「あれ……? んぅー?」
『どうかした?』
「90層のボス部屋に入ったはずなんだけど、どこにもボスがいなくて~」
「んー……ボス部屋作ったら必ずボスを配置しないといけない……って説明があるから、いないはずはないんだけど」
一気に攻略を進めて90層!
めちゃくちゃドロップアイテムをスルーしてるから勿体ないおばけが出そうです。
さて、戦争まであと15分くらい。
ダンジョンの階層追加はダンジョンレベルで増やせる上限が決まってるし、増やすごとに必要DPが跳ね上がるらしいからあっても100前後くらいっていうのがヨウの読み。つまりダンジョン攻略も佳境ってかんじ。
ところがどっこい90層のボス部屋に踏み込んだはいいけど肝心のボスが見当たらない。
『ボス部屋はどんな感じ?』
「荒野みたいな。ゴツゴツして、だだっ広くて何にもないよ」
『だだっ広いか……ボス部屋って、配置したボスにの強さとか能力に合わせてサイズが自動的に変わるんだけど、広いってことは滅茶苦茶速いか大きいかだとは思うのよね』
「道中のモンスターに速いのはいなかったなぁ。なんか岩みたいな頑丈そうなのばっかりだったよ」
『岩? ひょっとして……ポチ! もしかしたら地面そのものが……』
ヨウが何かに気づいた。アタシが「地面?」と下を向いた瞬間だった。真下から突き上げるような衝撃にアタシはロケットみたいに打ち上げられて変な声が出てしまった。
「のぱぅ!?」
『ポチ!?』
いきなり300mくらい跳ね上げられた。制動して空中で急停止。さっきまで立っていたところからは巨大な円錐形の岩が突き出していた。
あれが真下からアタシを吹き飛ばしたらしい。
アタシじゃなければ弾け飛ぶような衝撃だった。
さらに地面のいたるところが一斉に隆起して今度は岩の円柱が空中のアタシを狙って打ち出された。
「っわわわわわ、なになになになに!?」
びっくりして、飛び回りながら回避機動っ。
やり過ごした柱同士がゴガっとぶつかり合って空中で砕け破片を飛び散らせる。ひとしきり回避したところで透けていればいいことに気がついて透過状態になった途端にピタリと柱の攻撃が止む。
や、落ち着いてれば普段のアタシの速度からすればなんてことのない攻撃だったんだけど、まったくの想定外は心臓に悪いって。
チーターだってお昼寝してるところに5歳児の三輪車が突っ込んできたら飛び上がるでしょ? そんなかんじよ。
「び、びっくりしたぁ」
『大丈夫!?』
「うん。いきなり地面がぶっ飛んできて驚いただけ……ヨウの予想通りみたい。この大地自体がモンスターなんだ、これ」
『うわぁあ……ヤバいわよ、それ。うちのモンスターじゃどうにもなんない』
「アタシが何とかするっ」
お返しだと、透過を解除して急加速からの急降下。
柱が出てきた辺り目掛けマッハ20で衝突してやる。
「ディープ・インパクトぉ!」
ドッゴンと掛け声も爆撃のような轟音に埋もれて消える。あ、防音してなくて『なになになに!?』ってヨウまで驚かせちゃった。
深さ100mくらいのクレーターが出来上がって、飛び散った塵や岩の礫が降り注ぐ……や、違う!
飛び散ったモノがアタシ目掛けて弾丸みたいに飛んでくる!
「こなくそぉ!」
礫を念動力で防いで、飛び上がっては急降下を繰り返す度に大地にクレーターが産まれるけれど、礫どころか、大地側からもまた極太の柱が飛来する。
さらにはクレーターまで隆起してまた平らになってしまう。
「ぜんっぜんダメー!? ヨウー! どうしたらいいー? どこぶっ叩いても効いてる感じがしない! ていうか! 敵地面だし!」
『どうって……わかんないわよ! あーでも……だいたいそういうのはどっかに本体がいるのがお約束でしょ! ゴーレムよ、ゴーレム。emethをmethにって見たでしょ! 映画!』
「なんとなくわかった!」
ようするに岩の部分は、ただの岩でしかなくて、操ってる何かが本体なんだ。そいつを見つけて……見つけて……って見つかるかぁああああ!?
だだっ広い荒野から形も何もわからないモノなんて見つかるわけがないでしょうが!
透視しても岩岩岩岩! 地層が別れてるのか色が違う部分もあるけどだいたい岩!
そりゃそうだよねぇ! 本体がいるとして分かりやすくする理由なんて無いもんねぇ!
「ワタシ、弱点ダヨ!」みたいにしてくれるのは映画だけ!
どっこい、しかもこっちは映画みたいに尺……っていうか時間制限があるってもんで!
アタシが本体探しに躍起になっていたせいだろう。
油断していたわけじゃないんだけど、自分の防御力を過信していたっていうのはある。
集中して透視をするために、透過もしていなかった。
大地が突如、アタシを挟み込むように競り上がる。
「づあっ!?」
バチンというか、ちょうど空中の虫を叩き潰すような動き。大地の掌がアタシを直撃した。
体を包んでいた念動力の膜が破壊され全身を衝撃が襲う。身体に直撃を貰うなんていつぶりかな。ヨウの声が聞こえない。
掌はさらにアタシを挟んだまま、天へと昇る。
大地から生えるように伸び上がった岩の巨人は、アタシを握りつぶしゴォオオオオオオっと地響きのような咆哮を上げた。