森の王討伐の人員募集は、あっという間に埋まった。「前回8人だったけど今回は10人で臨む」という戦力強化による安心感と、『ひとり当たり15万ゾル」っていう高い報酬のせいだ。
私はまだ冒険者ギルドには登録してなかったから、ここで登録させてもらった。
エルフだと知った職員さんに凄く驚かれたけどね。
まずいなー。頭巾を降ろして耳を見せたときの人の驚きっぷり、癖になりそうだよ。
とりあえずの目的地は、ジーメという徒歩だと2日ほどの距離にある街。
今回は船で北上して、船で半日、徒歩で半日という行程になるそうだ。
「わー、海だー! 潮の匂いがする!」
「よく潮の匂いだと分かったなあ」
翌日、参加者全員で集合してジーメに向かうために港へ向かった。
港で騒いでいたらザムザさんにさっくりと指摘されたので、笑顔で無言を貫いてごまかしておいた。
考えてみたら、初めて里の外に出たのに、「潮の匂い」を知ってるわけないんだよね。うっかりしてました。
「船は見るのも乗るのも初めてです! 楽しみー」
「ジーメはこの時期だとゲルツからなら船で行きやすい。まあ、帰りは歩きになるがな」
船自体はそんなに大きくないけど、マストと帆は付いてる。だったら大丈夫じゃないかな?
「潮の流れとか風向きの関係ですか? だったら私が
「はぁっ!?」
ザムザさん、すっごい顔で驚いてる。まあ人間って精霊魔法が身近じゃないからね。
「ルル……あなた、本当に凄いわね」
「えっへん!」
フランカさんに褒められて、無い胸を張る私。ザムザさんは乗っていく船の船長らしき人に、慌てて私の提案を伝えに行った。
風の精霊の加護を受けて船はすいすいと進み、その日の午後、日が傾く前には私たちはジーメに到着した。
日程の短縮はそのまま経費削減に繋がるから、船乗りさんたちにも、同行の冒険者さんたちにも喜ばれた。
魔法使いらしきお姉さんに可愛い可愛いってちやほやされたし、干し果物とかもらっちゃったよ。
「さて、まずは被害の確認だな」
最年長とか、一番強そうとかじゃないのに、何故か気づくとザムザさんが場を仕切っている。なんだろうなあ? 言動に説得力があるのかな?
「前回15年前の討伐の時は、ジーメの北の湖辺りに生息してる群れから森の王が出た。話を聞いた限りじゃ、群れはいくつかあるがその群れからいつも出るらしいな。……しかし、こりゃ酷え」
その場にいた冒険者たちは驚きすぎて声も出ない様だった。
私は街の中の様子がわかる様になる前に、精霊の悲鳴を聞いていた。
「酷い……魔物じゃなくて動物なんですよね? 動物が全て自然に寄りそうとは限らないと思いますけど、精霊たちをこんなに泣かせてるなんて」
街の周りの森から、折れた木々の悲しい声がする。
なんで? 折れても朽ちても、それは草木を食べる動物たちの食料になったり、土に還ったりして世界は回っていくものなのに。
「潰されてる家もあるな」
「街を囲む壁もあちこち壊されてるわね」
「一旦、ここの長に会いに行くか。森の王討伐にゲルツから冒険者が来たと伝えなきゃなんねえ」
「そうね、行きましょう。――ルル? どうしたの?」
今まで聞いたことのない精霊たちの叫びに立ち尽くしていた私は、フランカさんに呼ばれて慌てて振り向いた。
多分これ、人間じゃ分からないんだ。放っておくと一定周期で何度でも森の王は生まれてくる。
「闇に落ちた精霊の――呪いの気配がします」
私の言葉に、その場の全員が顔に驚愕を貼り付けて私を見つめた。