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Extra Part. 人形姫の誓い

 王国からの追っ手との最後の戦いを乗り越えてから三ヶ月が経った初冬の夜。リュシアン王国の東の果て、誰も知らない山と湖に囲まれた小さな村で、イリスとヴァルトは新たな人生を始めていた。朝には村の長老から二人の結びつきを認める儀式が執り行われ、かつての箱入り令嬢と獣の執事は、今や正式な夫婦となった。人々の歓声と祝福の中、イリスは初めて公の場で「私は、私を生きる」と宣言し、そしてヴァルトは「もうお前は、俺の主じゃない」と告げた。二人が主従の関係を完全に脱ぎ捨て、対等な伴侶として歩み始めるこの夜、彼らの小さな家には、新たな契りを祝う温かな光が灯っていた。


「疲れた?思ったより長い儀式だったわね」


 イリスの声には、かつての冷たさはなく、温かな笑みが混じっていた。白銀の髪は花々で飾られ、肩まで伸びた髪の先は柔らかなカールを描いていた。淡いラベンダー色の瞳には、もはや人形の虚ろさはなく、生きる喜びと安らぎが宿っている。彼女は村人たちに贈られた白と青の結婚式用のドレスを着ていた。シンプルながらも美しい刺繍が施され、腰には祝福の意味を持つ銀の小さな鈴が付けられている。頬は興奮と幸せで薔薇色に染まり、かつての陶器のような白さとは違う健康的な輝きを持っていた。


「ああ...でも、良い疲れだ」


 ヴァルト・グレイハウンドは暖炉の前に立ち、火を強くしていた。深いグレーの髪は背中まで伸び、儀式用の銀の飾りが付けられている。琥珀色の瞳は柔らかな炎の光に照らされ、その中には穏やかな幸福が見て取れた。彼は村の伝統に則った獣人の結婚衣装を着ていた。深い青の上着と黒のズボン、腰には儀式で誓いを立てた短剣が下げられている。その腕には獣人の証である灰色の毛が薄く生え、もはや隠そうとはしていなかった。


 小さな家の居間はろうそくと暖炉の火で温かく照らされ、村人たちが持ち寄った花々と緑の枝で飾られていた。床には柔らかな毛皮が敷かれ、テーブルの上には祝いの食事と甘いワインが置かれている。窓からは湖と森を見下ろす景色が広がり、月の光が水面に反射して銀色の道を描いていた。


「今日の儀式で...私が言ったこと」イリスは少し照れながらも、まっすぐにヴァルトを見つめた。「本当よ。私は、私を生きる。そして...あなたを選ぶ」


 ヴァルトは暖炉から離れ、彼女に近づいた。彼の動きには、かつての緊張や警戒はなく、自然な優雅さがあった。「俺も本当のことを言った。もうお前は俺の主じゃない。お前は...俺の心だ」


 彼の言葉に、イリスの目に涙が浮かんだ。しかし、それは悲しみの涙ではなく、純粋な幸福の表れだった。彼女の手が伸び、彼の頬に触れる。


「不思議ね...人形と呼ばれていた私が、こんなに感情を持てるなんて」


 ヴァルトは彼女の手を取り、掌に唇を押し当てた。「お前はいつだって感情を持っていた。ただ...閉じ込められていただけだ」


 イリスは小さく微笑み、彼に寄り添った。「あなたが開いてくれたのね...私の心の箱を」


 彼は静かに頷き、彼女の腰に腕を回した。二人の体が自然に引き寄せられ、唇が触れ合う。最初は優しく、ためらいがちだったキスが、徐々に深まっていく。イリスの腕がヴァルトの首に回され、彼を引き寄せた。


「今夜は...」彼女は唇を離し、囁いた。「もう誰の目も気にしなくていいのね」


 ヴァルトは彼女の言葉の意味を理解し、小さく頷いた。「ああ...もう二人だけの時間だ」


 彼の手が彼女の髪に触れ、花々を一つずつ外し始めた。イリスも彼の髪飾りを優しく取り、長いグレーの髪が肩に流れ落ちるのを見つめる。一つ一つの所作に、かつての焦りはなく、むしろ時間をかけて互いを味わおうとする余裕があった。


「あなたの髪...綺麗ね」イリスの指が彼の髪を梳き、その感触を楽しんでいた。


 ヴァルトは微かに笑い、彼女の耳元で囁いた。「お前こそ...月の光のようだ」


 彼の言葉に、イリスの頬がさらに赤く染まった。彼女の手が彼の上着のボタンに触れ、一つずつ外し始める。ヴァルトの手も彼女のドレスのリボンをほどき、その結び目を丁寧に解いていく。


 上着が床に落ち、続いてドレスもそっと滑り落ちた。イリスの白い肌が暖炉の光に照らされ、かすかな影が踊るように見える。ヴァルトの筋肉質な上半身も露わになり、その肌に刻まれた無数の傷跡が物語を語りかけていた。


「毎回思うけど...」イリスの指が彼の胸の傷を辿る。「あなたは私のために、こんなにたくさんの痛みを引き受けてくれたのね」


 ヴァルトは彼女の手を取り、胸に押し当てた。「どの傷も...お前のためなら惜しくない」


 彼女は静かに微笑み、踊るように彼を導いて毛皮の敷かれた暖炉の前に移動した。暖かな火の前で、二人の影が壁に大きく映し出される。イリスの手がヴァルトの肩を押し、彼が毛皮の上に座るよう促した。


「今夜は...」彼女は決意を持って言った。「私が愛してあげる」


 その言葉に、ヴァルトの瞳が獣の色に変わり始めた。しかし、それはもはや恐れるべきものではなく、彼の本質の一部として二人の間に受け入れられていた。イリスはゆっくりと彼の前にひざまずき、彼の顔を両手で包み込んだ。


「ヴァルト...私の獣」彼女の声は感情に震えていた。「今日から、私はあなたの妻。そして...あなたは私の夫」


 その言葉の重みが、二人の間に静かに広がる。ヴァルトの手が彼女の髪を優しく撫で、その白銀の輝きに見入っていた。「イリス...俺の花」


 彼女は再び彼の唇を求め、今度はより情熱的なキスを交わした。彼女の舌が彼の口内に入り込み、積極的に彼を味わう。ヴァルトは驚きながらも、彼女の情熱に応え、彼女の体を引き寄せた。


 イリスの手が彼の胸から腹部へと移動し、最後のズボンのボタンに触れる。彼女の指が器用にそれを外し、彼の最後の衣服を取り除いた。ヴァルトの体が完全に裸になり、暖炉の火に照らされて力強い筋肉が浮かび上がる。


「あなたは...美しい」彼女は心から言った。


 彼は小さく笑い、彼女の下着の紐に触れた。「それは俺のセリフだ」


 彼の手が彼女の下着を丁寧に取り除き、イリスの体も完全に裸になった。成人儀式以来の成長と辺境での生活が、彼女の体にも刻まれていた。かつての箱入り令嬢の完璧な白さは影を潜め、代わりに生きた女性としての強さと柔らかさを兼ね備えた体になっていた。


「イリス...」ヴァルトの声が獣のように低くなった。「お前は本当に生きている」


 彼女は微笑み、彼の膝の上に座った。二人の体が密着し、肌と肌が触れ合う温もりに二人とも息を呑む。イリスの手が彼の首筋から肩へと移動し、その筋肉の動きを楽しむように撫でる。


「私を生かしてくれたのは...あなた」彼女は囁いた。


 彼女の言葉に、ヴァルトの心が熱くなった。彼の手が彼女の背中を辿り、腰から太ももへと移動する。イリスの体が彼の接触に反応し、小さく震える。


「今日から...」彼は彼女の耳元で囁いた。「俺たちは正式な夫婦だ」


 イリスは嬉しそうに頷き、彼の胸に頬を寄せた。「ずっと待っていたの...この日を」


 彼の唇が彼女の首筋に移動し、やさしくキスを落としていく。イリスの喉から小さな声が漏れ、彼の行為に体を預けた。彼の唇が彼女の胸に移り、丹念に愛撫し始める。彼女の指が彼の髪に絡まり、その感覚に浸っていた。


「ヴァルト...」彼女の声が切なく響いた。


 彼の手が彼女の太ももを撫で上げ、内側へと移動する。その指が彼女の秘所に触れると、イリスの体が弓なりになった。彼は彼女の反応を見ながら、指を優しく動かし始める。イリスの喘ぎ声が部屋に響き、彼女の体が彼のリズムに合わせて揺れる。


「あなたの指...暖かい」彼女は息を切らせながら言った。


 ヴァルトは微笑み、彼女の胸に唇を押し当てながら指の動きを続けた。イリスの体がさらに反応し、彼女の腰が無意識に動き始める。彼の指が彼女の中に入り、その熱と湿りを感じる。


「今日は...特別だ」彼は彼女の耳元で囁いた。「ゆっくりと...お前を味わいたい」


 イリスは小さく笑い、彼の頬に手を当てた。「私も...あなたを」


 彼女の言葉と共に、彼女の手が彼の腹部から下へと移動し、彼の硬くなった部分に触れた。ヴァルトの体が小さく震え、喉から低い唸り声が漏れる。彼女の指が彼を包み込み、優しく愛撫し始めた。


「イリス...」彼の声が震えた。「そんなに続けると...」


 彼女は小さく微笑み、彼の唇に軽くキスをした。「大丈夫...今夜は私たちのもの。急がなくていいわ」


 彼女の言葉に、ヴァルトは深く息を吐いた。彼の手が彼女の腰を掴み、彼女を持ち上げる。イリスは彼の意図を理解し、自らの体を彼の上に位置させた。彼の硬さが彼女の入り口に触れ、二人の目が合う。


「イリス...俺の妻」彼の言葉には、かつてない重みがあった。


「ヴァルト...私の夫」彼女も同じ感情を込めて答えた。


 ゆっくりと、イリスが彼の上に腰を下ろし始める。彼女の体が彼を迎え入れ、二人が完全に一つになった瞬間、二人の間に静かな感動が広がった。これまでにも幾度となく体を重ねてきたが、今夜は特別だった。それは単なる肉体の結合ではなく、魂の誓いの表現だった。


「動くわ...」イリスは小さく告げ、ゆっくりと腰を動かし始めた。


 ヴァルトの手が彼女の腰を支え、彼女の動きを導くように触れる。イリスの手が彼の肩に置かれ、バランスを取りながら彼の上で踊るように動く。二人の息遣いが混ざり合い、部屋に甘い音色が響き始めた。


「美しい...」ヴァルトは彼女の動きを見つめながら言った。「お前は女神のようだ」


 イリスの頬が熱くなり、彼の言葉に甘い恥じらいを感じた。しかし、彼女は目を逸らさず、むしろより情熱的に腰を動かし始めた。彼女の白銀の髪が月光を浴びて揺れ、まるで生きた銀のように輝いている。


 ヴァルトの手が彼女の背中から胸へと移動し、その柔らかさを優しく包み込んだ。イリスの喘ぎ声がさらに大きくなり、彼女の動きも次第に速くなっていく。彼の唇が彼女の首筋に移動し、鋭い歯で軽く噛みながらキスを落とした。


「ヴァルト...」彼女の声が熱を帯びていた。「もっと...」


 彼は彼女の願いを汲み取り、自らも腰を動かし始めた。二人のリズムが合わさり、より深く、より強く結ばれていく。イリスの体が弓なりになり、彼の名を呼ぶ声が部屋に満ちた。


「イリス...」彼もまた彼女の名を呼んだ。「俺の全て...」


 彼の言葉と行為に、イリスの中で何かが解き放たれていく。彼女の体から淡い光が漏れ始め、彼女の異能が愛の表現として放たれていく。部屋全体が青白い光に包まれ、二人の体が幻想的な輝きの中で踊るように見えた。


「愛してる...」彼女の言葉が光と共に放たれた。「あなたを生きる理由として...愛してる」


 ヴァルトの体も変化し始め、獣人の特徴が強まってくる。しかし、それは彼らの間の障壁ではなく、むしろ二人の絆を表すもう一つの表現だった。彼の手が彼女の体を強く抱き寄せ、二人の動きがさらに一体化していく。


「俺も愛している」彼は獣の声で答えた。「お前が俺に心を与えてくれた...」


 二人の動きが高まり、イリスの体が限界に近づいていることが分かる。彼女の光が強まり、部屋の隅々まで照らし出した。ヴァルトの体も完全に獣人の姿となり、その強さと優しさで彼女を抱きしめていた。


「もう...来るわ」イリスの声が震えた。「一緒に...」


「ああ...」ヴァルトは彼女をさらに強く抱きしめた。


 二人は同時に絶頂に達し、イリスの体から最も強い光の波が放たれた。それは彼女の異能の完全な解放であり、同時に彼女の感情の全てでもあった。ヴァルトの喉からも深い唸り声が漏れ、二人の体が震える。


 やがて光が収まり始め、二人はまだ繋がったまま、息を整えていった。イリスの体がヴァルトの上に倒れ込み、彼の胸に顔を埋める。彼の腕が彼女を優しく包み込み、安心感を与えた。


「凄かった...」しばらくして、イリスが小さな声で言った。「まるで...星になったみたい」


 ヴァルトは微笑み、彼女の髪に顔を埋めた。「お前は本当に星だ...俺の道を照らす」


 彼女は彼の胸で微笑み、指で彼の肌の模様を描き始めた。「今日からは...正式に夫婦ね」


「ああ」彼は静かに答えた。「もう誰も俺たちを引き離せない」


 イリスは顔を上げ、彼の目を見つめた。「私は宣言したわ...『私は、私を生きる』って」


「そして俺は答えた」ヴァルトも彼女の瞳を覗き込んだ。「『もうお前は、俺の主じゃない』と」


 二人は静かに微笑み合い、再び唇を重ねた。それは新たな誓いの証であり、これからの長い道のりの始まりだった。


「眠る?」ヴァルトが彼女の髪を優しく撫でながら尋ねた。


 イリスは首を横に振った。「もう少し...こうしていたい」


 彼は微笑み、彼女をさらに強く抱きしめた。「一晩中でも...一生でも」


 二人は暖炉の火を見つめながら、互いの温もりを感じていた。外では雪が降り始め、窓ガラスに小さな音を立てている。新しい季節と、新しい人生の始まりを告げるように。


 かつての箱入り令嬢と獣の執事は、もはやその名で呼ばれることはない。今、彼らはただのイリスとヴァルト。互いを選び、互いを愛する、一組の夫婦として。


「主従を超えて...」イリスは眠りに落ちる直前、小さく囁いた。


「共に歩む」ヴァルトはその言葉を継ぎ、彼女の額にキスをした。


 そして二人は、新たな誓いと共に、静かな眠りに落ちていった。


 ーーー Have a good rest ! ーーー

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