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第10話 新米ダイバーポチ

おーこらーれたー。

今までで一番かもしれない。

フローティングカメラ、一番高いヤツ130万円。

ちょびっと行方不明、プライスレス。

ご迷惑とご心配おかけして誠に申し訳ありません。


あの日以来、ヨウは心ここにあらずというかボーっとしてる時間が増えた。映画を見ていても別のことを気にしてる感じ。話かけても返事が遅れたり……。

何か不安そうな、切羽詰まった雰囲気があった。

でもアタシには相談してくれない。

そんなに頼りにならないかな……。

アタシもヨウも、まだまだ付き合いは短いけれど互い無しでは居られない仲になっている……少なくともアタシはそう。今のアタシはヨウを中心に回ってる。

ある日、ヨウがいなくなったら……うーん……考えたくない。



さて、あれから一週間。

現在アタシ達はトーキョーのお役所に来ています。

例の未発見ダンジョンの報告をしにきたわけじゃないよ。

や、なんか賞金とかは出るらしいんだけど色々面倒そうだなってヨウと相談して報告しないことになった。

実は今日はアタシのダンジョン探索ライセンスの取得にやって来たのです。

なんかねー、ヨウが学校で習った頃とは法改正とかで色々仕組みが変わったらしくて、どうもアタシでもライセンスが取れそうという、そんな感じ。


「ねー、ヨウは取らないの? ライセンス」

「私はいいよ……ポチみたいに強くないし、あとモンスター殺すの無理だし」

「そっかぁ」

「だいたいね。これはポチが自分でドロップ品売れるようにする為なんだからね?」

「なんで? ヨウが売ってくれたらいいじゃん」

「ハァ……ポチと私じゃ寿命も死にやすさも違うのよ? 断言してもいいけど、確実にポチの方が長く生きるから」

「むー、まだまだ先の話でしょー……そんなこと言わないでよ~」

「あ、コラくっつくな! 家じゃないのよ!」


待合の椅子でわちゃわちゃしてるうちに番号のアナウンスがあったみたいで「あ、呼ばれた。ほら行くよ」とヨウにせっつかれて手続きをする。

ヨウが保証人っていうのになってくれて無事に登録が完了した。


「ヨウ~?」

「なぁに?」

「ヨウって29歳だったんだね~。全然見えない」

「ちょ! アンタ! 覗いたの!?」

「ごめーん、見えちゃった……阿笠遥……本名も」

「もー! バカ! ポチ! 悪い子!」



見えちゃったモノは仕方ないじゃん……隠しとくのもなんだしね。それにヨウは本当に全然アラサーに見えないくらい若々しいし。アタシの方がずっと歳上だし。ポカポカとアタシの頭を叩くヨウにされるがままになっていればまた呼び出しのアナウンスがある。


そしてアタシは念願の……や、念願って程でもなかったんだけど、正式にダイバーライセンスをゲットできたのだ。



『わかってる? ちゃーんと加減するのよ? ゴブリンでも一撃で倒したりしないこと!』

「わかってるよー! もー!」 


さらに3日後、アタシはトーキョーダンジョンにやって来た。

ステルスは無し、ちゃーんとダイブ待ちの列に並んでる。フローティングカメラは無し……探したんだけど見つからなかったしお金がなくて再購入は出来なかった。

とりあえず列に並んでチョーカーマイクでヨウとおしゃべり……や、注意を受けてる、耳にタコが出来るくらい。今日は力を押さえて行動するようにって。


ヨウに返事をしながら列が消化されるまでまだまだかかりそうだなぁと待っていると不意に「ねぇ、キミ」と声をかけられた。「んぅ?」と目線を向けると3人組の男のダイバー……や、ライバーかな? カメラを用意してるみたいだし。


「キミ? ソロ? ていうか初心者でしょ、ダンジョンでジャージって……危ないよ?」

「俺らと一緒に潜らない? 色々教えてあげるからさ」

「名前なんていうの?」


なんか、こう、下心!って笑みで……や、どんな顔だよって気はするけどわかるでしょ? とにかくライバー3人組が話しかけてきた。


「ナンパ? ヨウどうしよ。ナンパされてるっぽい」

『はぁ?? うちのポチにナンパとか……とにかく無視よ無視! 暴れちゃダメよ?』

「はぁい」


ヨウの指示に従ってぷいっとそっぽを向いてやるけど、男達は回り込んで食い下がってくる。しかも、列に並ばないといけないから逃げられない鬱陶しいぶっとばしたい。


アタシがなんとかペチャクチャ話しかけてくる男達に我慢してむーっとしかめ面をしていると、聞き覚えのある声が割り込んできた。


「あの、その人迷惑されてますよ?」

「そうですよ! ダイブ待の列でナンパなんて迷惑です!」


なんと声の主は……ハル&アキの2人だった。

フローティングカメラを浮かせて、おそらく配信をしながら話しかけてきているみたいだ。

3人組は露骨に「あぁん?」と嫌悪な態度を浮かべたけど、ハル&アキだと分かったのだろう、カメラを気にするように「こいつら……ハル&アキ」「登録者30万人の……」「配信中かよ……おい、行こうぜ」と列から外れ離れていった。これが有名配信者の力かぁ。


「あの、大丈夫でしたか?」

「嫌な人達でした!」


ハル&アキの2人はナンパを追い払うとアタシを心配してくれているみたいだ。なんていうかいい子達だ。

見ず知らずのアタシの為に年上に向かっていくなんてなかなか出来ることじゃないよ。


「アキ君、ハルちゃん、ありがとね!」

「えっ、僕らの名前……」

「あれ、私達名乗りましたっけ?」

「ん、や! 配信! 配信見てたの!」

「あー、な……るほどです」

「そうだったんですね!」


思わず名前を呼んでしまい2人は驚く。

配信を見たのだと訳を伝えれば少し気恥ずかしそうにするのがいじらしい。有名っぷりを傘に着ていないのも好感度が高い。


「ヨウ! ヨウ! ハル&アキだよ!」

『今配信開いたわ……こんな偶然あるのね』

「配信? えっ、アタシ映ってる?」


アタシがカメラを気にするとハル&アキはそれに気づいたのか「あ、今は撮ってないんです」と教えてくれる。ヨウも『うん、映ってないわよ』と伝えてくる。


『配慮の出来る子達ねー』

「ん?」

『勝手に撮影してないってこーと。常識があるわ、ナンパ野郎供と違って』

「おー」


なるほど、撮影してるフリだったってことかぁ。高校生とは思えないくらい配慮が出来る子達みたいだ。


「あ、アタシ! ポチっていうの!」

「改めて、僕はアキです」

「ハルです! ……ん? ポチ? あ……あぁ!」


互いに自己紹介をするとハルちゃんが何か引っ掛かったようにしてたけど、ハッとするとズバっとアタシを指差した。


「もしかして! スパチャ60万のポチさん!?」

「え? あ……たしかになんかチャットのテンションが似てる気が」

「はえっ?!」


ズバリ当てられてワタワタとするアタシの耳に『やれやれだわ……』とヨウの呆れたというか諦めたような乾いた笑いが届いたのだった。


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