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第5話 邪王との交渉



5-1:瘴気の王――邪王の復活


瘴気の源を破壊し、王国に青空と平穏を取り戻したパミリア。人々は彼女を「聖女」としてさらに崇め、感謝の声を上げていた。しかし、その平穏は長くは続かなかった。


数日後、再び王国の西方から「瘴気が発生している」との報告が届く。驚愕する王子と騎士団。そして、その知らせを受け取ったパミリアも、静かに目を閉じながら通信装置に問いかけた。


「テラ、瘴気の再発を確認して。もう一度スキャンを。」


《テラⅣ》:「了解しました……確認結果、以前と同じエネルギー反応を検出しました。しかし、今度はより強力な反応が観測されています。」


「より強力?」


パミリアの表情が険しくなる。瘴気の源を破壊したはずなのに、これ以上の強力な反応が発生するということは――。


「まさか……邪王がまだ完全には滅んでいなかった?」


その時、王城の広間に騒ぎが起きた。騎士たちが慌ただしく動き、王子がパミリアの元に駆け寄る。


「聖女様! 王国の空に……不吉な影が現れました!」


「影?」


パミリアはすぐに窓へと向かい、その視線の先――青空の彼方に、黒い雲が渦を巻くように広がっているのを目撃した。その雲の中心には、不気味な光が脈打ち、地上にまで黒い靄を垂れ流している。


「……間違いないわ。邪王が再び動き出した。」


王子が驚愕の表情を浮かべる。


「聖女様、邪王はあの時、あなたが討伐されたはずでは!?」


「そう思ったけど……どうやら、瘴気のコアが残されていたか、それとも別の手段で再生してしまったのかもしれない。」


パミリアは静かに呟き、杖を握りしめた。


「……今度こそ、邪王と直接対話しなければならないわ。」



---


黒き瘴気の空――邪王の宣戦布告


その直後、王都の空に響き渡る声があった。重低音と共に、城の壁を揺るがすほどの不気味な響き。


「人間どもよ……貴様らの抵抗もここまでだ。」


その声は、まるで世界全体に鳴り響くかのような威圧感を持ち、民衆は恐れおののき、地面にひれ伏す者もいた。


パミリアは冷静に空を見上げ、通信装置に指示を出す。


「テラ、あの声の発生源を探って。邪王がどこにいるのか特定して。」


《テラⅣ》:「声の発生源を追跡中……西の山岳地帯、以前の黒い城のさらに奥深くに巨大なエネルギー反応を検出しました。」


「やっぱり、そこね……。」


パミリアは王子に振り返り、強い視線で告げる。


「邪王が再び姿を現しました。私が直接、彼と対話してきます。」


「しかし、聖女様――!」


王子が慌てて止めようとするが、パミリアは手を挙げて彼の言葉を制する。


「王子、今ここで手をこまねいている時間はないの。このまま瘴気が広がれば、王国全土が飲み込まれてしまう。」


王子は唇を噛みしめ、拳を握る。そして、深く頷いた。


「分かりました……どうかご無事でお戻りください。」



---


再び黒い城へ――邪王の待つ場所


パミリアは《テラⅣ》に指示を出し、黒い城の奥へと単独で向かうことを決意する。馬車を使わず、瘴気が広がる中を進む彼女の姿は、王国の人々にとってまさに「神の使い」と映った。


「……この瘴気、前よりも濃いわね。」


パミリアは杖を握りしめ、超音波発生装置を低出力で起動しながら進んでいく。瘴気が薄れる場所を作りつつ、彼女はついに黒い城のさらに奥に広がる巨大な広間へと辿り着いた。


そこには、玉座に鎮座する邪王の姿があった。前回と異なり、その身体は以前よりも巨大に、そして禍々しく瘴気をまとっていた。


「また貴様か、天の使いよ。」


邪王がパミリアを見下ろし、嘲笑する。


「何度現れても無駄だ。我らはこの世界を瘴気で満たし、新たな王国を築くのだ。」


パミリアは冷ややかな視線で邪王を見つめ、杖を構えた。


「何度言わせるの? あなたのやり方は間違っているわ。」


「間違いだと? 我らが瘴気の中でしか生きられぬ種族だと知りながら、貴様はそれを否定するのか!」


邪王の声が広間に響き渡り、瘴気がうねるように彼の周囲を覆う。


「生きるために他を犠牲にする道を選ぶなら、私はそれを止めるわ。」


パミリアは静かに宣言した。



---


交渉――棲み分けの提案


邪王はパミリアの言葉に一瞬動きを止め、赤く光る瞳を細める。


「……止めるだと? ならばどうするというのだ。我らに滅びろと言うのか。」


「いいえ、そんなことは言わないわ。」


パミリアは静かに杖を下ろし、続ける。


「この世界には、あなたたちが生きられる場所があるわ。」


「何?」


「西の大陸――あそこには人が住んでいない土地が広がっている。そこなら瘴気に満ちた環境でも問題なく生きられるはずよ。」


邪王はしばらく黙り込んだ後、不敵に笑う。


「愚かな。あの地へ移住するなど現実的ではない。我らの数は膨大だ。その距離を移動する術などない。」


パミリアは微笑んで答えた。


「それなら心配いらないわ。私が転送してあげる。」


「……何?」


邪王の表情に僅かな驚愕が滲んだ瞬間、パミリアは《テラⅣ》に通信を送る。


「テラ、邪王とその民を西の大陸へ一瞬で転送して。」


《テラⅣ》:「了解しました。転送準備を開始します。」


邪王は初めて動揺し、その姿がわずかに揺らいだ。


「まさか……貴様、本当に神の力を持つというのか!?」


パミリアは自信に満ちた笑みを浮かべ、静かに答えた。


「神ではないけど、私にはやれることがあるのよ。」



5-2:棲み分けの提案――邪王の動揺


「転送だと……?」

邪王の目が赤く光り、不気味な声が広間に響く。広大な玉座の間には瘴気が立ち込め、その中心に鎮座する邪王の威圧感は、まるで空間そのものを支配しているかのようだった。


パミリアは冷静な表情を崩さずに、静かに邪王を見つめる。


「そうよ。あなたたち全員を、西の大陸へ転送してあげるわ。」


「……冗談を言うな。」


邪王は怒りのこもった声で否定するが、その声音にはわずかな動揺が滲んでいる。彼の背後で揺れる瘴気が、不安定にうごめいていた。


「貴様、人間ごときが何を言っている。そんなことができるはずがない。」


パミリアは唇の端を軽く上げ、杖を指で弾くようにしながら答える。


「できるかどうか、試してみる? 私の力、見せてあげましょうか?」


その挑発的な言葉に、邪王の表情が一瞬強張る。瘴気の濃度が高まり、周囲の空気が震える。邪王は苛立ちを抑えきれない様子で手を広げると、彼の背後の空間に大きな瘴気の渦が発生した。


「この力が見えぬか? 我が民は、この世界を瘴気で満たさねば生きられぬのだ! 転送だと? 貴様の戯言など信じられるものか!」


パミリアはその言葉を聞き流しながら、冷静に《テラⅣ》へ通信を送る。


「テラ、邪王が動揺しているわね。ここでひとつ、実演してあげましょう。」


《テラⅣ》:「了解しました。転送準備中――小規模なデモンストレーションを実施しますか?」


「ええ。邪王の目の前でね。」


パミリアは邪王に向き直り、挑戦的に告げる。


「じゃあ、証拠を見せてあげるわ。」



---


転送の実演――邪王の驚愕


パミリアが杖を掲げると、天井から淡い光の柱が降り注ぎ、広間の片隅にいた瘴気の中の一匹の魔獣が光に包まれる。


「何をするつもりだ!?」


邪王が警戒の声を上げた瞬間、光が一気に収束し、魔獣はその場から忽然と姿を消した。


「なっ……!?」


次の瞬間、《テラⅣ》からの通信が入る。


《テラⅣ》:「対象の魔獣を西の大陸の指定地点へ転送完了しました。」


パミリアは微笑みながら邪王を見つめ、静かに告げる。


「今のはほんの一部。あなたの民を転送することなんて、私には造作もないことよ。」


邪王の顔色がわずかに変わる。彼の威圧的な態度はまだ崩れていないが、その目には明らかな動揺が浮かんでいた。


「そんな馬鹿な……あれは何だ。魔法ではない、だが……どうやって?」


「それを知る必要はないわ。ただ、あなたたちの生きるための道はここにある――それだけよ。」


パミリアの言葉に邪王は再び黙り込む。



---


対立する信念――選択の時


「棲み分けなんて馬鹿げたことだ!」


邪王は再び声を荒げたが、その言葉には先ほどまでの自信は感じられなかった。


「我らはこの地で生まれ、この地で生きることしか知らぬ! 無人の大地だと? あんな遠い地に移住して何が変わる! 我らはここで生きるのだ!」


パミリアは眉をひそめ、ため息をつく。


「だから、転送するって言ってるでしょ? 距離なんて関係ないの。一瞬で済む話よ。」


「一瞬だと……?」


「そう。あなたたちは苦労することなく新しい大陸へ移住できる。そして、そこでなら瘴気に満ちた環境でも誰にも邪魔されることなく生きていけるわ。」


邪王は力強く椅子の肘掛けを掴み、睨みつけるようにパミリアを見た。


「何故そこまでして我らを救おうとする?」


その問いに、パミリアは静かに答える。


「救うだなんておこがましいわ。ただ――争いが無意味だからよ。」


「無意味だと?」


「あなたたちの瘴気が王国を脅かし、人々が苦しむ。でも、あなたたちにとっても、この世界を瘴気で満たすことは生きるための手段でしかない。お互いの存在を否定し合う必要はないわ。」


パミリアは一歩踏み出し、邪王に向かって真っ直ぐに言葉を続ける。


「棲み分ければいいの。あなたたちはあなたたちの生き方で、人間は人間の生き方で――それぞれが平和に暮らせる道を選ぶべきよ。」


邪王の赤い目が揺らぐ。その揺らぎは、彼の中で生まれた小さな迷いの証だった。


「……貴様、我らに同情でもしているのか。」


「違うわ。ただ、命は尊いものだから。」



---


邪王の決断――信じるか、否か


広間に沈黙が訪れる。邪王は椅子に座ったまま深く考え込み、彼の周囲にまとわりついていた瘴気が徐々に静まりつつあった。


パミリアはその姿を見つめながら、通信で《テラⅣ》に指示を出す。


「西の大陸への転送準備はどう?」


《テラⅣ》:「準備完了。あとは対象の同意があれば実行可能です。」


「……ふふ、これで詰みね。」


パミリアは邪王に視線を戻す。


「あなたが選びなさい。ここで無意味な戦いを続けて滅びるか、それとも新たな地で生きるか――。」


邪王は長い間黙り込み、やがて低い声で答えた。


「……我らに、本当に “新たな地” があるというのなら――それを信じてみるとしよう。」


その言葉に、パミリアは微笑んだ。


「賢明な判断ね。」


邪王は立ち上がり、巨大な身体をゆっくりと動かしながら言葉を続けた。


「だが貴様に裏切りがあれば、その時は――覚悟しておけ。」


「分かってるわ。その覚悟があるからこそ、ここまで来たんだから。」



---


《テラⅣ》:「転送開始準備――対象全個体のエネルギーロックを開始します。」


瘴気に満ちた城の広間が再び光に包まれ、邪王とその民を西の大陸へ転送する時が迫っていた。




5-3:転送への準備――決断の時


パミリアの提案――「西の大陸への転送」。それは、邪王にとって到底信じがたい言葉だった。彼の瞳は赤く光り、その視線には疑念と怒り、そしてわずかな恐れが入り交じっている。


「転送だと……? お前のその戯言、信じるに値しない!」


玉座に鎮座する邪王は、その巨大な身体を揺らしながら吠えるように言った。彼の周囲にはなおも瘴気が渦巻いており、その濃密な気配は今にも広間を飲み込んでしまいそうだった。


「私がここで嘘をついて、何の意味があるの?」


パミリアは冷静に答えながら、聖女の杖を握りしめ、邪王を真っ直ぐに見据えた。


「あなたたちの生存と、この世界の平和――それを両立させる唯一の道が棲み分けなの。西の大陸なら、あなたたちは瘴気に満ちた環境で誰にも邪魔されることなく暮らせる。」


「……それができるというのか。」


邪王の声にわずかな揺らぎが生じた。しかし、すぐに彼はその表情を険しくし、怒鳴るように言い放つ。


「だが我らはここで生まれ、ここで生きてきたのだ! 遠くの地に移住しろだと? 民族を捨て、故郷を捨てろと貴様は言うのか!」


「捨てるんじゃない。新しい未来を手に入れるのよ。」


パミリアの言葉には確固たる自信があった。彼女は一歩前に出ると、邪王に向かって毅然と告げる。


「あなたたちは、この地で人間たちと争い、瘴気をばら撒いて生きるしか道がないと思っている。でも、それは違う。あなたたちには別の場所があり、別の生き方ができるの。」


「……!」


邪王の瞳が揺れる。彼の背後の瘴気は、まるで彼自身の心情を反映するかのように不安定にうごめき始めた。



---


転送の準備――小さな実演


「証拠を見せるわ。」


パミリアは通信装置に軽く触れながら、静かに《テラⅣ》へと指示を出す。


「テラ、邪王の民の一部をデモンストレーションとして西の大陸に転送して。」


《テラⅣ》:「了解しました。小規模転送を実行します。」


その言葉が終わると同時に、広間の隅にいた瘴気に覆われた小さな魔獣が突如として光に包まれる。


「な、何だ!?」


邪王が驚愕の声を上げる中、魔獣はまばゆい光に飲み込まれ、次の瞬間、完全にその場から姿を消した。


「……!?」


邪王は目を見開き、広間の空間を見回す。光が完全に消えた後、そこには何も残っていない。ただ、先ほどまで魔獣がいた場所にぽっかりと空間が残されているだけだった。


「今、あなたの民の一部を西の大陸に送り届けたわ。」


パミリアは淡々と告げ、杖を静かに下ろす。


「信じられないなら、今すぐ確認してみればいいわ。」


邪王の表情には驚きと疑念が入り混じり、彼の周囲に漂う瘴気がわずかに弱まった。


「……これは何の魔法だ。貴様、一体何者なのだ……。」


「魔法じゃないわ。ただの “技術” よ。」


パミリアはそう言いながら微笑んだ。邪王に対して真っ直ぐに立ち続け、その威圧感にまったく屈することはなかった。



---


民の安否――邪王の決断


その時、邪王の周囲に漂う瘴気の一部が渦巻き始め、異様な空間が作り出された。そして、そこから邪王の使い魔と思しき者が姿を現す。


「……王よ、西の大陸に転送された者が、無事に到着したと報告を。」


その言葉に邪王の目が見開かれた。彼は立ち上がり、民の報告を静かに聞いた後、視線をパミリアへと戻す。


「本当に……我らを移動させたというのか。」


「ええ。だから言ったでしょ? あなたたちは新しい場所で生きていけるのよ。」


邪王の表情からは、これまでの傲慢さや敵意が少しずつ薄れ始めていた。その代わりに、決断を迫られた者の苦悩と重圧が浮かんでいる。


「貴様の言葉が真実ならば……我らは、これ以上争う理由はないのかもしれぬ。」


「もちろんよ。」


パミリアは柔らかく微笑みながら言葉を続ける。


「あなたたちが新たな地で生き、ここで人間たちが安心して暮らせる。それが “平和” というものじゃない?」


邪王は長い間、何も言わずにパミリアを見つめ続けた。そして、ようやく彼の口から静かな言葉が紡ぎ出された。


「……分かった。我らは貴様の言葉を信じよう。」


その一言が広間全体に響き渡り、空気が一変する。邪王の周囲に漂っていた瘴気がゆっくりと引き、黒い城に静寂が訪れた。



---


転送の実行――未来への第一歩


パミリアは再び通信装置に触れ、《テラⅣ》に最後の指示を出した。


「テラ、邪王とその民全員を西の大陸へ転送して。」


《テラⅣ》:「了解しました。大規模転送を開始します。」


邪王とその民たちが光に包まれ、その姿がゆっくりと消えていく。邪王は最後にパミリアを見つめ、重々しい声で言葉を残した。


「貴様の力、そして言葉――我らは決して忘れぬ。」


「あなたたちが新しい地で幸せに生きられることを願っているわ。」


光が収束し、邪王とその民たちは完全に転送された。黒い城にはもう瘴気も、敵意も、邪王の姿も残っていない。ただ静かな空間と、パミリアがひとり立つ姿だけがそこにあった。


「……やっと終わったわね。」


パミリアは深く息をつき、空を見上げる。その向こうには晴れ渡った青空が広がり、まるでこの世界が新たな未来を祝福しているかのようだった。




5-4:王国との別れ――聖女の旅立ち


邪王とその民を西の大陸へ送り、世界に平和をもたらしたパミリアは、静かに王城へ戻った。澄んだ青空が広がり、かつて瘴気に覆われていた王国は、まるで生まれ変わったかのような穏やかな光景を見せていた。


城下町には人々が集まり、笑顔で互いの無事を喜び合っている。涙を流しながら抱き合う家族、子供たちの無邪気な笑い声――すべてがパミリアの目には新鮮に映った。


王城の広間では、王国中の人々が集まり、パミリアの前にひざまずいていた。王と王子、そして騎士団が整列し、その顔には感謝と敬意が浮かんでいる。


王はゆっくりと進み出て、深々と頭を下げた。


「聖女様、あなたのおかげでこの王国は救われました。我らはその奇跡を、決して忘れはしません。」


「……私がしたことなんて、大したことじゃありません。」


パミリアは柔らかく微笑みながら答えた。だがその謙虚な言葉を聞いて、王はさらに深く頭を下げた。


「いいえ、あなたはこの国にとって神の使い――いいや、それ以上の存在でございます。」


王の言葉に、周囲の人々も一斉に声を上げる。


「聖女様、ありがとうございました!」

「どうか、私たちをお見捨てにならないで!」


人々の涙交じりの声に、パミリアの心が少しだけ揺れた。――彼らは本当に、自分のことを信じ、慕っているのだ。それが「嘘」に近いものであっても、彼女は彼らにとっての希望そのものだった。



---


王子の最後の願い


その時、王子が進み出た。彼の顔には決意と寂しさが入り混じっている。


「聖女様……本当に、行ってしまわれるのですか?」


パミリアは静かに王子を見つめ、微笑んだ。


「ええ、私には帰る場所があるから。」


「この国に残ってはいただけないでしょうか……?」


王子の問いに、パミリアは一瞬、答えをためらった。しかし彼女はすぐに気持ちを固めると、静かに首を横に振った。


「あなたたちなら、もう大丈夫。私がいなくても、自分たちの力でこの国を守っていけるわ。」


王子はその言葉を聞き、俯きながらも笑顔を見せた。その笑顔は、彼女の言葉を理解し、受け入れた証だった。


「……分かりました。あなたの意思を尊重します。しかし、聖女様――私たちはあなたのことを永遠に忘れません。」


「ありがとう。」


パミリアは小さな声で呟き、王子に向けて優しく頷いた。



---


民衆への別れの言葉


広間の外には、城下町中の人々が広場に集まり、パミリアの姿を見つめていた。彼女が現れると、大きな歓声と共に、彼らは一斉にひざまずいた。


「聖女様、どうか行かないで!」

「あなたは私たちの光です!」


パミリアは少し困ったように微笑み、両手を広げて静かに制する。


「皆さん、ありがとう。でも、私はもうここにいる必要はないの。」


その言葉に、人々は一瞬驚き、そして静かになった。


「争いは終わり、平和が戻りました。これからは、あなたたち自身の手でこの国を守っていくのよ。」


人々は涙を浮かべながらも、彼女の言葉に頷いた。王城の広場全体が、まるで別れを惜しむように静まり返る。



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光に包まれて


パミリアは杖を軽く掲げると、その周囲に柔らかな光が集まり始めた。その光は、まるで神々しい祝福のように彼女の身体を包み込む。


「皆さん、どうかお元気で。そして、この平和を大切にしてください。」


彼女の声が、広場全体に響き渡る。


「聖女様――!」


誰かの涙声が聞こえた瞬間、光が一層輝きを増し、パミリアの姿が徐々に消えていった。


「……!」


人々は息をのんで彼女を見つめる。その姿が完全に光の中に消えた後、広場には静寂が残った。


「聖女様は……天に帰られたのだ。」


誰かが呟き、その言葉が伝染するように広場中に広がっていく。


「神の元へ……戻られたのだ。」


人々は涙を流しながらひざまずき、地に頭を垂れた。こうしてパミリアは伝説となり、「聖女の奇跡」としてこの地に永遠に語り継がれることになった。



---


宇宙船テラⅣへ帰還


その頃、光の中でパミリアは《テラⅣ》の転送室に帰還していた。


「お疲れ様です、マスター。」


《テラⅣ》の冷静な声が迎え入れる中、パミリアはため息をつき、軽くストレッチをする。


「ふう……やっと終わったわね。」


「はい。ただし、次の問題が待っています。皇帝陛下からの帰還命令です。」


「……もう、何も言わないで。」


パミリアは苦笑しながら、窓の向こうに広がる星空を見上げた。


「でも、この星にはちゃんと平和を残せたわ。」


そう呟き、彼女は小さな満足感と共に、次なる旅へと思いを馳せるのだった。


エピローグ:平和の訪れと帰還命令


静かな余韻――伝説となる聖女


パミリアが去った後、王国には新しい時代の幕開けが訪れた。瘴気が晴れ、空は澄み渡り、日差しは大地を温かく照らしている。人々は久しぶりに見る青空に感謝しながら、日常を取り戻しつつあった。


町では、「聖女様」の奇跡が語り継がれ、子供たちがその物語を夢中になって聞いている。王都の広場には、早くもパミリアの姿を模した聖女像が建てられ、人々はその像の前で手を合わせ、感謝の祈りを捧げていた。


「聖女様は天に帰られたのだ。」

「そうだ、神の元に戻られた。我々を救ってくださった真の神の使いだ。」


大人たちは涙を浮かべながらそう語り、子供たちは憧れの眼差しを浮かべる。パミリアはすでにこの国にとって神話となり、伝説の存在として心に刻まれたのだ。



---


《テラⅣ》への帰還――騒動の終焉


一方その頃、宇宙船テラⅣの中では、パミリアが一息つきながら座席に腰掛けていた。長い間続いた騒動が終わり、彼女は安堵のため息を漏らした。


「やっと終わったわね……。」


パミリアは船内の窓越しに広がる星々を見上げる。美しい夜空は、彼女がかつて旅してきた数々の星々を思い起こさせる。


《テラⅣ》:「お疲れ様です、マスター。西の大陸への転送は全て完了し、瘴気のエネルギーは完全に消滅しました。」


「ふふ、これであの世界も安心ね。」


そう言いながらも、パミリアの顔には少しだけ寂しさが滲んでいた。彼女はあの国の人々を思い出し、少しだけ目を細める。王子、騎士、町の子供たち――彼らの笑顔と涙が、彼女の心に残っていた。


「でも、彼らはきっと大丈夫。自分たちの力で未来を切り拓いていくわ。」


《テラⅣ》:「その通りです。彼らはあなたの導きによって新たな希望を手にしました。」


その時、船内に不穏な音が響き渡った。突然の通信が入り、モニターに「皇帝直通通信」の文字が表示される。


「……あ、やばい。」


パミリアは顔を引きつらせ、椅子に深く座り込む。


《テラⅣ》:「皇帝陛下からの通信です。受信しますか?」


「……逃げられない?」


《テラⅣ》:「優先度最上位の命令ですので、回避は不可能です。」


「……はあ。分かったわよ、繋いで。」


モニターに映し出されたのは、銀河帝国の皇帝――つまり、パミリアの兄である。彼の威厳ある姿は、パミリアにとってはある意味で瘴気のドラゴンよりも恐ろしい存在だった。


「パミリア。」


皇帝の声は冷静だが、その静けさが余計にプレッシャーを感じさせる。


「聞いたぞ。機動兵器ガルシアンの投入、未開惑星への介入――すべて星間法違反の可能性があると報告が入っている。」


「ええっと……不可抗力よ?」


パミリアは笑顔で誤魔化そうとするが、皇帝は当然ながら表情一つ変えない。


「不可抗力だと?」


「だって、本当に大変だったんだから! 星が瘴気に飲まれて、それを止めるにはあれしか方法がなかったのよ!」


「……その説明は、正式な報告書として提出してもらおう。帰還次第、詳しく聞かせてもらう。」


「えええ……兄上、少しは妹を労わってよ。」


「星間法を破るようなことをした時点で、それは不可能だ。」


モニターが切れ、船内には静寂が戻った。パミリアはため息をつき、両手で顔を覆う。


「……はあ。これだから皇族は面倒なのよね。」


《テラⅣ》:「帰還準備を整えています。お疲れのところ申し訳ありませんが、すぐに帰還コースへ移行します。」


「分かったわよ、もう……。」



---


次なる冒険の予感


《テラⅣ》が静かにエンジンを起動し、宇宙空間に向けて進み始めた。パミリアは窓の外に広がる無限の星々を見つめながら、肩をすくめて呟く。


「自由な旅がしたいだけなのに、どうしてこうなるのかしら。」


船内のシステムが次々と作動し、航路が確定される音が響く。だが、彼女の表情にはどこか清々しさが漂っていた。


「まあ、いいわ。どうせまた次の星でも何か起こるんでしょうし。」


パミリアはそう言いながら軽く笑い、船内の椅子に深く腰掛けた。


《テラⅣ》:「マスター、次回の旅先の候補がいくつかあります。未開惑星、恒星間市場、観光惑星――お好きな場所をお選びください。」


「観光惑星にしといてよ、今度こそ!」


パミリアの言葉に《テラⅣ》のシステムが微かに起動音を立てる。


「まあ、行ってみないと分からないけどね。」


窓の向こうでは、星々が流れるように光を放ち、宇宙の広大さを改めて感じさせた。


――彼女の旅はまだまだ続く。自由を求め、星々を駆け巡るパミリア・プルーム・マイアの冒険は、これからも騒動と共に幕を開けるのだ。


「次は何が待ってるのかしら。……楽しみね。」


パミリアは星々に向かって微笑み、宇宙船は静かに次なる目的地へと進んでいく。











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