レギエルデがギルドに来てから2日。
大分回復した彼だが実は細菌病にも感染している事が判明し、いまだ彼には治療を受けてもらっていた。
「ねえ美緒。あなたの回復魔法でも治らないの?」
「うん?リンネだって知っているでしょ?魔法だと根本は治せない。まあ原因の除去は出来るけど、どうしても体力とかは戻らないのよね」
今私は執務室でリンネと打ち合わせをしているところだ。
先ほどまでエルノールも居たが、マールに呼ばれて今あの二人はジパングへと行っているはずだ。
「ねえリンネ、忘れていたわけではないけれど……弟君、ガナロはどうするつもりなの?」
色々あったし、シナリオはもう順番がメチャクチャだ。
最終的に救えれば問題ないと思うけど……
やっぱり大きなきっかけになるガナロの事は最重要課題であることに変わりはない。
以前様子を見に行ったリンネが、
「しばらく放って置こう」
とか言ったから放置していたけど……
何故かここになって私は嫌な予感がしていた。
実はマールがエルノールを連れて行ったのは私のお願いが関係しているのよね。
「んー。放置で?……私は美緒のおかげで封印を解かれた。だから今になってはあいつには出てきてほしくない。美緒、あんたさ、知っているでしょ?ガナロは破壊神、あいつらの眷属だよ?……弱っているとはいえガナロの力は脅威だ」
知っていた。
彼、ガナロはコーディネーター、アルディによって唆される。
これは事実だ。
でも元々彼は悪神。
破壊神の権能を持ち悪性の者。
そして虚無神の眷属だ。
「でもさ……リンネの双子の兄弟、弟でしょ?」
「う、うん。そうだけど…」
「じゃあ、私の弟でもあるでしょ?」
「っ!?……そっか……そうだよね」
私が最初に誓った事。
この世界の皆を救いたい。
その中にガナロは当然入っているんだ。
「……実際どうするの?あいつきっと美緒の言う事すら聞かないよ?」
「隔絶解呪して話し合い?それでだめなら……お仕置き、かな?」
「…お仕置き?」
ふとよぎる美緒の物理によるお仕置き。
リンネの背中に嫌な汗が流れる。
「あはは、は。…ガナロ、死んじゃうんじゃないかな?」
「やだなあ、大丈夫だよ?もちろん加減するし」
「う、うん」
やっぱり不安なリンネだった。
※※※※※
幾つか話し合い、今は訪れたガーダーレグトとレリアーナ、そして珍しくアリアが来て5人でお茶を楽しんでいた。
「ねえアリア。今更だけど、もうこのギルド慣れた?」
「あはは。本当に今更だね。うん。すっかり。……ザナークさんもファルマナさんもスッゴク優しいし」
「カイマルクも優しいもんね♡」
「うあっ?!……え、えっと……う、うん♡」
リンネがニヤニヤしながらアリアに笑いかける。
もう、リンネ?
貴女世話好きなおばさんみたいよ?
「むう、何よ美緒、その顔」
「べつに?」
そんな和やかな場に、凄まじい魔力があふれ出す。
ナナが4人で執務室へと転移してきた。
「ただいま」
「おかえりナナ。……ええっ?!…マキュベリア?……ど、どうして?」
驚いた。
極光の深紅の華真祖マキュベリア。
彼女はメインキャラクターの超絶強者。
シナリオでは後半のキャラだった。
「初めましてじゃな、美緒。……おお、本当に美しい……っ!?なんじゃ?そこな化け物までが仲間じゃと?ふん。貴様、わらわの顔、忘れてはおるまいな」
突然マキュベリアから凄まじい魔力が吹き上がる。
「ふむ。興味深いな……まさか数千年の時を超え再びまみえるとは……だがここは美緒の御前。その魔力、抑えてはくれんか?」
ガーダーレグトが静かに諭す。
マキュベリアは不貞腐れた顔をしながらも纏う魔力を抑えてくれた。
「えっと、マキュベリアさん?……どうしてナナと?それとその二人は…」
取り敢えず話題を変えよう。
私は彼女を見つめた。
本当に美しい彼女。
初めてこの世界で見る黒髪の美少女。
そして華奢な体躯につつましい胸。
思わず私は嬉しくなる自分に気づいてしまう。
そんな気配が伝わったのか、若干険しい顔が緩むマキュベリア。
私の対面、何故かレグの隣に腰を下ろした。
「すまぬな美緒。さっきはああいったが、正直どうでも良い。お主の祖母に頼まれておる。わらわを良いように使うとよい。従おうぞ。……ああ、この二人はアザーストとスフィナ。我が眷属の実力者じゃ」
恭しくお辞儀をする背の高い男性と美しい妙齢の女性。
……かなり強い。
「よろしくお願いしますね。お二人も一緒という事で良いのですか?」
「はい。是非お仕えしたく……おお、まことに美しい」
「わ、わたくしも……な、何でもやりますので、どうか」
あー、うん。
これは追い返せないね。
まあ、マキュベリアの眷属、かなり優秀なはずだ。
……彼女のシナリオ。
あの時にはこの世界相当に酷い状況に陥っていた。
何しろ狂った皇帝ハインバッハは悪神であるガナロの力を取り込み、そして語られてはいないが複数の悪魔の眷属を吸収していたはずだ。
彼女のルートの皇帝、おそらく最強だった。
彼女はすべてを失う。
眷属も、分かり合った仲間も。
彼女は勝利しても他のキャラに助けられたとしても、バッドエンドしか残されていないキャラクターだった。
「…ねえマキュベリア?あなたの気持ち、嬉しい。…でもね、私はあなたを含め、この世界救いたいの。だからお願いします。協力してほしい。もちろん対等でね?」
そう言って私は手を差し出した。
何故か私の危機感知が同時に作動した?!
「おお、なんという。分かったのじゃ。……くふふっ♡よろしく頼む美緒よ」
そしてなぜか私は彼女に引っ張られ、気付けば彼女の膝の上。
いきなり私を抱きしめるマキュベリア、さらにはお尻の下に違和感?
暖かく硬いものが私のお尻を刺激し、徐々に盛り上がってくる?!!
「なっ?!えっ?!なに?!!…ちょ、ちょっと?ひゃん♡」
彼女の可愛らしい指が私の胸にそっと添えられた。
体に電気が走る。
うあ、な、なんで?……めっちゃ感じちゃう。
まさか?……称号?!!
ゴンンッ!!!!!
突然地響きを伴うような鈍い音が執務室に鳴り響いた。
気付けば私は解放され、何故かリンネに抱きしめられていた。
「この無礼者め。わらわの可愛い妹を穢そうとは……二度と生き返れぬよう、その腐れち〇こ、切り取って貴様に食わせてやるわっ!!」
鬼がいた。
しかも二人。
ガーダーレグトとナナが鬼の形相で、頭を抱え涙目のマキュベリアの前で仁王立ちしていた。
「うううっ、痛いのじゃ、酷い、た、ただわらわは…あ、あまりの美緒の可愛らしさに……ちょっとだけ、親交を深めようと…ひいっ?!!」
「ちょっとだけ?!はあっ?!!!」
「この腐れ吸血鬼がっ!!やはり貴様、永遠の眠りにつけっ!!」
「ぐうっ、ちょ、ちょっと待って…ひいいいいいっっ!!!!」
あー、うん。
そういえばマキュベリア、私の事大好きだったっけ。
えーっと。
彼女、両刀使いなのよね。
男でも女でも……
はっ?!
さっきのあのお尻の感覚って……
気付いた私は思わず魔力を噴き上げる。
余りの魔力圧に執務室の空気が薄くなり、物理的な圧を伴った。
「「「ひぐうっ?!!」」」
「「み、美緒?!!」」
「「「くあっ?!!」」」
そして私はリンネの拘束を解きゆっくりとマキュベリアの前に行き彼女を見下ろした。
「……ねえ?マキュベリア?……あなた、さっき……私のお尻に何を当てたのかしら?」
そう言いつつ私は超元インベントリからあの悍ましい大きな鋏を取り出した。
「ひうっ?!!な、何じゃ?み、美緒…‥そ、そんな物騒なもの……ひ、ひいいっ?!!」
「まさかとは思うけど……もしそうなら、ちょん切りますね♡」
そして私はマキュベリアの首根っこを掴み上げる。
色々スキルを使用しているようだけれど、私は既にすべてを無効化しておいた。
「な、な、なんじゃと?!何もできぬ?!!ま、待つのじゃ、は、話せば、分かる…」
「……違うのよね?まさかさっきの……男の人のアレじゃないのでしょ?」
壊れた人形のようにコクコクと頷くマキュベリア。
すでに顔は青ざめ涙が目に浮かんでいた。
実は私、フェブニールを倒したおかげですでにレベルは400を超えていたのよね。
圧だけで格下なら殺せるほどの覇気を纏っていた。
「み、美緒?そ、その、その辺で……」
流石にまずいと思ったナナが私に声をかける。
気付けばマキュベリアの眷属であろう男性と女性が、すでに虫の息で倒れ伏していた。
「ふう。……ごめんなさい。……ねえマキュベリア?私ね、使命があるの。だから少しの触れ合いとか女の子同士での『キャッキャうふふ』くらいなら許せるわ。でもね……あなたのそれはダメ。もし今後同意なしで私の仲間に手を出したら…」
私はまた鋏をねっとりと舐めて見せる。
「ちょん切るので。……分かった?」
「う、うむ。……すまんかった」
どうにか気が済んだ私は眷族の二人、アザーストさんとスフィナさんを回復させ、改めて対面し話をすることにした。
マキュベリアの持つ情報。
一応私の知っている情報ではあるけど実際に体験した生の情報は何よりの力になる。
大分進行がおかしくなっているこの世界。
少しでも情報を精査し、たどり着く必要があるためだ。
「ねえ、美緒。ごめんだけど私疲れちゃったのよね。……お風呂行ってもいいかな?」
「っ!?ご、ごめんね?そうよね。……じゃあ皆で行こうか?えっとスフィナさんもどうですか?気持ちいいですよ」
「えっ?よろしいのでしょうか。私まだ、皆さまのこと知りませんが……」
「うん。大丈夫。実はもうあなたのこと鑑定したから。…凄いのねあなた。初めて見た『革新魔闘士』…魔に対する抵抗力にほとんどの魔法、そして何よりその戦闘能力。……それにあなた、普通に男性が好きなのね。良かった。……マキュベリアにさんざん弄ばれたのかと思っちゃった」
私の言葉に顔を染めるスフィナさん。
うん。
とっても可愛い。
因みに彼女は見た目23歳で固定されている。
不死の存在。
マキュベリアの眷属化の弊害だ。
意外にも彼女、ほとんどマキュベリアに穢されてはいなかった。
まあ『ゼロ』ではないけどね。
私は少しマキュベリアを見る目を変えた。
取り敢えず彼女は見境無しではないようだ。
コホン。
ああ、アンデットではないよ?
彼女普通に子供とか産めるしね。
「なっ?!ま、まさか…み、美緒さまは生きたものの鑑定、できるのですか?しかも全然見られた気配ありませんでしたが…」
「あー、ごめんね?私のスキル、進化したのよね。見た目というか表示は変わらないのだけれど。…今は気づかれないくらいにはできるのよね」
執務室に訪れる沈黙。
確かに私、すでに超絶チートの存在だ。
……少しだけ寂しさがよぎり胸がチクリと痛む。
「はあ。まったく。美緒は美緒らしいよね。さっ、行こっ♡私早くお湯につかりたい」
「うんうん。今更よね?私美緒がどんなに強くなったって大好きなのは変わらないよ?ねっ♡」
そう言って躊躇なく私に抱き着くレリアーナ。
それに変わらぬ瞳で私を見てくれるナナ。
一瞬傷んだ私の胸がそれを上回る優しさに溶かされる。
「…う、うん。私もリア、大好き♡」
「んふふ♡今日こそ私、美緒のこと洗ってあげる♡」
「うあ、えっと…お、お手柔らかに?」
こうしてみんなで、楽しいお風呂に向かったのだった。
あー、一応マキュベリアにも声かけたよ?
絶対にアレ、出さないことを条件にね。
「うう、美緒は優しいのじゃ……一生ついていくのじゃあああ!!」
とか泣いてたけど。
普通にしていればあなた、最高に可愛いのだから。
まったく。