撃波が、前方の怪物たちを一掃した。空気が怪物たちに突き抜け、連鎖的に大穴を開けた。


その瞬間、周囲の怪物たちの一部は粉々に吹き飛び、残りの者もその衝撃でひるんだ。空はその隙を見逃さず、一気に前方の怪物に発砲する。「アリス、もう一度だ!」


アリスは微笑みながらも、その頼もしい言葉を受けて、再び拳を構えた。「了解!」


今度は、アリスは一層の力を込めて拳を前方に突き出すと、再び衝撃波が発生し、空気を切り裂く音が響いた。前方の怪物たちが再び吹き飛び、その衝撃波に触れたものは無惨にも粉々になった。連鎖的に周囲の怪物たちも後退し、少しの間だけ戦況が有利に変わった。


「いい感じだ!」空はその瞬間を逃さず、次々に怪物たちをピストルで撃ち抜いていく。彼の冷静さと機動力が、アリスの力をうまく補完していた。


アリスは息を切らさずに戦いながら、空の動きを見守っていた。「空、君がそんなに速いとは思わなかったわ。あのタイミングで撃つとは、なかなかやるじゃない。」


空は少し照れくさそうに笑った。「お前の力に合わせて動かなきゃいけないからな。そうじゃないと、いつもみたいに巻き込まれる。」


アリスはその言葉に短く笑いながら、また周囲を見回した。だが、すぐにその笑みは消え、真剣な表情に戻った。「でも、どうやらもう一波来るみたいね。」


その言葉とともに、さらに多くの怪物たちが暗闇から現れ、二人を取り囲んでいった。今度は、前回のような隙を作るのは難しそうだ。


「どうする?」空は冷静に言った。ピストルの弾はまだいくつか残っているが、この数に対して十分かどうかは分からない。


アリスは少し考え込み、やがて目を見開いた。「もう一度、やるわよ。だけど、今度は全力で!」


その言葉に、空は一瞬、心配そうな顔を浮かべた。「お前、無理はしないでくれよ。」


アリスは微笑みながら、「心配しなくても大丈夫。これが最後よ。」と言って、両手を広げるようにして準備を整えた。彼女の体から溢れ出すエネルギーがさらに強大になり、周囲の空気が歪んでいった。


「アリス!」空は一歩後ろに下がりながら、彼女の力が放たれるのを見守った。


アリスは静かに深呼吸をし、全身にエネルギーを集める。次の瞬間、彼女はそのエネルギーを拳に込め、両手を力強く前方に突き出した。


「これで終わらせる!」


一瞬の静寂が訪れ、その後、強烈な衝撃波が再び放たれた。今度は前回のものとは比べ物にならないほどの規模で、巨大な衝撃波が周囲を一掃した。怪物たちはその波に飲み込まれ、いくつも消し飛び、残ったものも力尽きて倒れた。


その光景に、空は目を見開きながらも、アリスの力が収束するのを見守った。周囲が完全に静まり、ただ荒れた大地だけが残った。


「やったか…?」空は息を呑みながら言った。


アリスは大きく息を吐き、少し肩を落とした。「ああ、これで大丈夫。だいぶ体力を使ったけど、しばらくは平穏が戻るわ。」


その時、空の目が鋭くなった。「でも、まだ油断できないぞ。誰かが後ろにいる…!」


突然、複数の足音が聞こえた。空とアリスは瞬時に反応し、再び警戒の態勢に入った。空はピストルを構え、アリスもエネルギーを再び凝縮させようとするが、その前に、足音の主が姿を現した。


暗闇から浮かび上がるのは、戦場のどこかで見覚えのある二人の影だった。ドレスとトップハットの姿、衣装に装飾を纏い、ポニーテールが特徴の異質な存在。それは、ゆっくり歩み寄る影のように現れ、周囲の空気がひんやりと冷たくなる。


「エリザベス!?ムラト!?もう終わったの!?」


空は驚きの表情でその二人の姿を見つめた。周囲の荒れた景色と、無数の怪物たちが倒れた光景がまだ目に焼き付いている中、突如として現れた二人は、まるで戦場の中で異次元から来たような不気味さを漂わせていた。


エリザベスはその問いに一切答えることなく、冷たい視線を空に投げかけた。彼女の表情は普段通りだが、どこか鋭さを増したように感じられた。


ムラトはその後ろで、無言で刀を握りしめたまま立っていた。彼の鋭い目はすぐに戦場を見渡し、何かを探しているように動いている。その視線が一瞬、空とアリスに向けられると、まるで不審に思っているかのようだった。


「まだ、終わっていない。」ムラトが低く、しかし確信を持った声で言った。その言葉に、空は驚きと共に一歩後退した。


「え?どういうことだ?」空は尋ねるが、その言葉が出た瞬間、アリスが冷静に口を挟む。


「もしかして…君たちも来たのは、あの水色の少女のことか?」アリスは、ムラトとエリザベスの目をしっかりと見据えながら言った。


エリザベスがその言葉にわずかに反応し、ムラトが一瞬その問いに眉をひそめた。だが、二人の間に沈黙が流れると、ムラトはついに口を開いた。


「君たちも…あの子のことを知っているのか?」ムラトの言葉には、ただの疑問ではなく、確固たる警戒心が込められていた。


アリスは頷きながら冷徹な表情で言った。「ああ、確かに知っているわ。でも、今はそれどころじゃない。お前らがどうしてここに来たのかが問題だ。」


ムラトは一瞬黙り込むと、エリザベスに視線を移した。エリザベスは軽く肩をすくめ、無表情で答えた。「私たちはただ、君たちの背後に『何か』あるのではと思って来たのよ。」その言葉の裏には、隠しきれない警戒心と共に、まるで全てを見透かしているような冷徹さが感じられた。


空は少し考えるようにしてから、口を開く。「つまり、あの少女が…?」


アリスはその問いにすぐに反応し、再びエネルギーを手のひらに集めながら、周囲を警戒した。「分からない。だが、今は何かしらの動きがあることは確かだ。」


その瞬間、遠くから微かな音が響き渡る。それはまるで何か大きな存在が動き出すような音だった。空とアリス、そしてムラトとエリザベス、全員がその音に反応し、息を呑んだ。


「来るぞ。」ムラトがつぶやき、エリザベスも無表情で頷いた。


空とアリスは互いに視線を交わし、瞬時に次の行動を決める。あの少女が一体何者で、何をしようとしているのかは分からない。しかし、彼ら全員が感じ取ったのは、今、この場で何か大きな変化が訪れる予感だった。


戦場に漂う緊張感が再び高まる中、ムラトの言葉が響いた。「宣言しとく、5分で終わらせる。」その冷徹な口調に、エリザベスは微かに笑みを浮かべるも、すぐにその表情を引き締め、空とアリスに目を向けた。彼女の視線の奥には、何かを見据えるような鋭さが宿っていた。


空はその言葉に対して、無言でピストルを握り直した。アリスも手に集めたエネルギーをさらに圧縮し、周囲に漂う空気を変えようとした。彼ら全員が感じていたのは、この場で何かが決着を迎えようとしている予感だった。


その瞬間、遠くから微かな振動が地面を伝ってきた。空気が一瞬重くなり、暗闇の中からひときわ大きな影が現れる。何かが、また動き出したのだ。


「来たか…」ムラトが静かに呟き、エリザベスもその背後で周囲を見回しながら、警戒を強めた。


アリスは空に向かって言った。「準備はいい?」


空は短く頷き、「ああ、行くぞ。」と答えると、素早く前に進んだ。ピストルを構え、周囲の動きを見逃さないように注意を払う。アリスもその隣を歩き、エネルギーを高めながら、戦いの準備を整えていった。


そして、再びその大きな音が響き、暗闇の中から現れたのは、水色の少女だった。


その姿は、まるで闇の中から浮かび上がるかのように現れた。水色の髪が、暗い空気の中でひときわ鮮やかに揺れ、白いシャツがその姿を目立たせる。その少女は、まるで周囲の空気を支配しているかのように、どこか異次元から現れた存在のようだった。


「お前ら、ようやく来たわね。」水色の少女の声は、どこか冷たく、無感情に響いた。彼女の瞳は、エリザベスやムラト、そして空とアリスを一瞥するだけで、まるで彼らの存在など意に介していないかのようだった。


その瞬間、空気が一層重く感じられた。ムラトが鋭い視線を向け、刀を握り直す。その目は、この少女が単なる存在ではなく、何かもっと深い意味を持った存在であることを理解しているかのようだった。


「おいエリザベス、どうするんだ。最後の好物取っとけないぞ?」


エリザベスは冷たい微笑を浮かべ、ゆっくりと水色の少女に視線を向けた。その目には確かな警戒心が宿っており、ただの少女という印象は全くなかった。


「どうするって?」エリザベスはムラトの問いに淡々と答えた。「どうにもならないわよ。今は私たちの出番ってわけでもない。」彼女は少しだけ肩をすくめ、無表情で言った。


ムラトは無言で刀をしっかりと握りしめたまま、静かに周囲を見渡す。その動きから、彼女が今後の展開に備えていることが伝わってきた。エリザベスもその視線を受けて、ふっと息を吐いた。


「それにしても、あの少女…」ムラトはもう一度視線を戻し、冷徹な眼差しで水色の少女を見つめながら言った。「本当に、ただの少女じゃないようだな。」


その言葉に、アリスは少しだけ顔をしかめた。「確かに、ただの少女ではないわね。あの力、何者なんだろう。」彼女の目には、明らかにその少女がただの「敵」ではないという理解が深まった様子が見て取れた。


「何者でも、倒せるなら倒すまでよ。」空は冷静に、しかし力強く言った。ピストルの引き金を引き直す音が、戦場に響き渡った。彼の眼差しは鋭く、先ほどまでの焦りを感じさせることはない。


水色の少女は、何も答えずにただ彼らを見つめていた。その視線には、冷徹で無感情な印象が強く、まるで全てを見透かしているかのような空気を放っていた。


「お前らの力、無駄にするつもりはないわ。」水色の少女の声は、まるで氷のように冷たく響いた。その言葉が終わると同時に、周囲の空気が一層ひんやりとしたものに変わり、空気中の湿度が急激に下がるのを感じた。


ムラトは少し顔をしかめ、その場に足を踏みしめた。「力を無駄にするつもりはないって言っても、無駄になるのはそっちだ。」冷徹に言い放った後、刀を構える。その瞬間、彼の眼光は鋭く、まるで何もかもを切り裂くかのようだった。


空とアリスもその姿勢に続き、すぐに戦闘準備を整える。アリスは両手を広げ、再びその全身からエネルギーを解放し始めた。空はそのエネルギーを感じ取り、彼女の力が解き放たれる瞬間を見逃さずに構えを固めた。


水色の少女は、ゆっくりと一歩前に出る。その動きはまるで全てを見越したようで、彼女が踏み出すごとに地面がわずかにひび割れ、空気中の温度がさらに下がるのを感じた。


「それでも、結局…」水色の少女の冷たい声が戦場に響き渡る。「あなたたちがどうしても越えられないのは、私という壁。」その言葉とともに、彼女の周囲に暗いエネルギーが渦巻き始めた。


その瞬間、ムラトは一歩踏み出し、刀を一閃させる。彼の動きは無駄がなく、素早く鋭い。しかし、その刃が水色の少女に届く前に、空間が歪み、彼の前に巨大な障壁が現れる。ムラトの刀はその障壁に触れることなく、弾かれるように止まった。


「無駄だと言っただろう!」水色の少女の声が響く中、その障壁はさらに厚くなり、周囲の空気を圧迫するかのように圧力を増していった。


アリスはその動きを見て、目を細めた。「これは…想像以上に手強いわね。」


空はその言葉に答えず、ただ水色の少女を見据えた。彼のピストルが握られた手の中で微かに震えていたが、それでも決して手を緩めることはない。


「ハンデいる?それともなしか?」ムラトは再び冷徹な表情で水色の少女に視線を向ける。


水色の少女は静かに一歩踏み出し、目を細めて言った。「ハンデなんていらないわ。」  


その言葉と同時に、水色の少女の周囲から暗黒のエネルギーが溢れ出し、地面が振動し始めた。障壁はさらに強化され、彼女の存在がまるでその場の空間全てを支配しているかのようだった。


ムラトは障壁を前に一瞬動きを止めるが、すぐに冷静さを取り戻し、刀を構え直す。「なら、それ相応にやらせてもらう。」  


エリザベスはわずかに微笑を浮かべ、後方でムラトの動きを観察していた。「あまり無茶しないでね。面白い展開を台無しにするのは嫌いなの。」  


一方、アリスは少女が放つ強大なエネルギーを警戒しながら、空に指示を出した。「空、私があの障壁を壊すから、隙を作ったらすぐに撃って。」  


空は短く頷き、ピストルをしっかりと握り直す。「了解だ。ただ、あの力…どこまでやれるかは分からないぞ。」  


アリスはエネルギーをさらに集中させ、全身から眩い光を放ち始めた。その光が水色の少女の障壁を照らすと、少女はわずかに首を傾げた。「面白い。どこまで届くのか見てみよう。」  


アリスは全力で拳を突き出し、巨大なエネルギー波を放つ。その波が障壁に直撃し、激しい爆発音と共に光が弾けた。だが、障壁は揺らぐものの、完全に崩壊することはなかった。  


「やっぱり、普通の力じゃ無理ね…!」アリスは歯を食いしばりながらもう一度力を溜め始めた。  


その瞬間、ムラトが動いた。彼は高速で障壁に近づき、一瞬の隙をついて斬撃を放つ。刀の刃は障壁に食い込み、光が飛び散ったが、それでも完全には貫通しない。  


「やれやれ、強情な壁だ。」ムラトが一歩下がりながらつぶやく。  


エリザベスは口元に手を当てて笑い、「強情じゃなくて、完璧って言いたいんでしょ?」と軽く挑発するように言った。  


空は再びピストルを構え、アリスに向けて叫ぶ。「お前が隙を作れれば、あとはこっちでやる!」  


アリスは静かに頷き、再び拳に力を集め始めた。「今度こそ…!」  


その時、水色の少女が冷静に手を上げると、障壁が一瞬消えたかと思えば、代わりに彼女の周囲に複数の闇の触手が現れた。それらはまるで意思を持っているかのように動き、攻撃の準備を整えている。  


「なるほど、隙を狙うつもりね。でも、私が許すかしら?」少女は冷たく微笑むと、連射した弾丸が一斉に彼らに向かって襲いかかってきた。  


…《本気で行かせてもらう》


ムラトの声が静かに響いた瞬間、彼の刀が淡い光を帯び始める。その輝きは次第に強さを増し、周囲の闇を押し返すようだった。その光景に空は一瞬見惚れるが、すぐにピストルを再び構え直し、隙を見逃さない態勢を取る。


「ムラト、それ本気モード?」エリザベスが口元に笑みを浮かべながら問いかける。


「当たり前だ。あいつがただの障壁で済むわけがない。」ムラトの声は冷静だが、その言葉には決意がこもっている。


アリスは隣で肩を並べる空に目を向けた。「この二人が全力を出すなら、私たちも引き下がれないわね。」


「当然だ。」空は短く答えると、水色の少女に鋭い視線を送る。「それにしても、この状況でまだ余裕そうなのが気に入らないな。」


水色の少女は無表情のまま、全員を順に見回した。彼女の目には何の感情も浮かんでおらず、その静けさが逆に戦場の緊張感を一層高めている。「結局、どれだけ足掻いても同じよ。あなたたちは私を越えられない。」


その言葉とともに、彼女の背後に巨大な黒い翼のようなエネルギーが現れた。それは彼女の存在をより圧倒的に見せつけ、周囲の空気を凍りつかせる。


エリザベスはその姿を見て、微笑んだ。「ベータとは違う個体だね」


「アリス、俺たちは後方から援護だ。お前が力を溜めている間、奴を引き付ける。」空が低く指示を出しながら、アリスに向かって短く頷いた。


アリスはその提案を受け入れ、深呼吸をしてエネルギーを集中させる。「分かったわ。でも、無理はしないで。あの子、ただのエネルギー体じゃない…もっと何かがある。」


「そんなこと、考えてる暇はない。」空が言い放つと同時に、水色の少女が手をゆっくりと上げた。


「なら、終わらせてあげる。」彼女の声が冷たく響くと、周囲の闇が一斉に動き始めた。空気が渦を巻き、彼女の周囲を覆い尽くす。


ムラトは一瞬の隙を逃さず、障壁に向かって刀を振り下ろした。その一閃は障壁に直撃し、衝撃音とともにエネルギーが弾ける。しかし、障壁はわずかに揺れるだけで、破れる気配を見せなかった。


「やっぱりそう簡単にはいかないか。」ムラトは歯を食いしばりながら再び構え直す。


エリザベスはムラトの隣に並び、鋭い笑みを浮かべる。「なら、もう少し力を合わせるべきかしらね。」


アリスはその隙にエネルギーを解放し、空へと合図を送った。「空、今よ!」


空はピストルを水色の少女に向け、連続で引き金を引く。弾丸は正確に飛び、水色の少女の体へと向かっていくが、彼女はわずかに手を動かすだけで空気を操作し、弾丸を全て防ぎ切った。


「効かない。」水色の少女は冷たい声でそう呟く。


だが、その瞬間、ムラトとエリザベスが同時に動いた。ムラトの刀が障壁を切り裂こうとする一方、エリザベスは鋭いステップで少女の背後を取ろうとする。アリスのエネルギー波が後方から援護の形で撃ち込まれ、空が再びピストルを連射した。


その全ての攻撃が、一斉に少女へと迫る。


「これで決める!」全員の声が重なる瞬間――


「遠慮なく行かせてもらう。」ムラトの声が鋭く響き、彼女は障壁を破るべく再び一歩踏み出した。その刀先には、彼女自身の気を凝縮したような輝きが宿り、一撃で突破する気迫がみなぎっていた。


エリザベスはその様子を静かに見守りつつ、アリスと空に目を向けた。「あなたたちも準備しておいたほうがいいわ。あの子は…ただの脅威じゃない。おそらく、この場で全てを終わらせるつもりよ。」


空は緊張した面持ちで頷き、ピストルを構えた。「分かってる。でも、ムラトの力でどれだけやれるか…。俺たちも動かなきゃ、いつまで経っても進めないだろう。」


アリスはその言葉に短く頷きつつ、自分の中に残るエネルギーをさらに高めていく。「ええ。でも、あの少女の力、想像以上に厄介ね。ただの障壁じゃない…おそらく、私たちの攻撃を無効化する術がある」


エリザベスは冷ややかな笑みを浮かべた。「なら、それを崩す方法を見つけるだけよ。」


水色の少女はそんな三人の会話を一切気に留めることなく、ムラトの動きを注視していた。その瞳は、まるで敵の意図をすべて読み取るような鋭い輝きを放っていた。


「来なさい。」少女は小さな声で告げたが、その言葉は戦場全体に響き渡り、挑発と取れるほどの余裕を感じさせた。


ムラトは障壁の前で一瞬静止し、深い呼吸を整える。そして、次の瞬間―― 轟音とともに、彼の刀が障壁に叩き込まれた。


衝撃が周囲に波及し、地面が激しく揺れた。しかし、障壁はびくともしないどころか、そのエネルギーがムラトを押し返そうと逆流を始めた。


「やはり硬いか…!」ムラトは歯を食いしばりながら押し返されないように踏ん張る。


その隙を突くように、水色の少女は手を軽く動かした。障壁がさらに巨大化し、ムラトの動きを完全に封じ込めようとする。


「くっ…!」ムラトが声を漏らした瞬間、横からアリスのエネルギー弾が飛び込んだ。


「今よ、ムラト!私が隙を作る!」アリスが叫び、強力なエネルギー波を放つ。その衝撃は障壁に激突し、一部がわずかに揺らぐ。


「ナイス援護だ!」ムラトはその一瞬の隙を逃さず、全力で刀を振り下ろした。次の瞬間―― 障壁が裂けるようにひび割れ、激しい光が迸った。


空はその隙にすかさずピストルを構え、裂け目を狙い撃つ。「これでどうだ!」


弾丸が障壁の内部に命中し、水色の少女の防御が徐々に崩れ始める。しかし、彼女は全く動揺することなく冷静に呟いた。


「悪くないわ。でも…」その瞬間、彼女の体からさらに強烈な暗黒エネルギーが噴き出し、全てを押し返した。


「ぐあっ!」ムラト、アリス、そして空はその衝撃で後方へと吹き飛ばされる。


「次はあなたたちの番」水色の少女の冷たい声が響く中、彼女の周囲のエネルギーが螺旋を描き始めた。それは、まるで次の一撃で全てを終わらせるかのような威圧感を伴っていた。


空はふらつきながら立ち上がり、アリスに声をかけた。「アリス、大丈夫か?」


アリスは肩で息をしながらも、笑みを浮かべて頷いた。「イテテ……骨折れたかも」


ムラトは刀を地面に突き立てて体勢を立て直しながら、再び構えを取った。「足がどうだろうと、絶対壁をぶち壊す」


全員さっきの衝撃で骨折、動きが鈍くなっていたが、それでも戦意は失われていなかった。敵はその隙を見逃すはずもなく、敵のMP5から放たれる銃弾が空気を切り裂き、周囲に激しい音を響かせた。空はアリスを庇うように前に出て、素早く障害物の影に隠れた。


「くそっ、こっちはボロボロなのに容赦ないな!」


アリスは手元に落ちていた金属片を拾い上げ、眉をひそめた。


「物資が底をついた。弾薬もない、武器もほとんど役に立たない。どうする、空?」


空は荒い息を整えながら、瞬時に周囲を見渡した。状況は最悪だ。遮蔽物は徐々に崩れ、敵は執拗にこちらを狙ってくる。何とかして状況を打開しなければ、全滅は免れない。


その時、機関銃を射撃するような音が響き轟音とともに、車の音が遠くから近づいてきた。



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