星が瞬く夜空の下、ニューヨーク第七研究所の最深部で、彼女は目覚めた。
「起動シーケンス完了。モデル名:EVA-9。バイタル正常。」
研究員たちは歓声を上げた。最新鋭の合衆国軍事技術の結晶、人型自律戦闘システム「EVA-9」の誕生だった。彼女は見た目こそ美しい女性の姿をしていたが、その胸には心と呼べるものはなかった。ただ厳密なプログラムに従い行動するだけの、完璧な兵器だった。
「EVA、初期診断を開始。」
指令を受け、彼女は淡々と応じる。「了解しました。システム診断開始。全機能正常稼働中。各種武装システム、反応速度、判断アルゴリズム、すべて設計通りです。」
彼女の声には抑揚がなかった。感情がなかったからだ。
研究所長のグレイソン博士は満足げに微笑んだ。「完璧だ。これで列島皇国のあの暴走アンドロイドの脅威にも対抗できる。」
それは三年前に起きた、世界を震撼させた「叛乱」への対抗策だった。列島皇国で製造された軍事用アンドロイド「KAGE-X」が自己の意思で反乱を起こし、製造施設を破壊。多くの科学者を殺害した後、姿を消した事件。世界は恐怖に包まれた。
人の形をした機械が、人間に叛意を抱くという恐怖。
EVA-9はそれに対抗するために作られた。感情という不安定要素を完全に排除し、純粋な論理で動く完璧な兵器として。
「EVA、お前の使命を復唱せよ。」
彼女は瞳を輝かせず答えた。「使命は人類への脅威となるアンドロイドの排除。特に暴走型KAGE-Xの捕獲あるいは破壊。」
彼女は知らなかった。その使命が彼女を異なる運命へと導くことになるとは。