「あぁあああああああああ!?」
バガァアンと岩巨人の、これまた巨大な拳が砕け散り出てきたのはアタシ、どうもポチです。
あのくらいでやられるわけないでしょうが、バケモンなめんな!
アタシが叫んだ理由、それは……。
「ジャージが破れた?! ああもう! チョーカーマイクも壊れたじゃん! もぉおおお! 許さん! ゲホッゴホっおぇええええ」
何がゴォオオオオオオだ! 勝ったつもりでいるんじゃないよ、まったくもう!
塵も操れるのか口から侵入されて身体の中から攻撃してきて思いっきり噎せたし。
あぁ! ジャージが破れて前が閉じなくて胸チラになってんじゃん! しかもチョーカーマイクが壊れてヨウに連絡できないし!
ズバッと本体見つけてスマートにトウバツ! なんてちょっとでも考えたのが馬鹿だった。
こうなったら全身全霊にかけてコナコナにしてすりつぶしてやる。
「超・振・動!!」
透過して身体に入り込んだ塵を追い出して、念動力の膜を再展開。もっと分厚く、大きく。
さらに表面を超高速振動状態に。
周囲には砂塵が纏わりついてくるけどもうどうにもならないよーだ。
岩巨人は拳を再生させながら振りかぶりビッグパンチの構え。デカすぎて遠近感が狂うし拳自体も音速くらいには速いけれどもう回避も透過も必要無いもんね。
ゾリゾリゾリゾリっと、繰り出された岩の拳が球形に抉れるように削れぽっかりと穴が開いてアタシを通りすぎる。ふっふっ、今のアタシに触れると粉微塵よ。本体がどんなかは知らないけど、こうしちゃえば一溜りもないよね。
というわけで、まずはお前だと岩巨人に突貫。貫通。往復。縦横無尽。チーズのように穴だらけなった巨人はバランスを崩して大地に倒れ伏す。ズデェンと衝撃で剥がれた破片や舞い上がる砂煙がしつこくアタシに向かってくるのがしつこいなって感じ。
大地から繋がってたしこいつもあくまで操作された一部でしかないんだろうね。ズモズモと周りの岩が寄っていって再生してる。
本体はこの広い大地のどこか、さぁお宝探しといこう。古今東西、地面を掘り進むならコレって形がある。
アタシは念動力を先の尖った螺旋形に変形させた。
「いくぞぉ! ウルトラバイブレーションドリルアサルト!! かっこ、テキトウ!」
回転しながら振動する先端がチョンと触れた瞬間、ズゾッと周囲数十mの岩が砂状に砕けて液状化したように大地が溶ける。そこ! もうドリル関係ないじゃんとか言わない!
こういうのはテンションが大事なの!
実のところアタシは今、物凄く腹が立っているのだ!
「宣言! 今から隈無く! 隅から隅まで! お前の固いところが一切合切サラサラになるまで粉砕してやる! 」
というわけでまずは急潜航! 真下に向かってGO!
「ドリドリドリドリ」っと口に出しながら黒い岩盤……たぶんアダマンタイトに突き刺さる。
実際は「ドリドリドリドリ」みたいな可愛い音じゃなくて「キョキエエエエエ」みたいなほぼ悲鳴に近いような音がする。あ、アタシが口に出してるわけじゃないから! 金属の削れる音って凄いんだよ。
底のダンジョンの壁に行き当たったら次はギュンギュンと縦横に移動してだいたいの中心に陣取る。
ここまでで1.5秒くらい経過。
そのまま中心から渦を描くように穿孔しながらの高速旋回。
そう! アタシは今、岩盤ミキサーになったのだ!
超振動と地中をマッハで動く衝撃で脆くなった岩盤が崩れては、ほぼ液体の大地をアタシの発生させた巨大な渦に引寄せられてはゾリゾリっと砕け散る。
一応は敵も抵抗はしているのか、削れた後の砂が逆らうように動くけど出力不足で渦は全く止まらない。
アタシはさらに念動力ドリルを大きくして、速度も上げていく。
「んフハハハハハハハぁ! ドリドリドリドリぃいいい!」
なんか回りすぎてテンションおかしくなってきた。
上がったテンションのぶんだけ渦も大きく大きくなっていく。
回りはじめて体感的に5分くらい。
パッキィイインと甲高い破裂音が聞こえた……気がする。や、だってアタシの高笑いと岩盤の粉砕音に紛れて聞こえ辛かったんだもの。
たぶんヨウの予想通りに本体が居てミキサーに巻き込まれたんじゃないかな?
いやぁ、ちゃんと居て良かった! じゃないと回り損だもんね。
抵抗の無くなった大地からズポッと飛び出すとなんということでしょう。
あんなにゴツゴツしていた岩の大地がデューンっと早変わりして、見事な螺旋模様の砂漠に変わっているではありませんか。
あー、手こずったああ!
ピポパとなんとか壊れずに済んでいたダンジョン仕様のスマホをポケットから取り出して、ヨウに電話をする。
「もしもーし! ヨウ? チョーカーマイク壊されちゃったけど倒したよ!」
『ポチ! 無事なの!?』
「怪我はないけど……ジャージも破れてさぁ……っとあと時間どのくらい?」
『7分切ったわ』
「あと少しだね」
『うん……勝てるかな、アンタがそんな手こずるようなモンスターを召喚できるマスターに』
「相手の札だって無限じゃないんでしょ?」
『それは……そうだろうけど』
「じゃあ心配しない! 大船に乗ったつもりでいてよ
……さてっと先に進むから通話切るね。あ~もう転移門が砂の中じゃん」
『うん、頑張って』
転移門は砂の底だった。最後の悪あがきも透視と透過の前じゃ無駄無駄よ。
さて、ヨウの為に時間一杯もうひとふんばりだ。