{……起きたかい! 本当によかった……}
通信越しに聞こえたミカの声は、珍しく焦りをにじませていた。
「{……ごめん、油断してた。状況、どうだった?}」
俺の問いかけに、ミカも少し気持ちを落ち着かせたようだった。
いつもの冷静さが戻った声で、分析結果を語り始める。
{うむ。その前に、送ってもらった瓶の中身――あの霧を調べた結果から話すよ}
{あの霧……というか、その島の空気自体が“意志”を持っているようだ}
「{意志? 空気に?}」
{正確には、“すべてに魔力がある”って言ったほうがいいかな。吸うだけで魔力を補給できる、とんでもない島だよ}
{ただね……その魔力が体内を巡って脳にまで達した時、何が起こるかまでは誰にも分からない}
「{……魔力酔い、じゃ済まなそうだね}」
{そう。普通は魔力が切れたときにフラつくけど、ここは逆。常時補給され続ける状況だ。しかも、脳にまで魔力が影響するとしたら……}
「{――夢みたいな幻覚とか?}」
{……夢?}
「{うん。でも普通の夢じゃなかった。……あれ、感触も臭いも、全部リアルだった}」
{なるほど、納得がいく。魔力が脳に直接信号を送って、五感を“現実”と誤認させる。夢というより、魔法的なトリップに近い……}
「{……目覚めてよかったよ、ほんとに}」
{察するに、かなりストレスのかかる内容だったんだろう。目覚める直前、えづく音が聞こえた……もし、あれが“幸せな夢”だったなら――現実と勘違いして、一生戻ってこられなかったかもしれないね}
「{……え、あ……うん……}」
言えない……
夢で酒飲みすぎて吐いただけだったなんて……言えない。
「{それよりたまこさんは!?}」
霧の中を見渡すがたまこさんの気配がない!
{……残念ながら音を聞いていた感じは何も分からなかった、君の紋章で居場所はわからないのか?}
「{そうか!その手があった!}」
紋章のマップを発動させると自分の位置ともうひとつの緑のピンが立っている、これはここに到着する前に反映させた、たまこさんの位置。
「{居た!あれ?でもここって……}」
たまこさんの位置は“目標地点”にあったのだ。
{君が倒れた瞬間を狙ってレナノスという人物が影移動で連れ去ったと考えるのが妥当だろうね}
「{うん……でもたまこさんは死んでない、安心したぁ……}」
{安心?}
「{うん、だって殺してないし、僕だって倒れていたのに死んでない、これってつまり相手は僕達と話す気があるって事だよね?}」
{なるほど、そうなるか}
「{絶対そうだよ!となれば、夜に霧が晴れるのを__}」
{その必要はない、今完成したよ}
俺の視界から霧がどんどん晴れていく。
「{おぉ!}」
{その霧は空気が魔力を帯びてそれが見えている状態だ、ならばそれを見えなくすればいい}
「{ありがとう!……あー……これはたしかに普通にしてたら辿り着かないね}」
{?}
霧が晴れて見えてきたのは周りを囲む大量の【ウッドリーワンド】だった。
「{これじゃぁ、永遠と同じ場所をぐるぐるするわけだ}」
{そして、疲れて倒れた所や君みたいに幻覚を見ている者を養分にする、実に合理的だな}
「{ほんと、起きて良かったぁ}」
{それより、これから先は私の独断で通信をオープンにするけどいいね?}
「{うん、構わないよ}」
ちなみに通信オープンにすると特定の人以外にも周りにも聞こえるようになる、つまりスピーカーモードだ。
「さて、と、霧も晴れた事だし」
準備運動をしてっと……
「ゴー!」
俺はテンション高く神速で目的地まで走り出した。
なんかお酒飲んでないのに酔ってるような……気のせいか!幻覚だしね!