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23 呪いの行方

 ドゴォォン! と物凄い音を立てて、森の王が落とし穴に落ちる。

 人の手で掘った落とし穴と違って地の精霊ノームが作った落とし穴だから、表面はある程度残して地中は空洞っていう見破れない奴だよ。


 エルクの巨躯は半分ほどが穴の中に埋まり、身動きが取れなくなった。頭を振ってその巨大な角を振り回し、自分にできる抵抗をしようと必死だ。

 その角が当たらない場所を狙って、冒険者たちは一斉に攻撃をする。


「くそっ! やっぱり異様に固い! 剣が通らねえ!」

「確かに、槍を刺すのも一苦労だ」

「惰弱な男どもだよ! 巨大エルクって事前に分かってたんだから、相応の得物を用意しときゃいいものを! うらァ!」


 女性の戦士が、戦斧を振り回して遠心力を利用して森の王に叩きつけている。重さが威力に変換されるその一撃で、森の王の首筋から血が噴き出した。

 森の王は辺りの木々が揺れるほどの叫びを上げ、手のひらの様に広がった角でこちらを威嚇してくる。――うん、あの角だけが今は脅威だ。


風の精霊シルフィード! お願い、あの角を切り落として! 代償は私の魔力で!」

《わかった!》


 目には見えない風の刃が、すぱっと根元のところで角を切り落としてくれた。

 一瞬、立ちくらみの様にふらっとした。地の精霊にも魔力で頼んだし、風の精霊にも結構魔力を持って行かれた。

 でもまだまだ、私の魔力が尽きるわけじゃない。それは大丈夫。


「天のいかずち、地に降り来たりて我が敵を討たん!」


 船の中で干し果物をくれた、カタリーナさんという魔法使いのお姉さんが、戦斧でできた傷口を精密に狙って雷の魔法を飛ばす。

 辺りには森の王の悲鳴と、生きた肉の焦げる匂いが立ちこめた。――不思議と、これは良い匂いとは思わないんだよね。


「そうか、魔法! 精霊魔法じゃなくても使えるかも! 天のいかずち、地に降り来たりて我が敵を討たん!」


 呪文をそっくりそのまま真似して、ブスブスと音を立てている雷に撃たれた場所を、目標を定めるために指し示す。

 その瞬間、私の指先から特大の雷撃が飛んで、森の王の巨体すら包み込んだ。

 そして、バチバチと至るところから火花を散らす。わーお、想定外。


「あっぶねえ!! 巻き込まれるところだったぞ!」

「ごめんなさーい! 初めて使ったもんで、威力が分かりませんでした!」


 森の王の一番近くにいたザムザさんに、凄い形相で怒られた! でも私が悪かったです! あんな威力になるなんて思わなかったんだもん。


「ルルちゃん、凄いです! 初めてでこんな威力の雷魔法を撃てるなんて」

「目の前にお手本があったからですよ!」


 なんて言っておいたけど、前世でゲームとかしてたからね。いろんな魔法が当たり前にあると思ったら、イメージで使えたよ。これもかなり魔力を持って行かれたけど。

 むう、習熟度が低い魔法を無理に使うって、こういうリスクがあるんだなあ。


「どうせ身動きできないし、このまましばらく弱るのを待とう。今迂闊に攻撃したら、こっちにも雷が来る」

「そうだな」


 ザムザさんを始め、武器で戦う戦士系の冒険者たちは森の王から距離を取って状況を見守ることにした。

 その間に、轟音やら悲鳴やらに驚いて様子を見に来た街の人に、フランカさんが「森の王討伐に来た」と伝えている。見事に地面に半分埋まってる森の王に、ある人は逃げ帰り、ある人は怖々とだけどその姿をじっと見つめていた。



 ジャストフィットの落とし穴の中で動ける最大限でもがいていた森の王だけど、確実に弱りつつあった。最初の首筋への攻撃でうまい具合に出血させたんだけど、雷魔法がうっかりと傷口を焼いちゃって、血が止まっちゃったんだよね……。その後は私の特大雷魔法で持続ダメージが入った感じ。


 やっと帯電が収まったので再び首筋を狙って一撃が入れられる。

 その後はその傷を広げる様に攻撃が続き、噴き出した血の勢いが衰え、やがてそれが止まったとき、ふわりふわりと森の王の周りを漂っていた精霊が離れていった。


「倒したみたいです。森の王から呪いをもたらしてた精霊が離れていきました。私はそれを追います!」

「私も行くわ」

「私も」


 精霊を見失わない様に私が走り出すと、フランカさんと、カタリーナさんが私に続いた。

 行き着いた先は、森を抜けた先にある大きな湖。風でさざ波が立っていて、妙に静かで綺麗な光景ではあるんだけど……何か、違和感がある。


 闇に落ちた精霊は、ここまで飛んできたんだけどそのままとぷんと湖の中に飛び込んだ。

 こんな精霊は私も見たことなかったんだけど、元は何の精霊なんだろう? 


《たすけて》

《たすけて》

《エルフの子、こっちへ来て。見せてあげる、この湖の中を》


 助けを求める闇落ち精霊の声とは別に、少し女性的な水の精霊ウンディーネが私に呼びかけてくる。私はその声が求めるままに、湖に足を踏み入れた。


 冬になりかけだからか、水が凄く冷たくて痛みすら感じる。それに顔をしかめながらゆっくり進むと、岸辺からフランカさんとカタリーナさんが私を止めようと呼びかけてくる。


「ルル! 危ないわ」

「ルルちゃん!? まさか精霊に引き込まれそうになって?」

「違います、大丈夫です。水の精霊が湖の中を私に見せたいみたいで。……うん、あとちょっとだけ」


 慎重に足下を探りながら、膝の辺りまで水に浸かるほどの深さまで歩を進める。

 冷たさを堪えながら手を水に浸すと、急に今見ている物と湖の中の光景が被り始めた。


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