湊斗、慌てた様子で駅を出て、辺りを見渡す。ベンチに座ってスマホを凝視している紬。湊斗、紬を見つけて、少しホッとして、ゆっくりと近付く。紬のスマホを覗き見て、(湊斗)「パンダ、落ちた?」と、紬の隣に座る。紬、湊斗に気付いて顔を上げ、(紬)「·····2、30匹」紬のスマホにはパンダが木から落ちる動画。(湊斗)「結構落ちたね」紬、想に会ったことを伝えようと思うが、声が出ず。(紬)「·····」(湊斗)「コーヒーとココアどっちがいい?」と、カバンから缶のコーヒーとココアを出す。(紬)「·····コンポタ」(湊斗)「(笑顔で)コンポタもあります」と、カバンからコンポタージュの缶を出す。紬、気が抜けて、少し笑う。(湊斗)「ごめん、ちょっとぬるいかも。はい」と、缶の口を開けて、紬に持たせる。紬、泣きそうになって、堪える。(紬)「(言い出せず)·····」(湊斗)「·····」湊斗、紬の背中をゆっくり優しくさする。泣き出す紬。店から出る想と奈々。以下、2人とも手話で、(奈々)「イヤホン返せたら聞いといて」(想)「?」(奈々)「良いイヤホンだと良い音がするの?って、聞いといて」(想)「聞いてどうするの?」(奈々)「どうもしないよ。ただの嫌味」(想)「(苦笑いで)わかった。聞いとく」(奈々)「ちゃんと説明してね」(想)「?」(奈々)「私のこと。生まれつき耳の聞こえない、1度も音楽を聴いたことない女の子」(想)「·····」(奈々)「ワイヤレスイヤホンを見て、補聴器だと勘違いするような女の子」(想)「·····」(奈々)「そういう子からの質問だって、ちゃんと説明してね」と、にっこり笑う。