「今日の獲物は君にき~めた!」
私は笑顔を浮かべながら、立派な体躯のS級ドラゴンに近づく。その大きさに比べれば、私は豆のように小さい。でもね、戦闘力を大きさで決めつけるのはダメ。そう、今日の無能冒険者のように。
目の前のドラゴンは「また、雑魚が来たか」と思ってるらしい。首を地面から上げることもせずに、のんびりと構えている。さあ、その身をもって思い知りなさい。考えが間違っていたことを。
「ふぅ」
大きく息を吐くと、ビキビキと音を立てて地面が悲鳴をあげる。軸足に力を入れると、クレーターができあがる。大きさは、ドラゴン一匹分。ようやく相手も、こちらの戦闘力に気づいたみたい。少しづつ後退りを始める。
「もしかして、いまさら力の差に気づいちゃった? 逃がすわけないでしょ!」
右足に力を込めて、一気に相手の懐に潜り込む。
ドラゴンは目標を見失ったのか、首を左右に振っている。その遅さは、見ていて欠伸が出そうになるわ。
「今日の無能冒険者その一。『俺、ドラゴンを一撃で討伐したぜ!』。私の目は欺けないわよ。あんた、瀕死回数、爆上がりじゃない」
一発、二発とドラゴンに拳を叩き込む。殴るたびに弱々しい悲鳴を上げる。
地面を蹴り、相手の翼を踏み台にして、さらに跳躍。そして、ドラゴンの顔を往復ビンタ。顔が原型を留めてないけど、知ったこっちゃない。
「あの冒険者、何回瀕死になったかしら。五回? なら、あんたは五発で片付ける」
トドメとして、かかと落としを一発。
ドラゴンは、巨体を揺らすとドスンと音を立てて地面に転がる。
「討伐成功ね。さて、次の無能冒険者はどんな奴かしら?」
近くにあった壁に拳を打ちつける。パキパキと音を立てると、何かが落ちた。それは、ドラゴンの鱗だった。
「あ、壁だと思ったらドラゴンだったのね。一回余分に殴っちゃった」
これは、ストレスの前払いとしましょう。さて、業務に戻りますか。無能冒険者という、モンスターよりも面倒な奴らの相手をするために。
――ギルドに戻ると、早速「無能冒険者その二」が待っていた。