翌朝、慎一とユキは村の広場に立っていた。雪が降り続き、景色は真っ白に染まっていた。昨夜の激しい冷気と月光の衝突は村の人々にも伝わり、広場には心配そうな表情の村人たちが集まっていた。雪の静けさの中で、人々のざわめきが徐々に慎一とユキへと注がれる。
「おい、慎一さん。昨夜のあれは一体何だったんだ?」
声を上げたのは村の鍛冶屋の壮年の男だった。その隣に立つ老婆も、目を細めながら二人を見つめている。
「まさか、ユキさんが何か関係しているのか?」
村長が人々の中心に立ち、慎一に問いかける。その表情は険しくも、どこか恐れを含んでいるようだった。
慎一は一歩前に出て、雪を踏みしめる音を響かせながら村人たちを見渡した。深呼吸をしてから、静かに口を開いた。
---
「そうです。昨夜のことは、ユキさんが関わっています。」
その言葉に、村人たちの間で驚きの声が広がった。誰もがユキを見つめ、その表情には困惑と疑念が混じっていた。
「でも、彼女は悪いことをしていません。」
慎一の声は力強く響いた。彼はユキの隣に立ち、彼女を守るように肩を寄せた。
「ユキさんは、この村を守るために戦ったんです。彼女がいなければ、僕も危険にさらされていたかもしれません。」
その言葉に、村人たちは再びざわつき始めた。中には首を傾げ、不安げな表情を浮かべる者もいたが、慎一は構わず話を続けた。
「ユキさんは、普通の人間ではありません。彼女は雪女です。でも、それが何だというんですか? 彼女はこの村に害を与えたことなど一度もない。むしろ、皆さんが気づかないところで、この村を守ってきたんです。」
---
一瞬、静寂が訪れた。人々の間には戸惑いが広がり、慎一の言葉にどう反応すればいいのか分からない様子だった。そんな中、村人の中から一人の女性が前に出た。
「確かに、ユキさんは何も悪いことをしていないわ。」
それは村の雑貨店を営む中年の女性だった。彼女はユキをじっと見つめ、静かに話し始めた。
「いつも私たちにそっと微笑みかけてくれて、気づけば庭の雪が綺麗に掃かれていることもあった。私はあれがユキさんの仕業だと思っていたわ。」
その言葉に、他の村人たちも少しずつ声を上げ始めた。
「そういえば、冬の嵐のとき、なぜか私たちの家だけ被害が少なかったことがあったな。」
「それもユキさんのおかげだったのか……。」
「ユキさんが雪女だろうと関係ないよ。私たちを害したことなんて一度もないんだから。」
---
村人たちの声が次第に広がり、ユキを擁護する声が増えていった。その様子を見て、村長はしばらく考え込んでいたが、やがて慎一とユキの前に歩み寄った。
「確かに、ユキさんがこの村を害したことはない。それどころか、村を守ってきたのかもしれないな。」
村長はそう言いながら、彼女を真っ直ぐに見つめた。
「私たちはあまりにも恐れすぎていたのかもしれない。ユキさん、これからもこの村で生きていってほしい。そして、もしあなたが困ったときは、私たちが力になる。」
その言葉に、ユキの目には涙が浮かんだ。彼女は震える声で村長に頭を下げた。
「ありがとうございます。私……皆さんに受け入れてもらえるなんて、思ってもみませんでした。」
---
慎一はユキの手を握りしめ、優しく微笑んだ。その姿を見て、村人たちからは自然と拍手が沸き起こった。冷たい雪が降り続く中、その光景はまるで新しい始まりを象徴しているようだった。
「これからも、よろしくお願いします。」
慎一が村人たちに向けて頭を下げると、村人たちは一斉に応えた。
「こちらこそ、よろしく頼む。」
「ユキさんも、慎一さんも、この村の仲間だ。」
その言葉は、慎一とユキにとって、これ以上ない歓迎の証だった。二人は村人たちに深々と礼をし、雪原に刻まれた足跡を振り返りながら、静かに家へと戻っていった。
---