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第2話 出会い・2

 寮の部屋は右側と左側の奥にそれぞれベッドと、その足元に机があり入り口側に近くにクローゼットがある。窓の下、ベッドの脇にはそれぞれに小さな収納棚が置かれているようだ。入り口横に洗面所とトイレ、シャワールームがある。

 部屋の右側はすでにきちんとものが片づけられており、左側には僕の荷物が積んであった。同室の人は今はいない。僕は荷物を片づけ始める。荷物といっても、寮に持ち込む程度なのでそう多くはないから、さほど時間はかからないだろう。文房具や本などの机の周りから片づける。教科書は入学式の後に渡されることになっている。机の周りはすぐに終わった。次の箱は服だ。制服からハンガーに掛けていく。結構ものを詰めてしまったからしわになっていないか心配だったが、大丈夫だったようだ。次の服を掛けようとしたとき、ドアが開いた。人の声が大きく聞こえてびっくりした。


「あれ、来てたのか?」

「あの、同室になった方ですか。僕は夏目湊です。よろしくお願いします」

「あ、ああ。俺は栗林蓮だ、よろしくな」


 挨拶は済ませたので荷物の片づけに戻る。

 顔を見て二度びっくりした。すごい整った顔立ちの人だ。茶色の髪に青い目。純粋な日本人でないことはすぐに分かった。あまりにもカッコよすぎて萎縮してしまう。こんな綺麗な人と暮らしてたら自分が惨めになる。中学のときがあれだったので、高校では同室の人とくらいは仲良くしたかったけど、僕が仲良く出来る相手ではなさそうだ。嫌なことを思い出す。

 僕は服を片づけて、あとは小物を片づけるだけになった。栗林君は向かって右側のベッドに座り、じっとこちらを見ている。僕は何かしただろうか。何故見られているのか分からず、混乱する。緊張して手が震えてしまい、ものを落としてしまった。


「大丈夫か。拾うの手伝うよ」

「いいです。自分で出来ますから」

「そうか。ごめん。ていうか、お前荷物少ないんだな。俺は片づけるのに結構苦労したよ」

「そうですか」


 会話が終了した。

 僕は片づけ終わったので段ボールを畳んでクローゼットの隅に置く。


「ダンボール置き場ならホールの隅にあるぞ」

「いいんです」

「そうか」


 ダンボールはまた使う可能性もありそうだから取っておく。高校生活が上手くいくとは限らない。また中学の時のようなことが起きるなら、このダンボールも必要になるだろう。再びダンボールに荷物を詰めたところでいくあてはない。分かっているけど、処分してしまう勇気はなかった。

 ダンボールを片づけてしまったらする事がなくなった。いつもならベッドでくつろぐところだけれど、栗林君がいるのでベッドの方へはいきにくい。仕方なく、僕は机に向かう。勉強をするためじゃない。ただ距離を取りたかった。

 視線を感じる。

 まだ見ているっぽい。何でそんなに僕を見るんだ。僕の容姿がそんなに珍しいのか。僕はこう全体的に色素が薄い。髪も瞳もだ。純日本人なのにどちらも薄い茶色である。僕はそんな自分の容姿が大嫌いだった。小さな頃から奇異の目で見られてきたけれど、未だに慣れることは出来ない。


「なあ、湊」


 いきなりの名前呼び。昔を思い出すので、正直嫌だ。でも、嫌だとはいえず黙って背中を向けていた。この人、距離感おかしい。普通いきなり名前では呼ばないだろ。僕は何でしょうと返事をした。


「綺麗な髪の色だな。地毛か?」

「はい」

「さっきちらっと見たけど、目の色も薄いのな。もしかして、ハーフとか何かなのか?」

「違いますよ」


 僕の容姿に触れないでほしい。コンプレックスなんだから。ちょっとカッコいいと思ってしまったことを後悔した。ただ人の嫌な部分に踏み込んでくるだけの嫌なヤツじゃないか。こんな人と三年間一緒にいるのかと思うとぞっとする。この人も今は大人しいけど、いずれ牙を剥くんだ。この人はそういうタイプの、僕がよく知ってるタイプの人だ。

 ただ背中を向けているのも何なので本を開く。

 すると、足音が近づいてくる。部屋を出ていくのかと思いきや、僕の後ろで足を止めた。ふいに頭を撫でられて、僕は反射的にその手を思い切り振り払った。僕の髪に触れるとか何の嫌がらせだ。仕方なく、栗林君の方を向く。けれど、目が見られない。これでは挙動不審もいいところだ。


「なにするんですか、栗林君」

「ごめん、嫌だったか。ていうか、栗林君って何。蓮って呼んでくれよ」

「すいません」

「何がすいませんなんだよ。三年間同じ部屋なんだぞ。仲良くしようって」

「僕のことは気にしないでください」


 こういっておくのがいいだろうか。他に何をどういうべきかがさっぱり分からなかった。人付き合いは苦手なのだ。会話が成立しないといわれたことは一度や二度ではない。だから、高校生活も上手くやっていける気がしていない。クローゼットのダンボールを使う日も近いのではないかと思ってるくらいだ。僕が出ていけば、この人も気の合うルームメイトに恵まれることだろう。僕はどこへいっても邪魔なんだなあ。僕の居場所はどこにもない。

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