――いらっしゃい。あら、アナタここらじゃ見ない顔ね、冒険者さんかしら。お仕事を探しに来たの? ヤダ、そんな緊張しなくていいのよ、ほら、そんなところにいないでこちらへおかけなさいな。
アタシはグロリオサ。ようこそ、『
大丈夫よ、安心なさい。アタシがちゃーんとアナタにぴったりのオシゴトを提案してあげるから。
カウンター越しに手招きしたのは、背中まである金の巻き毛に、菫色の瞳を持つオトコだった。身体のラインが強調されるピッタリとしたマーメイドドレスのオフショルダーでは、その逞しき上腕二頭筋を隠しきれていない。瞬きをするたびにバサバサと音がしそうなつけまつ毛、ギラギラと輝く偏光ラメのアイシャドウ、ニッコリと微笑んだその唇には真っ赤なルージュ。彼がこの『Bar・Nocturnal』の主、グロリオサ。
「アナタ、この春からデビュウ?」
「は、はい! テオと申します、ここから南のモンプレンから来ました」
「初々しいわね〜、この街のむさっ苦しいのとは大違い」
テーブルでビールを飲んでいる荒くれ者たちがむさっ苦しくて悪かったな、と大声で笑っている。
「悪いなんて言ってないわよ、アタシ、アンタたちのことちゃんと愛してるワ」
投げキッスをするグロリオサに男たちは口笛を吹く。
一方、若き新米冒険者テオは、落ち着かない様子でそわそわしている。カウンターチェアに腰掛けた脚が、ぷらりと揺れた。
「1杯奢るわ。何がいい?」
「えと……」
おぼつかない手つきでメニュー表を手に取るテオを、周囲の男たちがからかう。
「ボウズ! ここにゃミルクは無いぜ!」
ガハハ! と笑ったスキンヘッドに、グロリオサは咳払いを一つ。
「こらっ。テオが可愛いのはわかるけど、ベビィ扱いは頂けないわね」
それに、ミルクだってあるわよ、うちの店! と続け、ごめんなさいねえ、とテオに柔らかく笑いかけた。
「アシルったらお子ちゃまだからね、気になった子をすぐからかうの。テオよりずぅ〜っとベビィちゃんね?」
アシルはと言うと、ビールを煽って「ばぶぅ!」とおどけている。根は悪いやつではないとわかって、テオも笑った。
「だ、大丈夫です、慣れてるので……それじゃあ、今日のおすすめをお願いします」
おずおずとテオはグロリオサと視線を合わせる。グロリオサはテオの濃いブラウンの瞳を見つめると、頷いた。
「アタシに委ねてくれるの? ウォッカベースはお好き?」
「はい」
「コーヒーは飲める?」
「好きです」
テオがそう答えると、グロリオサはカットガラスのロックグラスを棚から取り出し、アイスピックで氷を削ってひとつ、ふたつ、カランと小気味いい音とともに入れた。水色のボトルからウォッカを注ぎ、次にコーヒーリキュール。仕上げに生クリームをそっとフロートさせて、テオの前に置いてやった。がっしりとして筋張っている男性の手には、真っ赤なネイルが施されている。
「ホワイトルシアン。あなたのふわっとした髪とそのダークモカの瞳に、乾杯」
そう言ってウィンクを1つ。
テオは少しはにかんで、ありがとうございます、とそばかすのある鼻の頭を擦って微笑んだ。