夜空は澄み渡り、月が雪原を銀色に染め上げていた。慎一とユキは、雪道を並んで歩いていた。寒さに震えることなく、二人の距離はこれまで以上に近かった。
「沙耶が言ったこと、気にしてる?」
ユキが不安そうに慎一に問いかけた。彼女の声には、どこか怯えた響きがあった。
慎一は足を止め、振り返ってユキを見つめた。その瞳には揺るぎない安心感が宿っていた。
「少しだけ。でも、それ以上に僕たちが一緒にいられることが嬉しいよ。」
その言葉にユキはほっと息をつき、慎一の横顔をじっと見つめた。彼の温かい微笑みに、心の中の不安が少しずつ溶けていくのを感じた。
「ありがとう、慎一さん。」
彼女の声は小さかったが、その言葉には深い感謝が込められていた。
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家に戻ると、暖炉にくべた薪がはぜる音が静寂の中に響いていた。ユキは暖かな毛布を慎一に渡し、自分も隣に座った。二人は何も言わず、ただ暖炉の炎を見つめていた。
「これからどうなるのかな?」
ユキがぽつりと呟いた。その声には不安と期待が入り混じっていた。
「これから?」
慎一はユキの言葉を繰り返しながら、少し考え込んだ。そして彼女の手を取ると、穏やかな笑みを浮かべた。
「これからは、二人で考えていけばいいんじゃないかな。僕たちならきっと何とかなるさ。」
その言葉に、ユキは微笑んだ。彼女の笑顔はどこか幼さを残しつつも、慎一への信頼が溢れていた。
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数日後、村の人々が二人の家を訪れた。ユキが雪女であることを知りながらも、彼女に感謝と共に手作りの料理や手編みのマフラーを持参してきた。
「ユキさん、これ使ってね。冬は寒いから。」
村の女性が差し出したマフラーを見て、ユキは目を潤ませた。
「ありがとうございます。でも、私には寒さが感じられないから……。」
そう言いかけたが、慎一が横から口を挟んだ。
「でも、ユキさんに似合うと思いますよ。」
その言葉に村人たちは頷き、ユキも笑顔で受け取った。
「本当にありがとうございます。大切に使います。」
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村人たちの暖かい支援を受け、ユキの心は次第に安らいでいった。雪女としての自分を受け入れてくれた村の人々に、彼女は初めて「ここが私の居場所なんだ」と実感した。
夜、慎一とユキは家の外に出て、静かに降り積もる雪を眺めた。月明かりに照らされる雪原は、まるで未来への希望を象徴しているようだった。
「慎一さん、私……幸せです。」
ユキが静かに告げた。その声は、雪のように柔らかく、透明だった。
「僕もだよ、ユキさん。君と一緒にいると、どんな困難も乗り越えられる気がする。」
慎一の言葉に、ユキはそっと彼の肩に頭を預けた。
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その時、ふとユキが空を見上げた。月の明かりが強く輝いていた。彼女は小さく息を飲み、沙耶の言葉を思い出した。
「愛なんて儚いものよ。」
沙耶の最後の言葉が、彼女の心の中で微かな影を落としていた。
「慎一さん、本当に……これでいいの?」
ユキが不安そうに問いかけると、慎一は静かに首を振った。そして彼女の手を取り、優しく微笑んだ。
「ユキさん、これでいいんだよ。僕たちが一緒にいる限り、どんな未来だって乗り越えられる。」
その言葉に、ユキの胸の奥にあった不安が雪のように溶けていった。彼女は慎一の手を強く握り返した。
「ありがとう……慎一さん。」
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雪が静かに降り積もる中、二人の足跡が未来へと続く道を描いていた。その道は、真っ白な雪に覆われながらも、確かに二人の絆を示していた。
その先には困難が待ち受けているかもしれない。しかし、二人でならきっと乗り越えられる。そう信じて、彼らは新たな一歩を踏み出していった。
月は静かに二人を見守り、夜の静寂は永遠に続くように感じられた。
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