「錦織さんも吉川さんも謝る必要はないわよ。むしろ感謝してるくらい。私のポチの魅力を引き出す素敵なダンジョン服ですもの。費用が必要なら払わせてもらうわ。吉川さんの熱意と技術に敬意を示したいし」
「しかし注文もされていないのにこのような高価な……」
「錦織さん? こっちの懐具合は気にしなくていいから。それとも支払能力が本当にあるか不安?」
「そういうわけでは……」
「なんなら今この場で振り込むわよ。端末はあるかしら?」
しどろもどろになりつつも疑い眉の錦織さん。
そりゃぱっと見20代前後の若者がン千万の貯蓄があるかっていったら普通は無い。有名配信者とかならともかくね。でもダンマス能力で相場が崩れない範囲で鉱物を流通させてガッポリ稼いでるヨウにとってはお金はあとからあとから沸いてくるモノだ。
「はい、とりあえず5000万」
「……たしかに。間違いなく振り込まれています」
「これでハル&アキの分とポチのダンジョン服代。それから当面のメンテナンス費くらいにはなるでしょ?」
「はい、問題ありません。しかしその、これだけの資金は一体どこから……」
「フフ、企業秘密よ」
あっさりと、迷うことなく5000万の支払をしたヨウに錦織さんだけでなくアキ君ハルちゃんも目を丸くしている。吉川さんだけは「ハハァ」とひれ伏すようにヨウを崇めていた。
「さてと。アキ、ハル。私達はもう少しアーマリッシュさんと打ち合わせたいんだけど。2人にはチョーっと席を外してほしいのよね」
「あ、はい。それは構いません」
「はい、大丈夫です」
「そ。じゃあ悪いけど時間潰していてくれる? あんまり時間かからないから。またあとで待ち合わせてショッピングしましょ。防具に注文があったら遠慮なくね」
「はい、ありがとうございます」
「ヨウさん、ありがとうございます!」
2人が退室した後、アタシはヨウにそっと耳打ちする。
「ね、なんの話するの?」
「ちょっとね~。例の計画にコノ会社が良さそうだなって……あ、この部屋隠しカメラとかありそう?」
「ん……無いとおもうよ」
「フフ……好都合ね」
案の定、アタシと同じくなんの話をするか全く聞かされてなくて錦織さんはぽかんとしてる。
……吉川さんは既にヨウのことを気前のいい金持ち認定しているのか目が輝いていた。¥マークで。
「あの、打ち合わせとは? ダンジョン服について詰めるということでしょうか?」
「まぁそれもあるんだけど……手っ取り早くいかせてもらうわね?」
ヨウの目が怪しく光ると錦織さんは雷に打たれたみたいに一瞬身体を硬直させる。そのままトロンとお酒が回ったような目でヨウに熱い視線を送り始めた。
「よし通った通った。錦織さんはちょっと待機ね」
「はい……ヨウ様」
「うわぁ、魅了使ったの?」
「そ。さ、あとは吉川さんよね……」
吉川さんは急にシャッキリ錦織さんがだらしない感じになったから「えっ? えっ?」っとヨウと錦織さんを見比べて困惑中だ。
「吉川さん、私の目を見て」
「ふぇっ、はい!」
「……ダメか……吉川さん女の子好きそうだったのに」
「えっと!? 多分ノーマルです! あとしいていうなら犬が好きです!」
「あぁそういうこと……」
え? なに? なんでアタシ見るの?
あ、吉川さんがアタシに惚れたのは犬っぽっかったから?
ヨウが「仕方ないか」と前髪をサッとかき揚げるとあら不思議! その顔は和美人から和イケメンへと変貌し、身体付きまで変わっていた。
長い前髪を揺らし見下すようなサディスティックな視線を受けて吉川さんも身体を跳ねさせた後熱に浮かされたような状態になった。
魅了が成功したのを確認したヨウが軽く顔を振るようにすればその姿は元の女の子に戻っていた。
「ふぇ!? あぅ……」
「オッケー……ふぅ」
「えー?! ナニ今の! ヨウ! ヨウ!」
「あーほらやっぱり! こうなるからヤだったのに……この身体って分身体というか、ある程度見た目とかいじれるのよ。だから男の見た目になって吉川さんに魅了かけたの」
「すごいすごい! 両刀使いだ!」
「両刀言うな! ていうかアンタも犬とかイカになれるくらいなんだからその気になれば出来るでしょ!」
「そいえばそうだね」
というわけで試しに男の身体にチェンジ……や、難しいな……もしアタシが男になったらって感じの外見って。
とりあえず少し顔は筋ばらせて……あーんよくわからんぞー? テキトウでいいか! もう!
「ジャーン! どう? どう?」
「……」
「ヨウ?」
「はっ……やばちょっと見惚れてた……ソレ反則かも。やっぱ私も女なんだなぁ」
「アタシはどっちのヨウも好きだよ?」
「ポチは中身ワンコだからねぇ……っとこんなことしてる場合じゃなかったわ」
「……ワンコ」
やっぱり犬っぽいのかな、アタシ。
確かに今は絶賛黒柴パーカーだけどさ。
プルプルっと全身を震わせて元の姿に戻ってからそんなことを考えているとヨウは部屋の中にダンジョンの出入り口を発生させた。
「これ出すだけでDP100万ってぼったくりよね……さ、錦織さん、吉川さん。アタシのダンジョンに案内するわね?」
「「はい、ヨウ様」」
入り口はヨウのマスタールーム直行だ。
アパートの部屋風なマスタールームじゃなくて追加で作ったやつ。悪の組織の謁見の間! みたいなね。
やたらめったら長くて全体的に黒色でダークなゴテゴテした柱が立ち並んでる感じ、わかる? 壁には真っ赤を通り越して朱く揺らめく炎が誘うように揺れている。
2人をこれまたでかい扉を通してアタシも続けば応接室に開いた入り口は閉じる。
ちなみに分身体のヨウはそのまま応接室で待機だ。
また出入り口開かないといけないしね。
「改めてようこそ、私のダンジョンに……フフ」
部屋の終端。階段の上の仰々しい玉座にはサキュバスなヨウが悪い笑みを浮かべて待ち構えていた。
もちろん肘掛けに腕をのせて頬杖をついてね。
「ヨウ、決まってるね!」
「ちょっと! せっかく雰囲気つくってたのに!」
「あ、ごめん。でも魅了しちゃってるんだから錦織さんも吉川さんもあんまり反応ないね」
「確かにね……はぁ」
や、一応ね。ヨウの前に来た2人は跪いたりはしてるんだよ?……あれ、浮いてるのアタシ?
「ハル&アキも待たせてるし、パパっと済ませちゃいましょ」
ヨウはダンジョンコアを操作すると2枚の羊皮紙のようなモノを手に取った。