「……」
転移してきたヒロユキは目の前のドアが、開くのを待っている。
「……」
「……」
「……………………………………」
ガチャッ
「……開いた」
いくら待っても何も起きないので待てずにヒロユキはドアを開けると鍵はかかっていなかった。
「……行くか」
長い廊下を歩いて行き、部屋に入る。
「……甘い、匂い?」
入った瞬間にヒロユキの鼻に漂う蜂蜜の様な甘い匂い____そして
「……!?……ガ!……ハ!?」
ヒロユキは気分の悪さに倒れた。
「……助け……」
脳が揺れ、視界がかすみ、吐き気を催しながら手を伸ばし助けを求める。
「ふむ……」
コトッ、と何かを閉める音が聞こえると次第にヒロユキの身体は楽になっていく。
「……はぁ……はぁ……」
「『黒髑髏薔薇』と言っての、近くにある魔力を吸って花びらを増やす特殊な植物じゃ、その効果は魔力が高い奴ほど効き目が強力じゃ」
その植物のガラスケースのフタを被せたのはここの師範。
彼は倒れているヒロユキを坐禅をしながら浮いて見下ろす。
「……どう、して……」
「なぁに、ここに来るのは弱い奴じゃ、お前の様に強い奴が来る場所じゃないと身体に解らせておる……お主は自分の力で強さを見つけれる、ここでの修行は必要ない、立ち去れ」
「……修行しに来たんじゃない」
「ほう?何しに来たんだ?」
「……ジュンパクと言う人を探しに来た」
______10分後。
「兄貴!」
「……誰?」
「ええ!?ミーの事忘れちゃったの!?」
あれから師範はジュンパクの所へ行き、ヒロユキの事を話した。
それを聞いた瞬間、顔色を変えてすぐに会いにきたジュンパク。
「……」
ジュンパクの女の子の様な容姿の頭には白いウサギ耳がついていて、今は悲しんでるのと連動して垂れ下がってる。
「あ、兄貴ぃ」
うるうるとしてヒロユキを上目遣いで見る。
「……冗談、久しぶり」
「ひどいよぉ、兄貴!」
スリスリと頬を合わせてくるジュンパク。
1つ間違えればキスして来そうだ。
「……うっとうしい」
「ひどっ!」
「……」
「それで?どうしてここに来たの?兄貴」
「……パーティーメンバーを迎えに来ただけだ」
「え?」
「……」
ヒロユキのその言葉にジュンパクは泣きそうになる。
「い、いいの?」
「……そう言ってる」
ジュンパクはミクラルでブルゼに負け、片腕を失い重傷を負った。
奇跡的に一命を取り止めたが、その敗北は心を大きく抉っただろう……
「で、でもミー弱いよ?また足引っ張っちゃうかもよ……?」
「……弱くてもいい、一緒に強くなるのが仲間だ」
「なか……ま」
ジュンパクは二人に背を向け涙をぬぐって向きなおすが、それじゃ足りなかったようで涙と鼻水が溢れてくる。
「ぐえぇ……兄貴ぃ」
「……寄るな汚い」
「ひど!?」
「ホッホッホ……ジュンパク、お主はもっと強くなる、ここで修行をまたしたくなったら来るといい」
「……やけに話が早いな」
「引き止めはせん、元々ここに来るのも自由、去るのも自由じゃ」
「ここまで戦いかた教えてくれたのは感謝しとくね、師範」
「……こら、敬語」
「か、感謝します」
「ホッホッホ」
「師範、1つお願いがあります」
「なんじゃ?」
「男子寮代表オリバルと決着をつけさせて!」