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第86話 会ってみたい。


 「アオイ!?」



 ......気が付いた時には世界が逆さまになっていた......あぁ落ちたのか。


 不思議とすぐに状況を理解して受け入れるのも早かった。



 ......ここで死ねるのかな?自分で何度も死のうとしても呪いのせいで死ねなかった。


 もうこんな世界に興味ない。

 奴隷で自由を奪われ、飢餓しそうな思いをして。

 魔物に襲われ。

 人拐いに襲われ。

 唯一の友達、子供と言える様な存在を自分の手で料理させられ。


 何かを打開しよう。

 どうしたらこの状況から脱出できる。


 考えに考えに考えに考えに考えたが結果はこのザマだ。


 それならいっそ何も考えない方が気が楽になる......自分で考えない。



 そんなことをしていたら死ぬ間際だ。





 そっと目を閉じた......






 だが今回も死ななかった。






 モフッ......柔らかいクッションに落ちた感覚がして獣の臭いがする……


 獣の匂い...ヒロスケを思い出すな......


 そのままズルッと地面に落ちて目を開けた。


 「アオイ!!!逃げて!」


 空と共にみんなが心配そうに俺を見ている……


 そのまま横を見ると白い大きなウサギ、その前には赤いティラノサウルスが居る。



 あぁ、俺を殺すなら殺してくれ。



 だけど____



 「やれ!あーたん!遊びは終わりだ!本気で攻撃だ!」



 どこかで聞いたことあるような青年の声。



 その声と共に大きなウサギが赤いティラノサウルスの下顎から上へ蹴り飛ばした。


 ティラノサウルスの首があらぬ方向に曲がり宙返りし一撃で動かなくなった。



 「「ウオオオオオオオオオォ!」」


 《ななななんと言うことでしょう!途中観客が落ちるというトラブルに見回れながらも!それでも尚!圧倒的力を見せつけ!あーたんの勝利です!て!あ!》




 試合の終わりの合図が確認された瞬間、高いところから見下ろせる特別席から誰かが飛び降りる。



 かなり高い位置だ、着地したときにコロシアムの地面をえぐり砂煙が舞い、人影がこちらに近づいてきて____




 「久しぶり、かな?」




 イケメンの青年が手を差しのべてきた。


 「......」


 「やっぱり、アカネに聞いた通り、ただ事じゃないな」


 __________________



 ____________



 ______


 「大丈夫?アオイ」


 医務室で検査を受け、目立った外傷もなく医務室を出ると、アンナさんとイケメン君が待っていた。


 「......すいません」


 「謝ることないわよ、事故だしね、それよりこの人にお礼を言いなさい?」


 ……………俺は命令された通りにイケメン君に礼を言う。


 「......ありがとうございます」


 「大丈夫、当然の事をしたまで......ところで俺のこと覚えてない?」


 「......すいません」


 「ぐはっ......薄々感じてたけどやっぱりかぁ......」


 あからさまに肩をガックリおとす青年。


 「知り合いなのかしら?」


 「うーん、複雑な事情なんですけど、とりあえずここで話すのはまずいので今日の夜ここで」


 そう言って場所が書かれてるであろうメモ魔皮紙を俺へ差し出したが____


 「あら、ご丁寧に。でも断るわ」


 隣からアンナさんが取り上げる。


 「え!?」


 「当たり前でしょう?助けてくれたのはありがたいわ......けど私たちの状況からしたらアオイも知らない私もあなたを知らない状況、ここまで言ったら解るわよね?」


 「ぐ......確かに......アオイさんからしたらあの状況は自分の事で精一杯だったから俺の事覚えてないのは当然か......」


 「まぁ多少接点はありそうだけども、その感じじゃ知り合い程度ね、アオイ行くわよ」


 「......はい」


 アンナさんに付いていき立ち去ろうとするが次の言葉を聞いて俺は足を止めた。







 「“ヒロユキに相談してみるか......”」




 その名前は一緒に異世界に来た、俺の弟の名前。




 考えを止めてた脳が少し動き出す。




 錆び付いた小さな歯車が一つ動き出したみたいだ。





 「アオイ?どうしたの、行くわよ」


 「…………………」


 足が勝手に止まる。


 「アオイ?」




 会いたい......弟に......そして思い出した、確かあの人はヒロユキと一緒にいた人……



 記憶と共に歯車が一つずつ合わさってゆっくりと動く感覚がする。



 「......ぁ、う、あ......」



 「?」


 青年が離れていく......どうにかしないと!





 「......あの人……止め、て」





 アンナさんは驚いた顔をした後、納得した。


 「アンタまさか……解ったわ!ちょっとー待ちなさい!」


 そう言ってアンナさんは青年のところへ行く。


 「何でしょう?」


 「気が変わったのよ、条件付きならアオイと会ってもいいわよ」


 「ほんとですか!条件とは?」


 「此方が決めた場所と時間でお願いするって条件よ、もちろん、あなたの奢りでね?」


 「本当ですか!そんなことならお安いご用!任せてください」


 「あ、それともう一つあるわ」


 「はい?」


 「アンタのアールラビッツ、触らせてちょうだいね?」


 「良いですよ!あいつも喜びます」


 「決まりね、場所はナルノ町の表通りにある《ジョイピー》ってお店に明日の夜の九時集合よ」


 「分かりました、此方もそれで問題ないです」


 「じゃぁまた後でね?それと今回のナンパ成功して良かったわね」


 「え?」


 「じゃあね、イケメン君」






 そう言ってきょとんとしてるイケメンを後にとりあえず今日は宿に戻る事になった。






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