律子が運転し、助手席に想を乗せた自家用車、駅のロータリーに停まる。想、車を降り、後部座席から荷物を降ろす。(律子)「じゃあ、がんばってね!無理しないで。休むときはちゃんと休んで、食べて。ね。友達もつくって!」と、笑顔で見送ろうとする。(想)「お母さん」(律子)「·····」(想)「(申し訳なさそうに笑って)ごめんね」と、車のドアを閉め、駅へ歩いて行く。律子、ハンドルを強く握って涙を堪える。振り返らず、早足に駅へ向かう想。スマホにLINEの通知。立ち止まり見ると、紬から【いってらっしゃい!東京あそびに行くね!】と。想、悩んでから【いってきます】とだけ返信し、再び歩き出す。(想 M)「耳が聞こえなくなるだけなら、まだよかった。自分が苦しむだけなら、まだよかった」想、授業が終わり、荷物をまとめる。スマホに紬から着信。躊躇い、電話に出れない。(想 M)「悲しい顔するんだろうな、泣き出すかな」電話が切れる。紬に【電話出れなくてごめん。今日そっち帰るけど、少し会える?】とLINEを送る。想、ブランコに座って適当に揺れる。緊張した様子で紬を待つ。公園に入ってきた紬。想、すぐに気付いて声をかけようとしたとき、紬、鞄から小さな鏡を出して、前髪を直す。想、「愛おしいな」と、思って見て、見てないふりでそっぽを向く。紬、想を見つけて、(紬)「佐倉くん!」想、初めて気付いたように振り向いて手を振る。紬、走ってきて、ブランコに座る想の前に立つ。(紬)「佐倉くん」と、久々会えて、嬉しそうに笑う。想、乱れた紬の前髪がおかしくて、軽く前髪に触れて直す。(想)「(笑って)前髪」(紬)「短い?」(想)「(笑って)ううん」(紬)「あ、どうする?どっか行く?お腹減ってる?」と、隣のブランコに座る。(想)「·····ごめん。あんま時間なくて。すぐ帰んなきゃで」(紬)「あ·····そっか。うん、だよね·····うん」と、シュンとなり落ち込む。想、「かわいいなぁ」と思って微笑んで、(想)「ごめんね」(紬)「ううん·····え、今日、なんで?」(想)「あ、うん·····青羽に、聞いてほしいことあって」(紬)「なに?」(想)「·····」想、病気のことを言い出せず、沈黙。(紬)「(想を心配そうに見て)·····」紬、ブランコを降りて、想の横にしゃがみ、優しく背中をさすり始める。(想)「·····(紬を見る)」(紬)「大学、大変?部活でなんか、やなことあった?」(想)「·····」(紬)「佐倉くんに向けられる悪意ってね、全部嫉妬だから、聞き流して大丈夫だよ。みんな佐倉くんのこと嫌いなんじゃないの、好きすぎるの」(想)「·····」(紬)「佐倉くん、ダメだよ、抱え込むの。人の悪口ってね、悪口言っていい人には言っていんだよ。私、言っていい人だから、言っていいよ!寝たら忘れる人だから!はい!どうぞ!」想、「好きだなぁ」と、改めて思って、泣きそうになって、堪える。(紬)「あ·····泣きたいとき優しくされると泣きたくなるよね、わかる。いいよ。泣いとこ、泣いとこ。男の子も泣いていんだよ。大丈夫、私、寝たら忘れるから」想、少し笑えてきて、(想)「ううん。大丈夫。泣くの大丈夫」(紬)「(心配そうに)·····うん。じゃあ、なんかあったら電話して」(想)「·····うん、わかった」(紬)「なんもなくても電話して」(想)「(笑って)うん、わかった」(紬)「佐倉くんが電話したいときに電話して。私電話したくないときないから。24時間体制だから」(想)「·····青羽、電話好きだよね」(紬)「好き。声聞けるからね」(想)「·····声はね、聞きたいよね」(紬)「ね。佐倉くんの声、聞くたびに思うんだよね」(想)「ん?」(紬)「(照れ笑いで)好きな声だなぁ、って」(想)「·····」想、少しうつむいて、一瞬考えて、(想)「·····青羽ごめん」(紬)「ん?」想、ブランコから立ち上がって、(想)「·····時間が」(紬)「あ、時間。大丈夫?」と、紬も立ち上がり、歩き出す2人。(想)「うん、ごめんね」(紬)「ううん。また電話する」(想)「·····あのさ」(紬)「うん」(想)「·····」(紬)「ん?」(想)「·····名前、言ってもらっていい?」(紬)「紬」(想)「(少し笑って)あ、うん、知ってる。えっと、」(紬)「ん?佐倉くん、ってこと?」2人、公園の入り口に着いて、向かい合って立つ。想、まっすぐ紬を見つめる。紬、理解して、恥ずかしくなって、(紬)「·····あっ、そういうことか、あっ」(想)「·····」(紬)「想くん」(想)「·····」(紬)「(照れ笑いで)初めて呼んだ。緊張した」想、泣きそうになるのを堪えて、微笑んで、(想)「ごめん、なんか、急に」(紬)「ううん。緊張したぁ」(想)「·····ほんとごめんね」(紬)「大丈夫だよ、そんな謝んないでよ」(想 M)「好きになってごめんね」(想)「·····じゃあね」(紬)「うん、またね。想くん」と、照れ笑いで手を振る。想、歩き出して、少しして振り返る。紬、まだそこにいて、ニコッと笑って、もう一度手を振る。想、小さく手を振り返して、また歩き出す。(想 M)「俺じゃなきゃよかったね」想、泣きながら歩いて行く。紬、想が泣いているとは気付かず、家へ帰って行く。(紬 M)「私も名前、呼んでもらえばよかった。照れくさくて忘れちゃってた。明日電話で言ってもらお。そんなこと考えながら帰ったのに」(紬 M)「それから佐倉くんは、1度も電話に出てくれなかった」LINEの通話があり、慌ててスマホを手に取る。想から【好きな人がいる。別れたい】と。