目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第36話 ピコピコ

「実は私……ポチさんの大ファンなんですぅ!」

「「ファン?」」


異口同音にアタシ、ヨウ、アキ君、ハルちゃんが首を傾げる。


「アタシ、配信してないよ? 勿論芸能人とかでもないし」

「いえいえ! 先日のハル&アキのお二人の配信での活躍……目に焼き付いております! 人形のように整ったお顔から天真爛漫な笑顔のギャップ……鬼神のごとき戦いっぷりに、アキ君ハルさんを焚き付けるあの凛とした表情……声音……推せる!と心を持っていかれてしまいました」


つまり吉川さんはハル&アキの配信にちょっと出たアタシに一目惚れしてしまったと。さらに、吉川さんが言うには同じような人は他にもいるらしく密かにファンが集う掲示板まであるとかないとか。

「確かに……あの時のポチさんかっこよかったです! それで私もやる気が漲ったんです」なんてハルちゃんまで吉川さんと意気投合してる。


「そんなわけで今日ポチさんがウチに来ると伺い、私いてもたってもいられず! ポチさんに似合うダンジョン服をデザイン、既に試作させていただいております!」

「あの連絡したの昨日なんですけど……」

「こういうやつなんです……吉川は」


アキ君若干引いてるし、錦織さんはいつものことだと呆れている。


「それで? ウチのポチに似合う服って? 気になるじゃない?」

「はい! ではポチさん! 早速試着室に行きましょう!」

「わっ、えっ、ちょっとヨウ! 笑ってないで助けてよ!」


ぐいぐいと吉川さんに手を牽かれ試着室に連れていかれたアタシはアーレーっと着せ替え人形の如く、手際よく着せ替えられて……。


「あらいいじゃない」

「わぁ……かわいいです」

「……ですね」

「大変良くお似合いですよ」


ドヤァっとキメ顔の吉川さんの隣でモジモジしているアタシが着せられているのは黒いフード付きのパーカーだ。丈が長くて腿くらいまである。

それより特徴的なのは……フードに犬の耳がついてること。黒柴風の耳飾りがペタンと垂れている。

アンダーはレギンスタイプのインナーの上から膝くらいまでのショートパンツ。

さらにこれまた黒柴風のしっぽの飾りが丁度お尻の辺りから飛び出していてこれまたきゅ~んと垂れている。

しかもこの尻尾、フローティングカメラみたいに独立して浮いている。


「いかがでしょう!? このキュートさ! ポチさん、というお名前と口を閉じているときはキリっと、笑顔のときはどこか抜けた感じのお顔にビビッときて徹夜で仕上げました! ご覧のとおり黒柴をモチーフにしておりましてカラーリングは黒を基調に、サイドカラーには白色を採用しております! 素材はウチで最高グレードのアダマンタイトコート……なんと既にアダマンタイトへの着色技術を持っているんですよ、ウチ。 さらに! 見てくださいこのお耳、尻尾! エモーションリンク機能を搭載し着用者の感情の揺れに合わせて耳と尻尾が連動して動きます! 今は……少々恥ずかしそうにされているせいかペタンとなってしまっていますね! ほら、ポチさん笑顔笑顔!」

「え、えぇ~」


スッゴい早口で吉川さんは捲し立てる。

アタシそんなに犬っぽい??

こういう感じに詰め寄られるのは苦手なんだよ~。

アタシが「ヨウ~」っと助け船を求めて視線を送ればヨウは胸を抑えてウッとした。


「ポチ……すっごく可愛いわ」

「え、ホント? 似合う?」

「うん……ナデナデしたい……もう撫でるわよ」


ヨウにフードの上から頭をナデナデされたら恥ずかしさもなんのその。幸せな気分が勝っていつものように目を細めてしまう。


「あー! あー! 尻尾が! 揺れておりますぅ!」

「わぁ……可愛い……耳ももっとペタンって」


吉川さんとハルちゃんの反応の通り、エモーションなんとかで耳と尻尾が勝手に動き出してしまうらしい。

ひとしきり満足したのか「うん」とヨウの手が止まるのが少し残念だ……。きゅ~ん。


「………………はっ、放心しておりました。コホン、いかがでしょうか!? これぞ私他同士が心血を注ぎ作り上げたピコピコアニマルパーカー……略してPPA……」

「やめなさい、吉川! その略称は色々まずい!」

「やっぱりそうですよね……ウチは防具会社ですから……ピコピコアーマーパーカーの方にします! 略してPPA……」

「同じだ!」

「え、ではピコピコアニマルプロテクターの方が?」

「それも同じだ! ピコピコから離れるんだ!」

「ピョコピョコだとカエルっぽいかなぁと」

「別のがあるだろ! ケモ耳とか色々!」

「やはりこの耳が動く仕様を前面に押し出すネーミングがいいと思うんですよね!」

「だいたいコレ1着つくるのにどれだけ費用をつぎ込んだんだ?」

「素材費用加工費用諸々で1500万くらいです!」

「試作にしても嵩みすぎだ! どうするつもりだ?」

「え、勿論ポチさんに差し上げますが? 無償で」

「吉川、採算って知ってるか?」

「ハイ! 我々開発職を縛るクソみたいな呪縛ですよね!」


うん、錦織さんと吉川さん。

放ってたらいつまでも言い合いしてるね、これ。

好き勝手する技術職と管理職の議論という名の仁義なき

戦いは眺めてる分にはおもしろいけど、言ってることの半分もわかんないし、若い2人もいることだし。

ススッとヨウの隣に移動して「アレ止めて~」とお願いする。

やれやれと乾いた笑みを浮かべるとヨウはわざとらしく咳払いをした。


「「はっ! 申し訳ありません!」」


揃って猛然と頭を下げる錦織さん、吉川さん。

どっちかでいえば錦織さんの方が気まずそうというか顔が青い。方や吉川さんはヤっちゃった! てへぺろ! くらいのノリだった。








この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?