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第279話 頭痛がする帰り道

 「「はぁ~……」」


 放課後、帰り道。

 俺とルカは見事にシンクロして、同時にため息をついた。


 「ルカ……どうしたの? ため息なんかついて」


 「お主こそ……なんじゃ、そのテンションの低さは」


 「僕はちょっと……頭痛が痛くて……」


 「それ、同じ意味なのじゃ」


 ぐぅの音も出ない。


 ……そう、俺はあのあと教室に戻ったけど、肝心の《酔い覚ましの薬》をもらい忘れてて――

 頭が割れるような痛みと、まぶたに砂袋ぶら下がってるレベルの眠気と、ずっと戦ってたわけよ。


 午後の授業? もう地獄だった。

 先生の声が子守唄にしか聞こえないし、ノートは知らぬ間にヒエログリフになってた。


 そりゃぁ、ため息も出るっちゅーの。トホホ……。


 「それで、ルカの方は?」


 「少し……昼休みに外ではしゃぎすぎたのじゃ……」


 ほう? 珍しいな。いつも昼休みはヨダレたらして爆睡してるのに?


 「疲れたね。帰ったらお風呂わかすよ」


 「うむ、わかったのじゃ。……そう言えば、お主はなんで頭が痛いんじゃ?」


 「……………………………………色々あってね?」


 「……なんなのじゃ、その妙な間は。まぁ、いいのじゃ」


 家に帰るまでの道で、市場を通る。

 いつも通りの、視線。

 うんうん、視線を感じてると思って見ると、絶対目が合って気まずくなる……それも、いつも通り。


 だけど――


 ズキズキとまだ残る頭痛と、もう一つ。

 いつもと違う風景が目に入った。


 「? なんだろ、あれ」


 「のじゃ? 噴水に人だかりがあるのじゃ」


 市場のすぐ脇にある、小さな公園。

 といっても、ブランコも滑り台もない、ベンチと噴水だけの場所。


 そこに、妙な人だかりができていた。


 「行ってみる? 見るだけならいいだろうし」


 「のじゃ、面白そうなのじゃ♪」


 あーわかる、なんか面白そうだよね、面白そうなことには、首を突っ込みたくなるじゃん?


 「すいませーん、よっと……あ、ありがとうございます」


 人だかりに声をかけると、なぜか周囲の人たちは俺たちを一目見て――

 ズズズ……と、一直線に道が開いた。


 ……いや、俺たち王族でもなけりゃ有名人でもないんだけど!?

 自然に譲ってくれればいいのに、なんか逆に目立って恥ずかしい!


 その先にいたのは――

 白い神父服を着た男。

 顔面蒼白、口には泡、噴水の縁に座り込んでいた。


 「な、なんでのじゃ……」


 隣のルカが、珍しく声をひそめて呟く。

 そして、その表情は――明らかに焦りだった。


 「知ってるの?」


 「知らない! 知らないのじゃ! だから早く帰るのじゃ! のじゃ!!」


 「ちょ、ちょっと!?」


 俺の言葉も聞かず、ルカは俺の腕をガッと掴むと、そのまま脱兎のごとく市場を抜け――

 まるで“逃げる”ように、家まで走った。




 ……一体、なんだったんだろ? 





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