冷たい風が雪原を吹き抜ける静かな夜、慎一はユキの家の前で立ち止まっていた。沙耶との激闘が終わり、ユキが冷気の力を制御して沙耶を退けたあの瞬間が何度も脳裏に浮かぶ。彼女は自分を守るために命を懸けて戦った。それを思い出すたびに、慎一の胸は強く締め付けられる。
「彼女に伝えなきゃいけない……この想いを。」
慎一はそう呟き、小さな深呼吸をして扉をノックした。
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「慎一さん……。」
ユキが扉を開けた瞬間、その顔に驚きの表情が浮かんだ。彼女はまだ疲れた様子だったが、その姿はどこか安心感を与えるものだった。
「少し話がしたいんだ。」
慎一は真っ直ぐな目でそう言った。ユキは一瞬戸惑ったが、小さく頷き、彼を部屋の中に招き入れた。
部屋の中はひんやりと冷たく、ユキの力がまだ完全には収まっていないことを感じさせた。しかし慎一はそれを気にする様子もなく、ユキの正面に座った。
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「さっきの戦い、すごかったよ。」
慎一がそう切り出すと、ユキは少しだけ俯いた。
「……慎一さんを守りたかっただけです。それだけ。」
ユキの声は控えめだったが、その中には確かな決意が感じられた。
慎一はしばらく彼女を見つめていたが、やがて静かに口を開いた。
「ユキさん、僕は君に伝えたいことがあるんだ。」
ユキが顔を上げ、その瞳が慎一を捉える。彼の表情には、決意と優しさが入り混じっていた。
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「僕は……君が雪女でも、人間でも、そんなことは関係ない。」
慎一の言葉に、ユキの瞳が大きく揺れた。
「僕にとって大事なのは、君が君であること。それが全てだ。」
慎一の声は震えることなく、真っ直ぐにユキに向けられていた。
「君がどんな力を持っていても、どんな存在であっても、僕は君と一緒にいたい。君の隣で生きていきたいんだ。」
その告白に、ユキはしばらく何も言えなかった。彼女の瞳には涙が浮かび、頬を伝って静かに流れ落ちた。
「……どうして?」
ユキは震える声で問いかけた。その声には、嬉しさと不安が混じっていた。
「どうして、私みたいな存在を……?」
慎一は微笑み、そっと彼女の手を取った。ユキの手は冷たかったが、その冷たさが逆に慎一には心地よく感じられた。
「君は僕を守るために戦った。それだけで十分だよ。」
慎一は優しく答えた。
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ユキは涙を拭いながら、慎一を見つめた。その目には、これまで隠していた感情が溢れていた。
「……私も……私も、あなたが好き。」
ユキの言葉は小さかったが、その声には嘘偽りのない真実が込められていた。
「私みたいな存在でも、あなたの隣にいてもいいの……?」
慎一は強く頷き、彼女の手をさらに握りしめた。
「もちろんだよ。僕は君と一緒に生きていきたいんだ。」
ユキはその言葉を聞き、再び涙を流した。しかし、今度の涙は悲しみのものではなく、喜びと安心から来るものだった。
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二人はそのまましばらく無言で座っていた。部屋の中は静かで、冷たささえも心地よく感じられる空間になっていた。慎一はユキの隣に寄り添い、彼女の肩を優しく抱いた。
「ありがとう、慎一さん……。」
ユキは静かに呟いた。その声には感謝と幸福感が滲んでいた。
「これからも一緒にいよう、ユキさん。」
慎一の言葉に、ユキはしっかりと頷いた。
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その夜、二人の心はようやく一つになった。ユキの冷気が慎一を包む中、その冷たさはもう二人を引き離すものではなく、逆に絆を深める象徴となっていた。
月明かりが窓から差し込み、二人の姿を静かに照らしていた。