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第24話 デイブス連邦国での後始末

ザッカート盗賊団の男性は18名。

全員が娼館行きを希望したわけではない。


頭領であるザッカートは引率役の為赴くが、実はそういう事があまり好きではない。

何しろ生粋のロマンチスト。

口が裂けても言わないが、実は『運命の出会い』という物に憧れていたりする。

照れ隠しに「俺は年上が良い」などと宣っているくらいだ。

ミネア以外誰も信じていない事を彼は知らないが。


副団長であるレルダンも娼館には興味がない。

以前結婚しており、亡くなった妻に操を立てている。

そして何より今の彼は美緒の信者だ。


美緒は優しい。

きっと態度を変えることなどないだろう。

しかし娼館通いは女性に理解されにくい事は事実だ。

今の彼が失望される可能性を望むべくもなかった。


魔術師で33歳のドルンも必要としていない。

美緒の色香にあてられたもののおそらく一過性のもので、女よりも研究の方が好きな人物だ。


アーチャーのカイマルクに至っては未だ女性経験がない。

そもそも彼は純情だ。

僅かではあるがエルフの血が混じっている彼はことさらそういう事に若干の嫌悪感すら抱えているのだ。


もう一人娼館を必要としないスカウトのスフォード。

彼は本気でルルーナの事が好きで以前ザッカートに想いを伝えていた。


「あー、うん。あいつが良いのなら俺はかまわんぞ?」


そう言われアタックしたのだが……


「ん?へえ、嬉しい。あーでもなあ。……ごめん?ちょっと考えられないや」


と、あっさり振られていた。

まあ本人は諦めておらず他の団員からは生温かい目で見られているくらいだ。


という訳で、実は別件の仕事が残っていたこともあり、希望しない組みから3名、そして情報をいち早く得たイニギアの合計4名は、エルノールに頼みデイブス連邦イリムグルド交易都市へと来ていた。


道具屋ドレイクとの打ち合わせ及びアルディの館の捜索が目的だった。


「すまねえなサブマスター。だがこれは必要な事だ。見つけた金の半分は孤児院に寄付をする。残りは後で届けよう」

「いや、かまわない。分かった。4時間後で良いのか?」

「ああ。恩に着る」


転移し姿を消すエルノールを確認し、改めて臨時パーティーのリーダであるイニギアが同行しているドルン、カイマルク、スフォードと情報の共有を行う。


大所帯の彼らはミッションごとに発案者がリーダーを張ることにしていた。

責任を取らせることにより個々人の成長を促し、そして研鑽を怠らせないためだった。


「まず俺はドレイクを訪ねる。お前たちはアルディの屋敷へ行け。カギはこれだ。片っ端から金目の物を浚え。サブマスターからマジックバックを預かっている。くれぐれも失くすなよ?」


「りょーかいだ。……すげーな。これどのくらい入るんだ?」

「500キロくらいだとよ。これでも低級の方らしい。今回は3つ借りてある各自一つ持っていてくれ」


バックを受け取りながらドルンが低い声で問いかける。


「リーディルの連中はどうする?……一発ぶち込んでおくか?」


手のひらに炎が出現、にやりと顔を歪ませる。


「いや、今回はあくまで回収が目的になる。俺達は4人しかいねえ。ドルンは索敵に能力を割いてくれ」

「ふん。つまらん。…が、分かった。今日のリーダーはお前だ。従おう」

「スフォード。警戒態勢だ。スカウトのスキル、あてにしているぞ。やばくなったら撤退だ。いいな、間違えるなよ?なにより美緒さまが悲しむ」

「うす」


「時間厳守だ。4時間後に集合だ。それでは散開」

「「「おう」」」



※※※※※


皆と別れイニギアは一人ドレイクの店「ザイール道具店」を目指す。

気配消去のスキルを発動し慎重に警戒しながら進むイニギアに悪寒が走る。


いきなり肩を叩かれた。


「っ!?」

「おっと。俺だ、ドレイクだ」


ショートソードを抜き臨戦態勢に入ったイニギアは目的の人物に力を抜いた。

背中にはびっしりと嫌な汗が噴き出す。


「……脅かしっこは無しだ。……ったく、殺されたかと思っちまった」

「ふん。誇っていいぞ?さっきの反応速度は十分及第点だよ」


フードを深めにかぶり、大きなズタ袋を抱えるその姿にイニギアは何となく状況を察知した。


「離れた方が良いようだな。店は?」

「クソッたれな奴らに制圧された。まあ、分かっていたんでお宝はここだがな」


ポンポンと腰に縛り付けてあるポーチを叩く。

流石は禁忌品すら取り扱う店主。

大容量のマジックポーチはまさに国宝級だ。


「取り敢えず落ち着いて話を聞きてえ。安全な場所はあるのか?」

「ああ、ぼろ屋だが結界を張ってある。そこに行こう」


二人は少し離れ歩き出す。

とても同行者とは分からない微妙な距離を確保して。


暗殺者と斥候。

まさか二人がそうだとは誰も気付けない事だろう。



※※※※※


「ちっ、遅かったか」


別動隊のカイマルクの第一声がこれだった。

アルディの屋敷は既にもぬけの殻で家探しされた後だ。

目に付くものはゴミとガラクタ以外何も残されていなかった。

当然人っ子一人いないし気配すらない。


「ふん。敵も阿呆だけじゃないってことか。……ん?まて……鍵から魔力が…『サーチ』………っ!?……おい、隠し扉だ。地下がありやがる……一人……女?」

「っ!?鍵がトリガーか。なるほど…って……こっちも引っかかった……罠?舐めやがって…………ふう。解除完了だ」


スカウトのスフォードが慎重にカーペットを引きはがし罠を解除する。

ギギギとさび付いたような音を立て地下への入り口が開く。


「……いくぞ」


3人は警戒を強め静かに地下へと降りていった。



※※※※※



気付けば暗い部屋で私は目を覚ました。


「……ここ、は……!?」


……野菜を売りにグザードから来て市場に言って……っ!?……エルフに着いてきて…?


「っ!?…」


手が縛られている?…えっ?動く??えっ???

服?

……な、何で裸?

ていうか、何?この怪しげな器具たちは……


ベッドの周りにはいかにもいかがわしい形をしたおどろどろしいものが散乱していた。


「っ!?」


遠くから足音が近づいてくる。

意味が分からないけど私は攫われたようだった。

???……いや……ちがう。


自分で来たような気がする………???確か……


「おいっ、無事か!?……って……お前なんで裸なんだ?縛られて……っ!??」

「ひうっ、あ、あの、これは…」


部屋に入ってきた男はなぜか目を手で覆い、呆れたような表情を浮かべていた。

敵意がない?……助けに……来てくれた?


「まあ、その、なんだ。……他人様の趣味に色々言う気はねえが……取り敢えず服を着てくれ」


そういいながら床に投げ捨てられていた私の服を投げてよこした。


「ありがと……って、ち、違うよ?しゅ、趣味とかっ??!……あうう、もう!!」

「分かった分かった。……服着たな?お前名前は」

「むう……アリア、アリアベール16歳……です」

「アリア、か。……おい、おまえいつからここにいる。そ、その……大丈夫か?」


今度は真っすぐ私を見つめ、その目にはいたわる感情が浮かんでいた。

(「大丈夫か?」……きっと私の体と貞操……ひいいいっ、恥ずかしすぎる!!)


「あ、えっと……大丈夫みたい?……です?」

「なんで疑問形なんだよ。ったく。……まあ大事なさそうでよかった。歩けるか」

「は、はい………あの、あなたは……」


男は話しながらも棚にあるものをひょいひょい袋に投げ入れている。


「ん?ああ。俺はカイマルク。まあ、盗賊だ。ここの家主を捕らえたんでな。戦利品の回収ってわけだ。……いくぞ」


そういって部屋を出るカイマルク。

私は慌てて彼の後を追った。

(……盗賊って言った?……家主……えっ?アルディ?!……捕らえた????)


私の疑問は増えていくばかりだけど……悪い人ではなさそう、よね。

どうやら私は助かったらしい。


(レストはっ?……いない???!!)


頭の中の靄はきれいになくなっていた。

でもここ数日の記憶はあやふやだ。


取り敢えず私はこの人についていく事にしたんだ。



※※※※※


「10分前だ……っ!?正確だ。流石だな」


あばら家の中でドレイクと話をしていたイニギアがすっと窓から外を覗った。


「ふん。流石は名高いザッカート義賊団の皆さんだな。??女なんかいたか?」

「どうやら戦利品と一緒に連れてきやがったな。面倒な」

「そういうな。それこそお前たちらしいじゃねえか」


そんなことを話しているうちにカイマルクたち4人があばら家へと入ってきて声をかけてきた。


「イニギア、そっちは…って、問題ないようだな。こちらもばっちりだ」

「了解だ。で?……その女は何だ」

「ああ、どうやら売られる前に色々とな。どうやら行商で来たところをアルディに目をつけられたらしい。グビーザの出身だそうだ」

「……そりゃまた遠くから来たな。嬢ちゃん、どうする?俺たちはある事情で今はここにいるが。希望するなら憲兵のところまでの地図位渡してやれる」


「えっと……あの、わ、私も、連れて行ってください!!」

「……は?」

「な、何でもやりますっ!お掃除とか、畑の世話とか……えっと…」


慌てふためく様子にドルンが低い声で問いかける。


「お前、本気か?俺たちは裏家業だ。遊びじゃねえ。……馬鹿なこと言ってねえで帰んな」


じろりと睨み付け圧を乗せる。

びくりと体を震わせるアリア。

目には涙が浮かんでくる。


でも。

歯を食いしばりドルンを睨み付け言い放つ。


「アルディ、あいつに聞かなくちゃいけない事があるんです。私の、幼馴染、レスト、レストールも一緒に居たはずなんです。……だから……えっと…」


体はぶるぶる震えている。

きっと顔もひどい顔だ。

でも……

引き下がれない。

見棄てられない!!!


「……ふう。おい、お前、半端じゃねえぞ?」

「っ!?……は、はい」


「今からうちのサブマスターが来る。もう一度お前から頼んでみろ。俺たちゃ何も言わねえ」

「!?はいっ。……ありがとう」



※※※※※



革命騎士レストールの物語が、予定より数年早く動き始めた瞬間だった。

美緒はまだ知らない。


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