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第34話 ハル&アキのいろいろ

「え?! アンタ達! ハル&アキって下の名前じゃないの?」

「はい……実は」

「カップルなんだから名前で呼ばなきゃ~」

「えっとそれなんですけど……私達、名前が同じなんです」


D-MALuフードエリアはD-MALu 全体の10%を占める、有名チェーン店から、個人経営の店が何百店舗もひしめく美食の戦場だ。

お手頃価格のB級グルメからダンジョン産食材専門の超高級店までもが立ち並んでいて、ニホンいや世界中のメニューを列に並ぶことなく専用アプリでフードコート内のどこからでも注文できて、配達ドローンが席まで料理を持ってきてくれる。


イベントスペースまであって、ライブを見ながら食事したり、週末限定で大食い大会があったり。

今日もやってるみたいで「あと30秒!! 倉戸選手! 凄まじい勢いで掃除機のようにラーメンを吸い込んでいるぅ!?」とかなんとか実況が炸裂している。


アタシは食べる量は普通かな? むしろヨウの方がよく食べる。

今だってヨウの目の前には分厚いレアのステーキがデンっと熱い鉄板に鎮座してジュワぁっとイイ音をさせている。400gのブランド牛ランプステーキを厚めにナイフを入れてガブッと食い付く食べっぷりだ。


アタシ達4人はフードコートの4人がけのフロートテーブルで思い思いに料理を頼んで舌鼓を打ち、雑談に花を咲かせていた。

ハルちゃんはふわっとろのオムライスと季節の野菜サラダのセット。

アキ君は牛100%俵ハンバーグとライス大盛り。

アタシはというと割子そばにイカの天ぷら。

みんなで摘まめるようにフライドポテトとたこ焼きも頼んでおいた。ちなみに全部ヨウの奢りね。

若い2人~もっと高いの頼んでもいいんだぞ?


んで! こうやってダンジョンの外でも会う仲になったし馴れ初めとか本名な~に? って話題になったわけだけど、そこで驚きの事実が発覚。

なんとハル&アキは苗字由来のコンビ名だったのだ!


「僕が秋津誠で」

「私が春凪真琴なんです……どっちも読みがマコトなので……」

「幼なじみで名前まで一緒なんてなかなかねぇ……あー、でもクラスに同じ名前って意外といるわよねぇ。似た名前とか含めたらもっとか」

「ヨウも?」

「ん。ヨウコとかヨウスケとか割といたんじゃない? ま、ポチは絶対被りは無さそうだけど」

「そりゃそうでしょ!」


うん、偽名というか思いっきり犬の名前だもんね!

アタシの架空の偽名の本名は柴田ポチってことになった。

フランス人とのハーフって設定だけどそれでも柴田でポチって……。ヨウのこういうセンスに戦慄を感じるよ。


「んでも、たしかにマコ&マコとかツインマコトとか語呂悪いもんね。ハル&アキのほうがしっくりくる」

「そうなんですよ~! でも配信でアキ君って呼んでたら普段もそうなっちゃって……カップルなんだから名前呼びの方がイイと思いません? ……まぁ、らしいことだって最近ようやくしてくれるようになったんですけどね」

「へぇ~? どこまでいったのかしらぁ? キスはこないだしたんだし、そろそろセ……」

「あ、あの! そろそろ約束の時間ですけど!」

「わ、ほんとです! そろそろトラムで移動しないと!」


絡み方がオッサンなのよ……ヨウ。や、実年齢はたしかにアラサーだけど外見は19歳超和美人なんだからね? もうちょっとね? どんなヨウでもアタシは好きだけど!

ニヤァと根掘り葉掘りしようとしたところでアキ君迫真のインターセプト、ハルちゃんがパスを受けてアタシにアイコンタクト。……しょうがない……ヨウを止めるのはアタシの役目か……。


「ほーら、ヨウ! そういうのは個人のペースがあるの! あとオッサンぽいからやめれ」

「おっさ……」

「んで、どこ行くんだっけ、アキ君?」

「は、はい! 13:30の待ち合わせで企業エリアのアーマリッシュ社に向かいます」


実は破れたジャージの替えを買う予定だったところ、ハルちゃんに話を振ったら丁度買い替える予定だと誘われたのだ。

なんでもハル&アキが配信中に着ているのはブレザーに見えるけれど防具の機能を備えているらしい。


「チャンネル登録が増えてきたあたりでアーマリッシュさんからお声がかかったんですよ」

「企業案件ってやつね。すごいじゃない」

「き、ぎょ……?」

「会社からの依頼で有名だったり、有名になりそうなライバーに広告塔になってもらうの。自社製品を使ってもらってね。報酬もあるんじゃない?」

「へ~! じゃ、2人は有名なんだ!」

「アーマリッシュさんは『日常に防御力を』をコンセプトに普段着に見えるようなダンジョン用装備を手掛けているんです。 私達の通う学校は制服の指定無しなんですけどブレザー風の服装が流行っていて、学校からそのままダンジョンに行けたりして便利ですよ」

「ブレザー風防具がそのまま報酬といった感じです。買えばかなりするみたいなので」


なるほどね! じゃあジャージっぽい防具も作れる会社なんだ! それならうっかり破られたりしなくてすみそうだね。

ハル&アキに簡単に説明されながら企業エリアに向かうトラムに揺られていく。滑るみたいに走るからほとんど揺れないけど。

ヨウが何か思いついたみたいな悪い顔をしてるけど、割といつものことだから気にしない気にしないっと。







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