振り返らず、歩いていく想の後ろ姿。紬、想を見て、涙が溢れる。想、徐々に足が止まる。その場にうずくまり、声を殺して泣く。紬、涙を拭い、駅へ向かい踵を返す。奈々、想の元へ駆けて行く。少し躊躇いつつ、想の肩に軽く触れる。想、紬だと思い奈々の手を払う。(奈々)「·····」想、振り向いて奈々だと気付き、顔を背けて涙を拭う。以下、手話で、(奈々)「落ちてたよ(と本を渡す)」想、無言で受け取る。(奈々)「大丈夫?」(想)「·····」紬、ふらふらと足元がおぼつかない。人とぶつかり、(紬)「すみません·····」情緒不安定になり、歩き出せなくなる。スマホに着信。見ると湊斗から。電話に出るが、何も言えず。(紬)「·····」(湊斗の声)「紬?大丈夫?バス乗れた」(紬)「(声が出せず)·····」(湊斗の声)「紬?」(紬)「あっ·····大丈夫」(湊斗の声)「大丈夫?」(紬)「うん。大丈夫」(湊斗の声)「·····今どこ?」(紬)「えっと、あ·····大丈夫。(無理に笑って)大丈夫大丈夫」(湊斗の声)「お迎え行くから待ってて。乗り換えるとこだよね?」(紬)「·····でも、内見」(湊斗の声)「1人で待ってれる?」(紬)「·····うん。待ってれる」(湊斗の声)「うん。この電話切ったら、動画、検索して」(紬)「·····動画」(湊斗の声)「パンダ、スペース、木から落ちる、って。かわいいの出てくるから、それ見て待ってて」(紬)「·····パンダ」(湊斗の声)「うん。わかった?」(紬)「·····わかった」(湊斗の声)「じゃあ、電話切るよ」(紬)「わかった」紬、電話を切る。1呼吸置いて、スマホに目を落とす。湊斗、深呼吸し歩き出す。向かい合って座る想と奈々。以下、2人とも手話で、(奈々)「落ち着いた?」(想)「(頷く)」奈々、心配そうに想を見る。想、ポケットに手を入れて、紬のイヤホンを返していないと気付く。(想)「(イヤホンを見つめて)·····」奈々、それを見て、(奈々)「補聴器?拾ったの?すぐ交番届けないと」想、首を横に振り、「よく見て」とイヤホンを机の上に置く。奈々、手に取って見て、イヤホンとわかり、(奈々)「どうしたの?」(想)「·····知り合いの。返しそびれた」奈々、「さっきの子か」と察して、言及しない。イヤホンをまじまじと見て、スマホで何か調べ出し、(奈々)「4万くらいだね」同じ機種のイヤホンの値段を検索している。(想)「4万·····?イヤホンで?そんなする?」(奈々)「知らないよ。イヤホン買ったことないもん」(想)「·····」(奈々)「相当の音楽好きか、お金持ちなんだね」(想)「返さないと」奈々、会ってほしくなくて、(奈々)「きっとお金持ちのほうだよ。なくしたら新しいの買うよ」(想)「音楽好きのほうだから。返さないと」(奈々)「·····」