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第15話 二人の勇者!

 《数日前》


 馬車が揺れている。

 今まで馬車なんて乗ったことがなかった。

 それは当たり前だ、車があったから。

 馬なんてこっちの世界ではほとんどいなかった。

 もっとも、馬車をひいてるのは馬ではないが……


 「そういえば聞いてなかったな?君の名前は?」


 向かいに座っている顔が良い高校生くらいの奴から声をかけられた。


 「……ヒロユキ」


 特に昔から家族以外とそんなに話さないので少しぶっきらぼうな返事になるが気にしない。


 特に友達が欲しいとも思ったことは無いし、俺には兄さんが居たのでどうでも良かった。


 「俺はリュウトだ、よろしくな」


 握手を求められたのでとりあえずしておいた……馴れ馴れしいな。


 「それにしても驚いたよな、俺たち、勇者だってよ?俺、前の世界ではアニメイトに行ってたらトラックが突っ込んできたのまでは覚えてるんだけど……もしかして仮死状態で今夢?」


 別に求めてないのによく喋る子だ……


 「……」


 俺は雰囲気で話しかけて来ないでくれと意思表示をしたが__


 「そうか……確かに死ぬ前の事なんて思い出したく無いよな、すまん」


 まったく伝わっていなかった……


 「これからどうする?俺達は召喚されたけど魔王がいないからやる事がないらしいし」


 「……」


 魔王が居ないからやることが無い。


 それは事実だ、俺達が召喚されたのは【勇者】としての魔王を倒すと言う責務を果たすため……だがこの世界に魔王は居ないらしい。


 ____つまり、ただの平和な世界に俺達は召喚された。


 「やっぱりあの城で習ったみたいに《冒険者》になるのか?」


 「……」


 城での説明会の時、俺達2人は冒険者を進められた。

 何でも、知識がなくても付ける職業らしいし王宮からのバックアップもあるみたいだ。


 しかし……冒険者なんて危険な臭いがプンプンする職業より商人をして平和に暮らした方が良いだろう。


 なので__


 「……“最初は”冒険者になる」


 冒険者としては上にいかなくて良い……ただお金は必要なので最低限稼ぎ、知識を付けてから商人になろう。


 「ん?最初は?ま、まぁいいか、俺も冒険者になる!がんばるぞー!」


 「……」


 「あ、はは……もう一つ聞きたいことがある」


 「……?」


 先程までの軽い雰囲気とは違い、リュウトは真剣な目でコチラを見て来た……なんだ?


 「俺達とは別のもう1人の勇者のことだ」


 あの男物のパンツを来たTシャツ姿の無駄にエロい女の事か。


 「……何だ?」


 「その……えと……」


 「……?」


 自分から言って来たのに顔を赤らめて言葉に詰まっている。


 「言いにくいんだけど……その……」


 「……ハッキリ言え」


 「ヒ、ヒロユキはあの人の事好きじゃないよな!?」









 「………………………………は?」







 「そ、その……一目惚れって言うのかな?こう言うの初めてだから分からないけど……もう……好きなんだ!」


 「……」


 何を言ってるんだコイツは……そもそも一言も話してないだろ。

 それを好きになる……要素は今考えると確かにあった……


 俺が人生で見て来た中で一番の美人だ。


 だが不思議と彼女にはそんな感情は湧かなかった……今思い返せば謎の安心感や見慣れてるような感覚……なぜだろうか……


 「どうなんだ!もしもヒロユキも一目惚れしたのなら俺達は恋敵になってしまう!どうしても確認しときたい事なんだ!」


 「……落ち着け……俺はない」


 「ないって!?つまり好きじゃないって事だな!?」


 「……」


 「よし!後から好きになっても知らないからな!」


 「……あぁ、大丈夫だ」


 「よっしゃーーー!!!」


 本当はそれが聞きたかったのだろう。


 それからは特に話す事は無く、気が付いたらリュウトは寝ていた……


 このテンションだったら兄さんと息が合いそうだな……




 「……兄さん……」




 __________



 ______



 ____


 《クインズタウン》



 クインズタウンの雰囲気はまるでゲームの中に入ったかの様だ。


 八百屋の様にオープンで売っている果物は元の世界と似たような物もあるが、全く見たことも無い物も置いている。


 道行く人の中には鎧やら魔法使いのような服を着てる者もいる。


 さらに様々な魔物が町の中で馬車を引いてるのを見ると、やはり異世界なんだなと実感した。


 「すっげぇ……」


 「……あぁ」


 これにはリュウトの意見に同意だ。


 「とりあえずギルドだな?どうせ目的地が一緒だし一緒に行かないか?」


 「……あぁ」


 断る理由も特にないので周りのファンタジーな雰囲気を体感しながらリュウトと共に道なりを歩いていく。


 「お、ここか、それにしても看板に《クインズギルド》なんてそのまんまだなぁ」


 「……」


 そのまま両開きになっている西部劇に出てきそうなドアを開けると俺達に視線が一気に集まった。


 「こんにちはーどうもー」


 「……」


 良くこの状況で言えるなコイツ。


 視線を受けながらカウンターに歩いて行き、受付嬢の前まで来た。


 「えーっと、俺はリュウトって言うんですけど、こっちはヒロユキ……お城からここに来る様にと……」


 「あなた方が例のお二人様ですね?此方に通知は届いております、あちらの扉に入ってください」


 そう言われたので《関係者以外立ち入り禁止》と書いてある扉を開けると、中にはソファとデスクがあり中年のおじさんが待っていた。


 「ようこそ勇者さま、私はこの町のギルドマスターです。これが勇者様専用のギルドカードになります」


 そういって免許証サイズの黒い高級感漂うカードを渡してきた。


 「ギルドカードの説明はお城で受けましたか?」


 「はい、でも通貨となる数字が俺もヒロユキも書いてないみたいですが……」


 「良くぞ聞いてくれました、普通のギルドカードの場合、数字が書かれていてそれが通貨になるのですが、あなた達のカードの表記は《∞》!何でも買えるのでどうぞ使ってください!流石に家を何軒も買うなどそれを使って自分の店を開くなど行きすぎた事は出来ませんので悪しからず」


 「うへえぇ!?」


 リュウトのカードを持つ手が震えてる。


 それもそうだ、つまり俺達は今この瞬間からこの世界でこの国の大金持ちになった……これが城の時に言ってたバックアップの1つだろう。


 「それと勇者であることは絶対に秘密です、我々ギルドからしても国同士が戦争なんて望んでいませんのでくれぐれもお気をつけてください」


 「はい!」


 「……分かった」


 「では、素敵な冒険者ライフをお楽しみください」


 「ありがとうございました!」


 「……」


 俺も礼をして部屋を出る。


 呆気ないと思ったが……まぁ話が早く終わるのに越した事は無い。


 ギルドを出るとリュウトが今後について話してきた。


 「とりあえず俺はここら辺を探索してみて武器屋とか行ってみようかと思うけど、ヒロユキはどうする?」


 よほど異世界に来たのが嬉しいのかキラキラした目をしている……ついてきて欲しいのか?


 「……俺は宿を探す」


 なのであえて俺は武器屋に行く選択をしなかった……1人にさせてくれ。


 一緒に来ると思っていたのだろう、それを聞いたらリュウトはすこしガッカリしていた。


 「そ、そっか……短い間だったけどここで一旦お別れかな?」


 「……あぁ」


 「お互いにこの世界を楽しもうな!じゃあな!」


 そう言ってよほど楽しみにしていたのかリュウトは人ごみに消えて行った……一緒に宿屋を探す選択はしないのか……まぁ、助かったが。


 「……さて、と」


 俺もゆっくりと宿を探しに歩きだした______



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