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第230話 完璧な美しさは全て惑わせる!

 「な、なにこれ……」




 意識を失ったリュウト(仮)をズルズル引きずりながら、洞窟を出た瞬間――




 外、やばいことになってました。




 まず、雨。

 普通の雨じゃない。めっちゃ嵐。バッシャバシャ。視界ゼロ。

 しかも風もすごくて、髪ぶわぁぁ!!ってなる。前見えない!




 次に、なんかデカイ光の弾がビュンビュン飛んでる!

 ひとつひとつがヤバいサイズ。車ぐらいある。

 それが見えない壁みたいなバリアで弾かれて、空にシュワァァって散ってく。




 「うわ、なんか守られてるぅ〜ありがた〜い!」




 ……って安心してたら。




 ドォォォン!!




 「いや地面に来ることもあるんかい!!?」




 ひとつの光弾がバリアすり抜けて地面に落ちたら、爆発音+土煙+地面クレーターのコンボ炸裂。






 正直。


 目が点になりました。






 「何これ……戦争?今この世界、戦争してんの??」




 うん、あのね?


 誰か教えて。

 私、洞窟に監禁されてただけだよね?

 出た瞬間、魔法大戦争が始まってるのおかしくない!?



 「た、助けに来たんだよね?リュウト君って」


 今横で気絶してるリュウトを見る。


 「……」




 一か八か起こして見るか……?


 「でも、あの状態になってたら……」


 いやいやいや、まじでやばい雰囲気だったし!




 「それに……牙? 生えてるし」




 顔を近づけて、じーっと観察。

 よく見ると、口元から犬歯がニョキッと出てる。




 「お、おぉ……マジだ……」




 ちょんちょんと、恐る恐る触ってみる。




 「……かたい。ていうか、**牙!!**やっぱこれ牙!!」




 起こすか、起こさないか――

 アオイはその場で座り込んで、頭を抱える。




 「どうしよ……マジでこれ、誰か説明書とかないの……?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《アバレー女王専用司令室》




 「ふむ、やりよるな……人間」




 女王は自室の王座から、モニター越しに戦況を見つめていた。

 山亀の足を止めるという無謀な作戦。それを成功させてみせたユキたちに、静かな賞賛を送る。




 「今回ばかりは、人間を信じて正解じゃったようじゃの……」




 そのとき、魔通信が反応し、司令室に緊急連絡が飛び込んできた。




 {女王様!緊急事態が発生しました!}




 「なんじゃ、今が緊急事態じゃというのに、さらに重ねてくるのか」




 {お母様、姫です。すぐに来てください}




 「ふむ……」






 女王が司令室へ向かうと、すでに獣人たちが全員作業を止めてモニターを見上げていた。




 「お母様……あれが、例の……」




 画面の中央に映し出されていたのは――




 雨に濡れながら、静かに立つひとりの少女。




 獣耳、そして二本の尻尾。

 だが、それ以上に――




 「……美しい……」




 「……ええ……」



 それは、もはや“存在の美”などという凡庸な表現で語れるものではなかった。




 ――彼女は、立っているだけで世界を更新していた。




 空は嵐。雨は暴力。風は怒号。

 それら全てが荒れ狂う中で、彼女だけが“美”として存在していた。




 黄金の髪は、雨を弾かず――逆に雨粒を装飾品のように“魅せる”。

 濡れた服すら、汚れを知らず、自然と透けることもなく、完璧な美の輪郭を守る。




 顔立ちは、人類すべての理想を統合し、なお余りある圧倒的な均整。

 その笑みは、見た者の“生きる意味”を一瞬で再定義する。




 彼女を見るだけで悟りが開ける。


 彼女に触れると国家が滅びる(くらいの勢い)。


 彼女に見つめられると過去の罪が浄化される(気がする)。




 美しさ、可愛さ、優雅さ、神聖さ、妖艶さ、清らかさ、あざとさ、慈愛、孤高……

 あらゆる“愛され要素”が、圧縮されて“存在”という形になったもの。




 「ご報告……いたします。

 山亀の弱点を探していたところ、洞窟から現れた人影を拡大した結果……」




 アバレーの獣人騎士たちは、誰ひとりその存在を見逃さなかった。

 否――


 本能が、見逃させてくれなかった。




 「ハァ……ハァ……」




 「おいっ!そんな場合じゃないだろ!落ち着け!」




 だが、それが**“獣の本能”**というもの。


 極上の“メス”を前にして、欲を抑えるのは至難の業だった。




 「ど、どうしましょう……」




 「人間どもからは……何も報告がない。

 この状況を、もう一度よく考えてみるのじゃ」




 「……?」




 「山亀の内部から、あのような獣人が現れる。

 それが正常だと思うか?」




 「……た、確かに……」




 「つまり、あれは――

 山亀が我らを惑わすために作り出した幻覚かもしれぬ」




 その言葉に、騎士たちの顔に次々と納得の色が広がる。


 **“完璧すぎる”**という事実こそが、彼らの理性を納得させてしまった。




 「……そうか。俺たちは妖術にかかっていたのか」


 「そうだよな、あんなメスが現実にいるはずないもんな……」


 「あぶねぇ……マジでヨダレ垂れちまったぜ……」






 「そうじゃ。あれは我らを惑わす幻――」




 「【零式対山亀砲】の準備は整っておるか?」




 「はい!いつでも発射可能です!」




 女王はゆっくりと頷く。

 その横で、姫はただ唇を噛んでいた。




 彼女には分かっていた。


 ――あれは幻などではない。

 ――あれは“本物”だ。

 そして、女王が今からやろうとしていることも。






 「我らの目を奪う、あの幻覚に向けて――発射じゃ」






 その瞬間。




 アオイに向けて――【零式対山亀砲】が発射された。



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