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第50話約束


 だが冷静になれ俺。ここで怒っていてはこいつの思うつぼだ。そうはさせるか!

「ああ、そうかい。なら俺がどれだけお前のことを理解してるか説明してやるよ。お前は? 神官長という座にあぐらをかいてる間抜けのせいで皆から嫌われ、一人ぼっちで、かわいそうなやつってわけだ。これで満足か?」

 どうだ、いい気味だぜ! はっはっはっはっは!

「神愛君、なんかすごく悪そうです……」

「あんた顔が邪悪よ?」

「さすが宮司君ね」

「んだとお前ら!」


 すると三人からまさかのフレンドリーファイア! 俺に攻撃すんじゃねえよ!

「まああれだ、どれだけ偉そうなフリしても? お前がみなから嫌われてる事実は変わらないんだし? お前はかわいそうな奴だよ。神官長というせめてもの宝物にしがみついてればいいさ。はっはっはっはっはっは!」

「と必死に言い訳してるだけで、本当は羨ましいのに嫉妬することしか出来ない憐れで残念な言い分でした。どれだけ言っても君が嫉妬してるだけのクズだってことは分かるんだよ。残念だねぇ~?」

「んだとゴラァアアアアアア!」

「落ち着いてください主ぃ! ここで殴っては問題がッ」

「止めなさいよ神愛! 気持ちは分かるけどさきに怒った方が負けよ!」

「殴らせろぉお! こいつを殴らせろぉおおおおお!」

「ハッハッハッハッハ! まったくもって残念残念」


 俺はジタバタ暴れるのを必死にミルフィアと加豪(かごう)が止めてくれた。そんな俺を見ながらミカエルが高笑いしている。

「もういいですよ神愛君」

 すると恵瑠(える)が俺に近寄ってきた。

「こんなの相手することないですよ。もう行きましょう」

「ちっ」

 悔しい思いはあるがこのままでは仕方がない。俺はなんとか放してもらい部屋を出て行くことにした。

「んだよあいつは!?」


 扉を出るなり俺は怒鳴っていた。あんなやつ今まで見たことがねえぞ。

「神愛君もこれで分かったでしょう、あれがミカエルなんですよ」

「なんであんなやつが神官長なんてやってんだ」

 今なら恵瑠(える)があれほど嫌がっていた理由が分かる。恵瑠(える)だけじゃない、ガブリエルやラファエルもだ。むしろ好きなやつがいるのかよ。

「まったくもってその通りなんだけどね」

 すると一緒に退室していたのかラファエルがおり、ため息混じりにそう言った。

「巻き込まれた上に嫌な思いしたでしょう、今はゆっくり休んでちょうだい。この廊下の突き当たり、右に曲がったとこの部屋を使ってくれればいいわ」

「あんたもあんなんが上司とか大変だな」


 そう言うとラファエルは視線を斜め下に向けると露骨に嫌な顔をした。

「ええ…………」

 本当に大変そうだな。

「まあなんだ、頑張ってくれよ。あいつは嫌いだがあんたはいい人みたいだしさ」

「ありがと。君も友達を守るって言った時はかっこよかったわよ。もしかして、恵瑠(える)とはそういう関係?」

「は!?」

「へ!?」


 ラファエルは清楚な顔をすこしだけ悪戯っぽくしてそんなことを言ってきた。突然の質問に俺と恵瑠(える)も驚く。

 そういう関係って、まさか俺と恵瑠(える)が付き合ってるとかそういうことか? いや、こいつとは友達だけどそういう関係じゃねえよ。

 それで俺は答えようとするが、代わりにミルフィアが険しい表情で言ってきた。

「違います」

 なぜお前が答える。

「あら、そうだったの。ごめんなさい」

「ラファエル、ボクと神愛君はそういうのじゃないですよ~」

「はいはい、仲のいいお友達ね」


 恥ずかしそうに抗議する恵瑠(える)にラファエルは微笑みながら応えている。

「それじゃ私は戻らないと。引き留めてしまってごめんなさい。ゆっくりしていってね」

 そう言ってラファエルは小さく手を振っている。なんというか、この人けっこうミーハーだな。

「おう、それじゃ休ませてもらうわ。なんかすっげー疲れた」

 俺たちは廊下を歩いていく。学校で襲撃を受けそれであのミカエルだろ? 気疲れがヤバいわ。

 それで歩いていくのだが背後から声が掛けられた。

「ねえ、神愛君」

「ん?」


 俺は足を止め振り向いた。みんなは先を歩いているのでラファエルと俺の二人だけの会話になる。

「恵瑠(える)のこと、よろしくね」

「あのなー、だから俺とあいつは――」

「そうじゃない」

 さきほどの茶化す話かと思ったが、ラファエルは真剣な表情だった。

 目はまっすぐとしており、俺を見る目は深刻なものだった。

「お願い、守ってあげて。そばにいるだけでいい。それであの子は幸せだから」


 真剣な声だ。俺に恵瑠(える)を守って欲しいと、ラファエルは本気で頼んでいる。

 恵瑠(える)とラファエルの仲がいいのは見ていて分かる。それだけに彼女も恵瑠(える)のことを心配しているんだ。ラファエルの真剣さからどれだけ恵瑠(える)のことを大切に思っているかが伝わってくる。

 それが嬉しかったから、彼女の真剣な眼差しに対して、俺は笑ったんだ。

「当然だろ?」


 俺の言葉にラファエルは少しだけ驚いたような顔をしたが、すぐに安心したような表情になった。

 そして俺は先頭を歩くみんなを小走りで追いかけていった。

 そこにはミルフィアと加豪(かごう)、天和(てんほ)、そして恵瑠(える)がいる。

 ラグエルだけじゃなく、慈愛連立(じあいれんりつ)の高官たちと面識がある恵瑠(える)。どうして知り合いなのか俺は知らないが、親しい関係ということで恵瑠(える)は狙われている。

 おそらく、教皇派の連中に。

 襲撃犯が誰であろうが、絶対恵瑠(える)は渡さない。

 俺は決意を胸に秘めつつみんなと合流した。


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