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第129話 一人の犠牲者!


 「一体どこから!?【ファイアードーム】!」


 ユキがすかさず魔法を発動させ豚の獣人に張り付いていた小さいブルゼ達を焼いていく、だが……遅かった。


 「……」


 髪の毛は全部引き抜かれ身体のあらゆる所が食い破られ、見るも無惨な姿に……


 先ほどの助けを呼ぶ声が最後だったのだろう……


 騒ぎを聞きつけて他の獣人達が来てその光景に息を飲む。


 「お、おい、嘘だろ……」


 声を震わせながら狸の獣人がフラフラと死骸に近づく……


 「おい、返事をしろよ、ネール……ネール!」


 どんなに話しかけてもネールと呼ばれる獣人は返事をしない。


 「お前、言ったじゃないか!将来料理勝負して勝った方がルクスと結婚するって!こんな.…こんな死に方あるかよ!カッコ悪すぎだ……だから!だから目を覚ませ!まだ死ぬな!おい!」


 そこに居る獣人達はそれぞれ涙を流す、仲間の死を……悲しむ、悔やむ。


 「ヒロユキさん……私達は少し離れましょう……」


 「……(コクリッ)」


 ユキ達と一緒にその場を離れる。


 その後、悲痛な叫びが俺たちの耳に届いた……


 再びユキ達とロビーに戻り、ユキが口を開く。


 「どうして、結界を展開しているのにも関わらず入ってきたのでしょう……」


 「……」


 たしかに、結界を張っている限り親玉以外は割れる様な攻撃力を持っていないはずだ、それがどうしてだ?


 「ミーが考えるに最初から居てそいつが何かで繁殖、それから襲った、もうひとつは……ないと思うけど誰かミー達の服とかにくっついててそれを招き入れてしまったか」


 「二個目は無いでしょう、一応ここに入る前に【ファイアードーム】で三人とも包みました」


 「ユキ姉貴のその【ファイアードーム】って名前からしてミクラルの魔法だよね、ミーはミクラル出身だけど聞いたことない魔法……どんな効果なの?」


 「あまり詳しくは教えれませんが、まだごく一部しか知らない魔法です、結界と似てますが結界と違いドーム状の中に入ってきた“対象”を焼きます、魔力によって威力や範囲は異なるんですが、私は昔から火の魔法と相性が良くてですね、本当は家にあるホコリとか小さなゴミを火事にならない程度に焼く魔法ですが……」


 「つまり、ユキ姉貴は小さいブルゼを対象にって事だね」


 「はい」


 「だとすると、最初から居てどこかで繁殖、でも繁殖の仕方がわからないね、何せミー達にとって新種のモンスター、あれで終わりなのかもしくはこの広い屋敷のどこかで……」


 そう、この世界の人たちならそう思うだろう。


 だが、俺はその生物を知っている。


 「…………野菜や腐った肉、糞とかがあれば何でも繁殖出来る」


 「アニキ?」


 待て?確か子供達がいる部屋は__


 「……子供達が危ない」


 「アニキ!?」


 「ヒロユキさん?」


 俺は急いで子供達の居る“食堂”へ行った。


 幸い、まだ何も起きていないようで、まだ獣人の先生達はさっきの所から帰ってきていない。


 子供達も落ち着いているので離れたのだろう。


 「おにーさん!ぎゅぅ!」


 「……」


 俺が入ってきた途端、金髪の女の子がまたくっついてきた。


 「おにーさん?」


 「……少し待っててくれ」


 「ん……わかった」


 それどころではないと察してくれたのだろう、すぐに離れてくれたので頭を少し撫でて俺は奥の“厨房”へ入った。


 「……気のせいならそれでいいんだが」


 「ヒロユキさん、もしかして」


 「……あぁ、俺の読みが正しければブルゼが繁殖してる」


 「分かりました、ファイアードームを展開します」



 ユキの周りからゆっくりとドームが広がり__


 「ヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴヴ!」



 業務用冷蔵庫を包んだ瞬間、中から大量のブルゼが羽ばたく音が聞こえてきた。


 「……やっぱり」


 「当たりみたいですね、繁殖してるのが解った以上魔力温存なんてしてる場合じゃありません、少し本気を出します」


 ユキがそういうとファイアードームは範囲を一気に広げていった。




 __数分後




 「ふぅ……終わりました」



 「……あぁ」


 ユキが終わったのを確認して冷蔵庫を開けると中には虫食いの野菜や肉がそのまま入っていた、それらを喰らい栄養にして繁殖していたのだろう。


 「良く分かりましたね、もう少し遅ければすぐそこに居る子供達に被害が及んでました」


 「流石アニキ、これは勘?それとも知ってたの?」


 「……こいつらは元の世界に居た」


 「?、アニキは何を言ってるの?」


 「ジュンパク、ヒロユキさんの事について今度ゆっくり話すので今は気にしないでください」


 「う、うん」



 「……」




 もう少し俺が早く気づいていれば……








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