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第7話 世界の外側

「あーいごーとぅざだんじょーんうぇんまいさいふいずさーむいー」


またお金が失くなりそうなのでダンジョンにきました。

今回は必要経費が思ったより嵩んだのだ。

というのも……。


「ヨウー! 見てみて! 丘だよ! 丘!」

『騒がなくてもちゃんと見えてるったら』


じゃーん! なんとなんとフローティングカメラとチョーカーマイクを買いました!

チョーカーは赤い、普段つけても良さそうなデザインのやつ!

ダンジョンの内と外でも通信ラグの無い高性能品です!

あわせてお値段150万円なり。これにてアダマンタイトで儲けた分がほぼ失くなりました。

でも、これでダンジョンにいてもヨウとお喋りできるのだ。うーれしー!


現在位置はトーキョーダンジョンの21階層。

え? 11~20はどうしたって?

1~10と同じ迷宮タイプで見映えもしないし、モンスターもゴブリンがちょっと大きくなったりオークがいたり、ボスがオーガだったりで大して見映えもしないのでカットです! カァット!


で、21階層なんだけど迷宮タイプからうってかわって見渡す限りの緑の丘陵地帯。思わず歌っちゃったよ。

モンスターも四足歩行の獣タイプが多いみたい。

ぱっと見はライオン、オオカミとか馬とか鹿……や、ガゼルかな? 全部モンスターでサイズが大きかったりするわけだけど。

一応、二足歩行のゴブリンとかもいるみたいで、なんと獣に乗ってたりする。ライダーってやつだ。

さらに空にも鳥タイプのモンスターがいて、油断しているダイバーが上空から突撃されて泡を食っている。


ざっと遠視した感じこんなとこかな?

ヨウによるとこの階層は下層に進むにはこの広いエリアのどこかにある転移門を見つける必要があるらしい。しかも日毎にランダムで位置が変わるので、場合によっては探し回った挙げ句1つの階層で足止めになったり、明らかに攻略難易度があがってる。


まぁダイバーの誰かが見つければそれはすぐSNSとかで共有されるわけだけれど。

文明の利器の前にはダンジョンも形無しだ。


「ヨウ! ヨウ! 久しぶりにアレやっていい?」

『アレ? ……あー、変身ね。いいんじゃない? いっぱい走っておいで』 

「やったー!」

『あ、カメラは隠しときなさいよ! 不審にも程があるから!』 

「はーい!」


ヨウのオッケーも出たので、ピョンとその場で一跳ね。

着地したアタシは……なんと! ワンコの姿になっているのでした! 黒柴ですよ、くろしば!

ぶっちゃけ死に能力となってる動物への変身能力。

隠密活動がしたいならフルステルスがあるし、アタシの身体能力の前には動物の姿で発揮できるアレコレは誤差でしかない。

でも獣の足と人の足で走る感覚とかなり違ってて、別の楽しさがある。


そういうわけで黒柴モードのアタシはなだらかな丘を下って時速200kmくらいで疾走中。

このくらいが風を楽しめる限界な気がするね。

音速を越えると衝撃波への対処とかで純粋に走るって感じでもないし。



『うーん、ポチのことを思い出すなぁ』


アタシを追うカメラの映像を眺めながらヨウがしんみりと呟いた。ポチってのはアタシじゃなく、ヨウが昔飼ってたワンコのこと。ちなみに雄。

何を隠そう、この姿は見せてもらったポチの写真を再現したもの。

つまり今の私はポチの姿をしたポチなのだ。

うん、意味わからん。

あ、タマタマはつけてないよ、アタシは女の子だからね。


走っているとオオカミのモンスターの群れを見つけた。

ヨウ曰く、ダイアウルフというらしい。

スピードを落とし並走して「わん」と吠えてやると“なんだコイツ?” みたいな顔をして、すぐに牙を向いて噛みついてきた。躾がなっとらんよ。

ヒョイヒョイと躱して尻尾を振ってはわんわん、砂をかけてはワンワン。フッ、楽しませてもらったから命は助けてやろう。

またスピードを上げてやれば、しばらく頑張って追いかけて来たけど置き去りにしてやったわん。


丁度、転移門を見つけたのでピョンと飛び乗って次の層へと思ったら何だかおかしい。

青かった魔方陣が赤く染まり視界が暗転する。


『転移トラップ!?』


ヨウが声を上げるけど時既に遅し、アタシは転移の浮遊感と共に何処かに飛ばされたらしい。

周囲の様子は光り注ぐ丘から一転、霧の立ち込めるじめじめした場所になっていた。


「くぅ~ん?」

『転移門じゃないと次にいけないエリアで転移トラップとか性格悪過ぎでしょ……ポチ、いつまでワンコなの、一応不測の事態よ』

「はーい」


身を翻して人の姿に戻り周囲を見渡せば、霧と沼に溢れていて、足も沼に浸かっている。しかもヒルみたいな小さな黒いヌメヌメしたのが足にたかってきていた。まぁたかる以上のことは出来ないんだけどね。


「気色悪ぅ……」

『ネットの情報だとトーキョーダンジョンに沼地帯は見つかってないはずね……トラップ専用エリアなのかも』

「ねー、なんか気持ち悪いし帰ってもいい?」

『そうね……っていっても帰れる? 一応罠に嵌まったわけだし、なんか条件満たなさいとダメじゃない?』

「うーん……たしかに。見た感じ転移門とかはないなぁ」 


遠視と透視を併用して見渡してみてもそれっぽいモノは見つからない。

ていうかモンスターもいない。いるのは気色悪いヒルだけだ。


「んー。いいや! 壁抜けする!」

『壁、あるの?』 

「見えないけど……でも端があるんじゃない? ダンジョンなら」

『行き当たりばったりね……』

「いざ、すべての壁をぶち破れ! 目指せ第三宇宙速度!」

『ちょ、バカぁ!? 加減し……』


ヨウの声が途切れ無音になる。それも当然。アタシは一瞬で秒速16.7kmまで到達した。首元のチョーカーから発せれた音も耳に届く前に後方に流れていく。

あ、フローティングカメラも置き去りだ。やば。

と、ともかく音の壁を容易く破り重力すら振り切るスピードのアタシの身体は見えない何かを通り抜けた。


気づけばそこは、暗闇で、そしていくつも光が浮いていた。

直感的に、アタシはそこが世界の外側だと理解した。









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