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第164話 サーモンとお酒と、家族の時間

《19:00》


「さてっと、何しよっかな? 夜は!」


昼は焼き肉だったから、夜はちょっと軽いのがいいな。

……ていうか、焼肉にはお酒欲しかったなぁ……。


焼かれた肉汁がしたたり、炭に油が落ちてジュワッ!

――すこし早いかな?くらいの焼き加減で、まだ熱々のうちにパクッと……。


口の中で広がる、柔らかい肉と、噛むごとに舌をなでる脂の甘み。

そして、そこへお酒をキュッと……!


「お酒……ほしいぃ……のみたいぃ……」


(※ちなみに、ユキちゃんはお風呂中。)


「おかぁさん、いっしょはいろ~」って言われたけど、流石に誤魔化して遠慮した。


だって、身体は女でも心は男だし、何も知らない幼女の裸とか、色々アウトすぎる。

モグリ邸の子たちは幼稚園みたいな感覚だけど、ユキちゃんは……“お母さん”って言ってくれるから、余計に罪悪感出てくるんだよなぁ。


……まぁ、大人の女性の裸は……いや、ミクラルのアレは事故だし! 仕方ない! うん!!


そんなこんなで、今日の夜ご飯!


「うーんっと……お、これでいこ!」


冷魔蔵庫を覗くと、サーモンみたいなオレンジ色の身をした、脂ノリノリの切り身を発見!


「にしてもこの魚……なんだろ? すごい綺麗だ……」


てわけで!

昼は焼肉だったし、夜はさっぱりいこう!


「まず、この玉ねぎに似たやつを切りまーす!」


誰も聞いてないけど、テンション上げながらトントン。

ちなみに、名前知らないけど玉ねぎだから玉ねぎって呼ぶね!


「えーっと、その後に水に浸しときまーす!」


ボウルに水を張って、切った玉ねぎをぽちゃん。


「よし、その間にサーモンっぽい切り身を、お刺身みたいに……」


昔テレビで見たお寿司屋さんを思い出しながら、慎重に切り分ける。


「意外とうまくできたんちゃう?……とはソースだけど」


――そう、ここからが本番。


「普通ならオリーブオイルにレモン汁、ブラックペッパーだけど……」


え、なんでそんなに詳しいかって?


それは、俺が今から作るのが――

“お酒をより美味しくしてくれる、最高の料理”だからだッ!!!


____________


《19:20》


「わー! きれい!」


「ふふっ、食べ物に『きれい』って言うの、新鮮だね」


作った《カルパッチョ》を食卓に並べてたら、ユキちゃんが風呂上がりで現れた。


「ほう、《キルパッチョ》か。アバレーの居酒屋でよく見る料理じゃな。上手く出来ておる」


(あっ、微妙に名前違った……でもあるんだ、居酒屋! 行きてぇ、てぇてぇ!!)


「じゃぁ、食べよっか。ユキちゃん、座って?」


「うん!」


「「「いただきます!」」」


俺は箸でサーモンと玉ねぎを一緒に摘んで、口に運ぶ。


パクッ。


――口いっぱいに広がる、酸味の効いたオイル!

シャキッという音とともに、サーモンと玉ねぎが互いに引き立て合って、俺の脳に直撃!!


う、うまいッ……! テーレッテレー!!


……ただ、問題はユキちゃん。

もしかして、大人向けすぎたか?


「わー! おいしー! なにこれ! はじめてたべたー!」


「良かった♪」


バクバク食べるユキちゃん。

……うんうん、将来有望だよ、ユキちゃん。

いつか大人になったら、一緒に飲もうな! ハハッ、なーんて。


そんな中、じいさんが口を開く。


「良く出来ておる。そうじゃ、ひとつ頼みがあるんじゃが」


「?」


「――後で、同じものを作ってほしいのじゃ」


そう言いながら、

俺にしか見えない角度で、にやりと”お酒の瓶”を掲げるじいさん!!


「!!!! はい! 喜んで!」


(これはつまり……そういうことだよね!!)


____________


そして――。

ご飯も済ませ、21:00にユキちゃんは就寝。


俺はその後、じいさんと二次会をしながら、お酒をしっぽり楽しんだ。


ちなみに、あの魚は【ウーリーシャーク】っていう魔物の切り身だったらしい。


これが、この家の生活リズム。

――しばらく、みんなで、家族で、幸せな生活が続くだろう。


その日が来るまでは――。


____________


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