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第156話 獣人でさえも魅了する!

 「はぁ…………………」


 ため息しかでない、あそこでやめとけば……やめとけば……


 「そ、その、アカネちゃん?こんなときもあるって」


 外に出て夜風に当たってる私をほくほくした顔で姫ちゃんは心配してくれる。

 姫ちゃんは相当プラスになったみたいだ。


 「私、才能ないんですかね……」


 「え、えと……ほら!途中までは勝ちまくってたじゃない!私より!」


 「途中までは……ね」


 そう、途中まではめちゃくちゃ勝っていたのだ、最初の5万は2倍になり。

 そこから色んなものに手を出してみたら勝ちに勝ち続けた、ルールもわからないカードを使ったやつに関しては良くわからないまま勝ってたのだ。


 しかし、なぜか、まったく勝てなくなった……そして気がつくとお金が無くなっていた。


 もしも、制限がなければ私はどこまでも突っ込んでいただろう……



 「私はもう少しだけしようと思うけどアカネちゃんはどうする?」


 「私はここで少し頭を冷やしながら待ってます、ひめちゃん行ってきていいよ?」


 「わかった!」


 そういって、ひめちゃんはまた扉を開けて賑やかな中に入っていった……




 扉がしまった私の周りは静かに私を慰めてくれた……


__________________


____________


______


 アカネを外に待機させ、姫は1人で賑やかなカジノの中を見ていく。


 「次が最後にしよ、アカネちゃんにあんまり待たせちゃ悪いから、えーっと」


 周囲を見渡せば、そこには先ほどまでとはまるで別の世界が広がっていた。

 ディーラーが一新され、昼間の雰囲気とは一転。


 「人間ねぇ……」


 ディーラーは全員人間のメス。

 その誰もが艶やかに肌を露出する服、挑発するように煌めく装飾品。

 ____そして、全員が共通して掲げる、自らの「番号」。

これこそが彼女らの身分であり、存在意義を示す印。


「……奴隷、ね……」


 姫は小さく呟いた。

 そう、これはただのディーラーではない。

 夜の帳の中で荒れ狂う者たちの欲望を、その身ひとつで受け止める役目を背負った者たち――まさしく、奴隷そのもの。


 だが、荒々しい夜の気配の中にあっても、そこに一際眩い輝きを放つ存在があった。


 ____それは、まるで天から降り立った天使のような人物だった。


 その黄金の髪は、光を纏ったかのようにきらめきながら滑らかに揺れる。

 一本一本が精巧に彫り上げられた工芸品のように美しく、隙なく整えられたその姿には一片の汚れも見当たらない。


 真珠のように白く輝く肌。

 そして、深淵の湖をそのまま切り取ったような青い瞳。

 その瞳がただ一瞬こちらを向くだけで、全ての者が吸い込まれ、種族を超えた恋に落ちるだろう。


 その存在感は言葉を超越しており、視界に入った瞬間、姫は意識すら奪われるように、その人物に見入っていた。


「……綺麗……」


その言葉は姫の心から自然と溢れたものだった。

その美しさに、ただ圧倒され、飲み込まれ、時間も場所も忘れたかのように――彼女はその人物から目を離せなかった。


 人間にここまで見惚れるのは初めてだ。


 「最後は……あの人のところで……」


 また、姫の唇から、思わずその言葉が零れた。

 まるで引力に引き寄せられるかのように、視線はその人物から離れない。


 その場の熱気や周囲の喧騒など、もはやどうでもよかった。ただ、その人を近くで見たい――それだけのために、席に着いた。


 近づくたびに、その人の美しさはさらに際立った。

光の加減で黄金の髪が織りなす輝きはまるで神聖な後光のようで、その姿を前にすれば、誰もが目を背けることなどできないだろう。


「お客様はこれで全員ですね、それでは、始めます」


その人が発した声。


瞬間――時が止まった。

透き通った高音は、空間全体を包み込み、姫の耳を優しく撫でる。

静謐な湖面に一滴の水が落ち、澄んだ響きが無限に広がっていくようなその声は、ただ聞くだけで心が落ち着き、同時にもっと聴きたいと渇望する甘美な響きだった。


声が放たれるたび、空気が震える。

周囲の喧噪も、他の音も、すべてが消え去り、姫の耳にはその声だけが届いた。


――ああ、なんて美しいのだろう。


姫の心は完全に奪われていた。その人物の一挙一動に、目も心も釘付けだった。

もはやゲームのルールも勝敗も、何もかもがどうでもよくなっていた。ただ――


もっと、この人の声を聞きたい。もっと、この人を近くで見ていたい。


その思いだけが、姫の胸の中で燃え上がっていた。


 「ほら、はやく始めろよ!」


隣から響いた荒々しい声に、姫は一瞬ビクリと肩を震わせた。

その声の主に目をやると、立派な角を生やした強面の獣人が座っていた。

その存在に今さら気付き、姫は内心で後悔の念を抱く。


――どうしてこんな相手の隣に座ってしまったのだろう。


この獣人については姫も噂を耳にしていた。

ここ一帯を仕切る《熊さん組》の一員で、力だけでなく凶暴さでも名を馳せる問題児。喧嘩や騒ぎを引き起こすのは日常茶飯事だという。


「では、賭け金をどうぞ。」


その瞬間、空気が張り詰めた。

周囲を見渡せば、テーブルに座るのは獣人ばかり、計5人。その全員が迷うことなく上限いっぱいの五万を机に叩きつけた。


――それが、この美しいディーラーの前では当然のように思える。


彼女の存在感はそれほどまでに圧倒的だった。

美しさが場を支配し、無意識のうちに「全てを賭けても良い」と錯覚させる。


「ルールは簡単です。今から僕がこのコインを弾きますので、表か裏を予想して当ててください。」


透き通った声が再び響き渡る。

そして彼女が取り出したのは一枚のコイン。そのコインを指先で摘む姿さえも、まるで舞台の上で踊るプリマドンナのようだった。

整った指先に挟まれたコインが、光を反射しながら静かに表と裏を晒していく。


「……表」「……裏」


賭けた者たちの目の前に、選択肢が浮かび上がった。

姫も含め、全員がそれぞれの直感を信じ、選択肢を決めた。


「では、行きます。」


その瞬間、再び空間が変わった。

彼女がコインを弾こうとするその動作――


なんて優雅で、美しいのだろうか。


流れるような指の動き。

弾かれたコインが宙を舞い、光を纏いながらくるくると回転するその光景さえ、まるで一幅の絵画のようだった。


その一瞬の動きだけで、姫を含む全員の目が奪われていた。

ただのゲームのはずなのに、まるで魔法をかけられたような錯覚を覚え――その美しさに酔いしれてしまう。


――彼女がコインを弾くその姿は、何度繰り返しても、どれほど見ても、言葉では足りないほど……ただただ、美しかった。


________________


____________


____30分後


「…………」


姫は気がつけば、連敗を重ね、自然と席を離れていた。

勝負そっちのけで、その美女を眺め続けてしまう……まるで引き寄せられるように。


席を見渡すと、次々に入れ替わるプレイヤーたち。

その速さに気付くと、姫は納得した。


――あの美しさを前にして、勝負などどうでもよくなってしまうのだ。


賭け事に身を投じる者たちは皆、己の本能を奪われ、ただ彼女の美に魅了される。だが、ギャンブルを楽しむ者に勝利を与えるはずの神も、勝つ意思を持たない者には微笑むはずもない。


そう、姫はそう理解した。

だがその考えを巡らせていた矢先__


「ふざけんなてめぇ!」


突如、怒号が場の空気を切り裂いた。


「っ!?」


姫は驚きのあまり息を飲んだ。

目を向けると、先ほど隣に座っていた強面の獣人__《熊さん組》の一員が、美女の机を激しく蹴り飛ばしていたのだ。


「な、なんですか!」

美女の美しい顔が一瞬にして驚きと困惑に染まる。


「何ですかじゃねぇ!人間がぁ!」


獣人の荒々しい声は、場の空気を完全に凍りつかせた。


獣人と人間。

この国で、両者の間には越えられない壁があり、人間は奴隷として扱われるのが常だった。


彼女がイカサマをしたのかどうか…。それは姫にはわからない。

だが、たとえ何が真実であろうと、この国の獣人たちにとって、それは関係のないことだった。


ただ一つ、姫が確信を持って言えることがある。


____彼女は、美しすぎたのだ。


その美しさは、この場において目立ちすぎる。

嫉妬、憎悪、偏見__彼女がその存在ひとつで、周囲の感情を暴き出し、場を支配してしまうほどの絶対的な美。






その美しさが、祝福であり、呪いでもあるのだと。






















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