「みんな、しばらくすれば彼女もここギルドで一緒に生活します。もちろんフィムもね。仲良くしてあげてね」
「「「「「うす」」」」」
「「「はーい」」」
「うにゃ、可愛いにゃ♡」
※※※※※
ファルマナさん凄い。
フィムルーナは今5歳くらいの幼女。
当然この子に合う服なんてギルドにはない。
それなのにファルマナさん、一瞬彼女を見て頷くと、あっという間に可愛らしい服を縫って作ってくれました。
パステルグリーンのフードのついたパーカーに可愛らしいキュロットパンツ。
服を着たフィム、もう超絶可愛いの♡
最初モジモジしていたフィムもすっかりファルマナさんに懐いて……
それに年の近いハイネ君ともすっかりお友達になったよ。
「はいにいに♡」
とか呼ばれて真っ赤になって照れるハイネ君。
うん。
何よりのご褒美です。
何はともあれみんなに紹介したので、今から私とナナは彼女の家、レリアレード侯爵家へ向かうところ。
「ねえナナ、フィムは置いて行った方が良いんじゃない?ハイネ君とかファルマナさんにもずいぶん懐いているし。……貴女明日から学園の領に戻るのでしょ?」
「う、うん。そうだよね……フィム、それでいい?」
「うん。ふぃむね、はいにいにとあそぶの♡」
「あー、うん。……ちょっと寂しい」
思わず遠い目をするナナ。
この子は本当に表情が豊かだ。
「ねえ、リンネも連れていく?神様いた方が説得力あるよね」
「えっ?良いの?!……リ、リンネ様?良いんですか?」
「かまわないわよ?なにしろ美緒のお願いだし。……それに私…あなたのスキルにも興味があるのよね」
そう言い目を細めるリンネ。
彼女いわくナナのスキルはおかしいらしい。
創造神の作った範疇を超えているらしいのだ。
「あうっ?!……え、えっと……お、お願いします」
「ふうっ。そんなに警戒しなくても良いよ。そもそも美緒なんかとっくに想定を超えてるし…まあ今更よね。まあ、これから仲良くしましょ?あなたこのギルドですでにナンバー2なんだから」
実は今うちのギルド内でのレベルが相当にバグっていた。
※※※※※
トップはもちろん私。
レベル372。
そしてナナ、レベル248。
次がマールで181。
その次にガーダーレグトが178。
レルダン164、デイルード133、そしてなんとサンテス113。
意外にエルノールも108なのよね。
彼のジョブ『神従信者』
字ずらが何気に恐い。
コホン。
ザッカートもこの前ようやく上限を突破して104だね。
リンネもこの前の戦闘で上がって102。
一番低い人でも皆99には到達していた。
上限突破待ち状態です。
流石に後から入ってきたミカは今83。
天使族の皆さんは一番低い人で今86だね。
ああ、ミリナは102だった。
ロッドランドに至っては61かな。
まあ彼は勇者の称号を得た。
勇者は正直レベル、あまり関係なくなる。
ぶっ壊れのジョブだ。
真直ぐな心と大切なものを守る勇気。
心の力であっさり上限を超えてくる。
まさに彼にふさわしいジョブだ。
むしろ何で以前ナナが取得したのかも、今となれば謎なのだけれど……
もしかすると『導きの妖精』と認識されているティリミーナの生存がカギを握っているのかもしれない。
まあ、想像だけどね。
因みにカオスドラゴンを倒して聖魔賢者をカンストした私は今、体力や物理を伸ばすため肉弾系のジョブについたところ。
今私のサブジョブは『修行僧』いわゆるモンクだ。
選択画面に『超越者』とか言う見たものないものがあったんだけど……
やっぱり基本から埋めていく方が強くなるはずなのでモンクにしました。
チートの私は短時間でカンストできちゃうからね。
こうなったらジョブコンプリートも狙えるかもしれない。
こういうことに関してはどうしてもゲーマーの血が騒ぐ。
※※※※※
「……準備出来てるならすぐに行こう?ナナはパーティーの皆にも説明必要でしょ?」
「あっ、そうだった。うん、じゃあ手つないでくれる?私の転移、まだ効果範囲狭いのよね」
私とリンネはナナの手を握る。
そして魔力の残滓を残し、私たち3人は姿を消した。
※※※※※
レリアレード侯爵家、ナナ、もといエルファス嬢の部屋。
ナナは到着と同時に魔力を展開、普段の青みがかった銀髪へとその髪の毛の色を元に戻した。
ついでに衣服もちゃんとご令嬢の物に代わっている。
何気にその魔法、私も欲しい。
「ふう。ようこそ、わたくしの部屋へ。美緒さま、リンネ様」
そして澄まして言葉をかけてくる彼女。
どうやらスイッチが入るようだ。
冒険者をしているとは思えない上品な令嬢ぶりだ。
「ふーん。ナナ、いやエルファス嬢は普段はそうなのね。流石は侯爵令嬢ね」
「まあ、安心したわ?ギルドにいる普段のあなたでは、さすがに神である私でも心配していたもの。うん?契約かな」
「ええ。そうしないとどうしても素が出てしまいますもの…一応淑女の代表のような立場、これでも気にはしておりますのよ?」
言葉遣いだけでなく、なんだか雰囲気も変わったように見える。
この子……一流の役者の才能があるんじゃない?
普段から結構こういう事をするのだろう。
程なくドアがノックされ、一人のメイドが部屋に入ってきた。
「エルファスお嬢様、おかえりなさいませ……お客様ですか?」
流石は国を代表する侯爵家のメイド。
きっとどこぞの伯爵家の御令嬢あたりであろう。
美しいし何より礼儀が完璧だ。
「ええ、アメリア。お父様はいらっしゃるかしら」
「はい。本日は既に執務室にいらっしゃいます」
その言葉にナナはにやりと一瞬表情を緩める。
「先ぶれ、お願い出来まして?」
「先ぶれ?ですか……そちらのお客様のことでしょうか」
「ええ。こちら伝説のゲームマスター美緒さまと、創造神リンネ様。いと高き高貴なお二人です。この国の宰相である父上に謁見の栄誉をくださりました。速やかにお願いしたいのだけれど?ああ、あとお茶の用意をお願いね」
「っ!?は、はい。かしこまりました……た、直ちに…」
慌てて駆けだそうとし、気が付いたように今度はお茶の用意を始めるアメリアと呼ばれた女性。
真っ青な顔をし、既に涙目だ。
「もう。エルファスったら。そんな言い方、その子可哀そうでしょ?」
「ふふっ、良いのですよ美緒さま。この子結構図太いのです。たまにはいい薬ですわ」
「……ならいいけど…」
私は人の奥面は分からない。
思わずため息をついてしまう。
「お、お待たせいたしました。そ、それでは旦那様に伝えてまいります」
そう言ってお辞儀をし部屋を退出するアメリア。
私たちは取り敢えずテーブルに座った。
「美緒?貴族社会ってこういう物よ?……あなただとすぐに騙されちゃうわね」
リンネがにやりと私を見る。
何故かナナまでもが頷いている?
「むう、酷い。……私そんなにチョロくないよ?」
二人のジト目が私に炸裂、そして大きくため息をつく二人。
「もう――――」
※※※※※
程なくして侯爵家当主、この国の宰相でもあるユウグスト・レリアレード侯爵がエルファス嬢の部屋へ入るなり跪いた。
「いと高き高貴な創造神様、並びに世界の救世主であらせられるゲームマスター様、ご拝謁の栄誉、身に余る光栄にございます」
何故かニヤニヤしているナナ。
ちょっと、淑女がそういう表情、不味いのでは?!
リンネもなんかふんぞり返ってるし……
私はどうすれば?!
「ふむ。苦しゅうない。顔を上げよ」
リンネ、すっかり神様モードだし?
(美緒、舐められちゃいけないの。あんたも堂々としてなさい)
うう、もう。
取り敢えず私はにっこりとほほ笑んだ。
「ありがたき幸せ……おお、正にこの世の美を集めたかのようなご尊顔、このユウグスト、正に至福の極致にございます」
「ふむ。侯爵よ。今日はそなたに頼みがあるのだ。座ってはくれまいか?」
「はっ、それでは失礼いたします」
あうー。
やっぱり私、根っからの平民よね。
こういうの、慣れる気がしない。
「コホン…まずは自己紹介と行こうかの。私は今世の創造神リンネである。そしてこちら、わが姉であり世界の希望、ゲームマスター美緒だ。今後は美緒さまと呼ぶことを許す」
「はっ。恐悦至極」
「ではわが姉である美緒よりその方に頼みがある。聞いてくれるか?」
「なんなりと。可能であるのならどのような事でも。是非お申しつけください」
そして皆の視線が私に集まる。
思わずひきつる私の顔。
(……あとでお仕置きだからねっ!!)
(っ!?理不尽!!)
「コホン。すみません突然。あ、あの、侯爵様?私は確かにゲームマスターですが、まだ18歳の小娘です。妹である創造神リンネが先ほど色々言いましたが、どうぞ呼び捨てで」
「おおっ、なんという……まさにあなた様は女神をもしのぐのですね……お美しい…」
顔を染め瞳に色気が乗ってきてしまうユウグスト侯爵。
えっと…魅了切れてるよね?
あー、称号強化されちゃってた……もう、しょうがないよね?
「コホン。実はエルファス嬢の事なのですが……侯爵様、いえユウグスト様は彼女の冒険者の活動については御承知ですか?」
「っ!?」
「ちょっ?!美緒?!!」
唖然とする侯爵。
そして挙動不審になるナナ。
ごめん。
知ってた。
貴女が家族にまで秘密にしている事。
でもね。
いくら転生したとはいえあなたは間違いなくこの方の娘。
筋は通さなくてはいけない。
私はナナにウインクをする。
諦めたように溜息をもらすナナ。
私は再度侯爵の瞳を見つめた。
「冒険者ナナ、ご承知ですよね?」
「え、ええ。我が国最強の冒険者です。可憐な少女だと聞いていますが…っ!?ま、まさか…エルファス……なのか?!!」
「え、えっと……………はい。……黙っていてすみませんでした」
天を見上げ大きくため息をつくユウグスト侯爵。
そして優しい色を乗せた瞳を娘であるエルファスに向けた。
「別に怒ってなどはいないさ。何となくそうでは?との疑念は抱いていた。そうか。エルファス、礼を言う。……この国の危機、幾度と救ってくれていた我が娘に最大の謝辞を」
イスから立ち上がりエルファスに向かって最敬礼を行う公爵。
ナナの瞳から涙が零れ落ちる。
「お、お父様……」
「可愛い娘……エルファス、私はお前が誇らしい。でも同時に愛しているんだ……危険な事はして欲しくはない。……信じられんな…お前はこんなに華奢なのに」
抱きしめあう親子。
私は思わず涙が出てしまう。
(きっと気付いていらっしゃったのね…でも確信がなかった……うん。やっぱり承知してもらってよかった)
暖かい気持ちに包まれるエルファスの自室。
私とリンネはその様子を優しい瞳で見ていた。