お仕事中失礼します! 侵略者です!
91層から先なんだけど、鉱山? 坑道?
みたいな感じになってて、キチンと整備がされていた。
体格のいいトロールとかのモンスターやらゴーレムっていうの? 岩の人形みたいなのがツルハシとかでカッツンガッツン鉱石を掘っている。
身体に岩の生えた獣のモンスターが荷車に鉱石を引いていて、ゴブリンが仕分けらしい作業をしていた。
や~、滅茶苦茶作業中って感じだし鉱石の中にはアダマンタイトとか他にも金銀に輝く鉱石がザラザラと。
これパクって売ったらいくらになるんだろうなぁと邪心が過る。
いやいや、いまは攻略が最優先!
アタシは心を鬼にして作業を妨害することにする。
本当に申し訳ない!
まぁ敵なんだししょうがないよね。
ヤレヤレと額を拭うオークの頭が失くなり、無心でツルハシを振っていたゴーレムが壁の一部になる。
せっせと並んで砂利をふるいにかけていたゴブリンが顔を上げ、その顔がふるいに落ちる。
フルステルスの殺戮者(アタシ)の強襲になす術無しだ。
非戦闘員だろうと容赦はしません!
アタシはどこぞの誇り高き戦闘種族ではないのだ!
95層までは同じような坑道エリアで、鉱石が先の階層に運ばれていたみたい。運び手はアタシが滅したけど。
96層は熱気が溢れていた。
精錬の為の炉が赤々と燃えて空気を熱し、一つ目の巨人の振るう鎚がガンガンと火花を散らして武器や鎧を生み出す鍛冶場だ。
91層から先は生産の為の階層ってわけだね。
そもそもが90層のボスは倒させれない前提でそれより下で兵站確保をしているんだ。
「ってことはぁ? 後方支援部隊を叩いちゃったならあとはもう指令部だね!」
一つ目巨人全員の目玉がポロリ。これにて作業率0%。
97層の武器庫らしきとこの完成品の装備も全損。あぁ勿体ない勿体ない。
でもま、これ、戦争だから。
我ながら極悪非道なことをしているなぁと溜め息をつく。
でも次の98階層に踏み込んだアタシはさらに顔をしかめることになった。
「うっ……」
錆臭さとすえたような匂いが混ざっていて、思わず口を抑えてしまう。なにより目の前の光景は嫌悪感を沸き立たせるのに十分な醜悪さだった。
人間だ。
無数の人間が鎖で壁から繋がれていた。
首枷に固定された女性がいた。
磔にされた男性がいた。
ゴブリンやオークのヒト型のモンスターが女性を犯し、男性を拷問器具でなぶっていた。
苦悶の呻きと「殺してくれ」という懇願を嗤い、死なせない為か、緑色の薬らしい液体を頭から振りかけていた。
「……何これ、気分悪……もしもしヨウ? ダンジョンに人間がいるんだけど、彼らはどうしたらいい?」
『人間?』
状況をかいつまんで伝えると沈黙の後、ヨウから『DPの為ね』と答えがあった。
『ダンジョン内に人間を生きたまま捕らえて、苦痛を与えてDPを搾り取ってるんだわ。しかもヒト型のモンスターは繁殖行為でDP消費無しに戦力を産み出してる……胸糞悪いけど賢いやり方ね』
「うー……あたしここのマスター嫌いかも」
『相手もきっとポチのこと嫌ってるわよ、滅茶苦茶にされてるんだから』
「そうかもだけど」
ヨウと通話をしていると、不意にモンスターの内の1体が複雑な吠え方をした。目を向けると断末魔と血飛沫があがる。
「っ!? アイツら何して!」
『ポチ?』
「アイツら急に人間を殺し始めた!」
『DPよ! 殺すことで大量にDPが!』
「させないっ」
武器を手に動けない人々を殺めようとするモンスター達をコンマで屠り、間に合わなかった数名を除いて拘束から助け出すことに成功した。ひぃふぅみぃ……何人いるの?
ほとんどが意識を失っているか、苦痛に呻いているかで動ける状態じゃない。
「ヨウ! この人達は戦争が始まったらどうなるの?」
『ルール的にはダンジョン外に放り出されるはず。でも、わかんない。囚われてたらまた違うのかも』
「どうしよう……」
助けたいけど、戦争までにまだやれることが……悩むアタシの心中を見抜いたようにヨウは『もう大丈夫』と明るさと気合いの混じった声をだした。
『ここまでやってもらったならあとは私の戦争よ。そりゃ不安もあるけど、ポチと創った私のダンジョンは難攻不落だし、敵の目論見も戦力も潰しに潰した。これで負けるわけない……だからもう大丈夫』
「ヨウ……」
『助けたいんでしょ? ポチにそういうとこあるのわかってるんだから』
「うん、わかった。じゃあこの人達をつれてダンジョンを出るね」
『でもどうするの? 帰還の翼は1つ渡しといたけど触れてなきゃダメよ?』
「ああーそっか……念動力で運搬は深すぎてギリギリになりそうだし、弱ってる人もいるからなぁ」
帰還の翼は使用者と、使用者に接触した人物をダンジョンの入り口に戻してくれる。ダンジョンコアにはそういうアイテムを作り出せる機能があるから万が一の帰還ようにヨウのDPで出してもらっていたのだ。
さて、囚われてた人は動ける状態じゃないし、何十人もいてどうやってもアタシの両手には収まらない。
どうしたもんかと少し考えたけどピコンと閃いた。
アタシが大きくなればいいじゃんね。
早速変身! 色々と効率を考えた結果……アタシはダイオウイカの姿になっていた。
「イカ~! そしてさらにキョダイカ~!」
おぉ、我ながらなんとも名状し難き海産物よ。
全体を通常のダイオウイカよりさらに巨大にして、ずりずりと触手を伸ばし囚われてた人ダース単位でヤサシク巻き取っていけば完全にモンスターパニックのワンシーンが出来上がる。
ついでに言えばさ、変身使うと透明になれないんだよね。
あぁ騒ぎになりそうだなぁとアタシと要救助者沢山名は帰還の翼でトーキョーダンジョンの入り口に転移した。