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魔法少女ありす(ひらかな)
魔法少女ありす(ひらかな)
ゆる
現代ファンタジースーパーヒーロー
2025年05月14日
公開日
6.5万字
完結済
ごく普通の中学生・ありす。だがその正体は――代々続く“魔法少女”の家系に生まれた、現役の正統派魔法少女だった! 平和を守る使命に忙しい日々を送りながらも、本人の興味はもっぱら新作スイーツと気になるTVドラマ。そんな“のんき系”魔法少女の前に現れたのは、謎の転校生・カミラ。さらには、怪しい組織がハロウィンの夜に企てる陰謀と、暴走するゴーレム、そして空を飛ぶ皇帝ペンギン!? お菓子が降る? ペンギンが戦う? 魔法少女が法律を語る? 「迷うな、ためらうな、ぶち殺せ!」 ぶっとび展開と時々ハートフルな絆が交錯する、魔法少女ありすのハロウィン・バトル・ファンタジー、開幕! -

第1話 プロローグ:とある朝、ふたりの通学路で

それは、いつの年かの10月中旬のこと。朝の空気が少し肌寒く、でも気持ちのよい青空が広がる、そんな季節の変わり目の日だった。


中学二年生の山里ありすは、通い慣れた通学路を歩いていた。けれどその日は、いつもと違うことがひとつだけあった。


「おはよう、山里さん。一緒に行ってもいいかしら?」


声をかけてきたのは、同じクラスの宮の森里美。お嬢様のような雰囲気で、普段はあまり話すことのなかった同級生だった。


「うん、もちろん。っていうか、私も話してみたかったんだ」


「まあ、うれしいですわ。ずっと仲良くなりたいと思ってたの」


そんな他愛もない会話をしながら二人は並んで歩き、信号の前まで来たとき――突然、街にけたたましい警報音が鳴り響いた。


「え? なに、今の?」


「……あっちの銀行から聞こえてきますわ」


横断歩道を挟んだ向こう側、まだ開店前のはずの銀行。その正面に、自動車が突っ込んでいた。シャッターをぶち破り、車の半分は建物の中に埋もれている。


「わ、事故……? って、まさか……」


「行ってみましょう」


「ええっ!? 危ないかもしれないよ!」


「人が困っているかもしれませんわ。ほら、あそこに誰か……」


銀行の裏口から、スーツ姿の男性がふらふらと出てきた。


「大丈夫ですか?!」

「怪我は!? それに、これ……事故ですか?」


「……ちがう。強盗だ……!」


「えぇぇ!?」


ありすも里美も、目を丸くして叫んだ。


「まさか、本当に強盗!? それも開店前に!? そんなのあり得ませんわ!」


「とりあえず、警察には連絡いってると思うけど……」


そのとき、里美がありすの袖をぎゅっとつかんで見つめた。


「山里さん……いえ、“ありすちゃん”。行きましょう。あの中に、きっと人質がいるわ」


「うん……私、見過ごしたくないから」


ありすは、銀行の正面を見据え、ゆっくりと両手を組む。


「Je me transforme dans une fille magique pour toi」


地面に赤い光が走り、魔法陣が現れる。風が下から吹き上がり、制服は光に包まれて姿を変えていく。ピンクと白のドレス、長いポニーテール、大きなリボン。そして、完成した姿は――


「魔法少女、ありす。参上……って言ったほうがいい?」


「言ったほうが絶対いいですわ!!」


「じゃあ、次のときまでに考えておくよ……」


ありすは再び呪文を唱えると、銀行の建物が透けて見えるようになった。中の様子が手に取るようにわかる。犯人は三人。銃を持ち、職員たちを脅していた。倒れている警備員もいる。


「――いくよ」


「お願い、ありすちゃん……!」


ありすが唱えた魔法は、心の奥底にある“良心”を呼び覚まし、悪しき力を打ち砕く魔法。犯人たちは銃を手放し、動揺したようにその場に座り込んだ。倒れていた警備員たちも、光に包まれてゆっくりと目を覚ます。


「なんだ……身体が、痛くない……」


「……さっきまで出血してたのに、傷が……消えてる……?」


回復した職員たちはすぐに動き出し、犯人たちを拘束した。


「助かった……ありがとう! 魔法少女、ありすちゃん!」


「どういたしまして。ちなみに、“ありす”はひらがなです」


「え?」


「登録商標の関係で……いろいろあるんだよ」


「その話は後で! 今は学校に行かないと遅刻しますわ!」


「わっ、ほんとだ! 走ろう!」


二人は駆け出す。学校へと続く通学路、日常の風景の中を。


走りながら、ありすはふと隣を見る。里美は笑っていた。まっすぐな瞳で。


(……この子、ただのお嬢様キャラじゃないかもしれない)


そう思ったとき――魔法少女ありすの、ちょっと不思議でにぎやかな毎日が、幕を開けた。





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