俺たちは駅近くの公園のベンチに座って反省会をすることにした。
まだ明るい時間帯のため公園内には陽が差しているが、俺たちの周りだけはじめっとしている。
座っているベンチからきのこが生えてきても一切驚かないだろう。
一方で子どもたちはきゃあきゃあ言いながら遊んでいる。
子どもたちが『爆ウケダイナマイツ』に気付く様子はない。
魔物退治をしたことで有名になった気がしていたが、俺自身が思っているほどの効果はなかったのかもしれない。
きっとあの一件は、スーパーのオバちゃんが万引き犯を捕まえたくらいのニュースだったのだろう。
だって魔物なんて吐いて捨てるほどいるのだから。
魔物に対して数が足りないとは言っても、ヒーローだってたくさんいるのだから。
「……俺、一躍時の人になった気分だったのに」
「実は僕も。みんなを助けるヒーローになった気分だった」
「でも勘違いだったみたいだな。誰も俺たちを見ようともしない」
公園で遊ぶ子どもたちは、俺たちのことなんか無視をして遊具に夢中だ。
俺は俯いて髪をぐしゃぐしゃと乱した後、ガバッと立ち上がった。
「ああもう!」
いきなり大声を出して立ち上がった俺のことを、ダイが目を丸くして眺めている。
「ひとしきり落ち込んだら、今度は猛烈に腹が立ってきた!」
俺の声に驚いたらしい子どもたちが、俺から距離を取った。
それはそうだ。こんな危ない人には近づかない方が良い。
「ウケル、落ち着いて」
「落ち着けるかよ!? 面白くなるためにヒーローになろうと思ったのに、ヒーローになるためにはもっと安定してスベる必要がある!? こんな馬鹿な話があるか!?」
本末転倒も良いところだ。
そもそもスベりたい芸人なんているわけがない。
「でも試験官の言ってることは間違ってないと思うよ。派遣されたヒーローが特殊能力を出せない役立たずだったら、大変なことになるもん」
「だからって、もっとスベれっておかしくないか!? 俺たちは面白くなりたいんだぞ!?」
「面白くなるためにヒーローになりたいって言うのは僕たちの都合で、試験官には関係ないんだよ」
俺を落ち着かせるために言っていることだと分かってはいるが、だんだん正論を並べるダイにも腹が立ってきた。
「ダイは、ヒーローになるために面白さを捨てろって言うのか!?」
「そうは言ってないよ。僕たちには僕たちの事情が、ヒーロー認定委員会にはヒーロー認定委員会の事情があるって言ってるだけ」
怒りのままに地面を蹴って砂を舞い上がらせる。
「ムカつくムカつくムカつく! 絶対有名になって、あのメガネ試験官を見返してやる! 有名になってからサインが欲しいって言ってきても、絶対に断ってやるんだ!」
決意を胸に、拳を天に突き上げる。
そんな俺を、ダイが微笑ましそうに見つめている。
「でも見返すって、具体的にはどうやって? ヒーローの件は忘れて、これからはまた地道に芸人として活動する? 僕はそれでもいいけど」
「いいや。せっかく掴んだ話題性を無駄にするのはもったいなさすぎる!」
万引き犯を捕まえたスーパーのオバちゃん程度の知名度しかないとしても、チャンスはチャンスだ。
一回目はその程度でも、スーパーのオバちゃんが連続で万引き犯を捕まえたら、そのうち大きく取り上げられる。
俺たちが狙うのは、そこだ!
「ただ、もったいないって言っても、ヒーロー認定試験に落ちちゃったからなあ」
困ったように言うダイに向かって不敵に笑ってみせる。
「自宅の前に魔物がやって来たら、退治する民間人は多いだろ」
「え? そりゃあヒーローが到着するまで間、魔物にやりたい放題させるわけにもいかないからね……って、何の話?」
俺の言いたいことに思い至っていないダイに向かって、チッチッチッと指を振る。
「つまり、魔物を退治するためにヒーローになることは、絶対条件ではないわけだ」
「……まさか、勝手にヒーロー活動をしようってこと?」
俺は口の端を上げてニヤリと微笑んだ。
「そういうこと」
この前の魔物退治だって、ヒーロー認定委員会を通さず勝手にやったことだ。
魔物を退治されて怒る人なんかいるわけないのだから、正式なヒーローではない俺たちが倒したところで問題はないだろう。
「あのさ、ウケル。魔物退治は世のため人のためになるけどさ……実際問題、ヒーローにならないと魔物を退治してもお金はもらえないよ? 交通費だって出ないだろうし」
「そこは経験を買ったと思えばいいだろ。そして買った経験は面白いネタになる!」
「お金を払って危険なことをするってどうなの。リスクとリターンがバグってるよ」
「バンジージャンプだってスカイダイビングだって、金を払って危険なことをするだろ? よくあることだって」
うーん、と渋い顔をするダイに畳みかける。
「魔物を退治するお笑い芸人なんて話題性十分だと思わないか!? 俺の特殊能力は派手さもあるから画面映えもバッチリだ。魔物を倒し続けてたら、むしろヒーロー認定委員会の方からヒーローとして登録してくれって頼んでくるだろうさ」
「そんなに上手くいくかなあ」
「ファンだって『ヒーロー活動頑張ってね!』ってカンパをしてくれるはずだ。その金を交通費に使えばいい」
センターマイクを渡してくるファンがいるくらいだ。
交通費をくれるファンだってきっといるはずだ。
「ファンにたかるようなことは……というか、そんなにヒーローとして有名になるくらい魔物退治をするつもりなの?」
「いいや、短期決戦だ。俺たちはすぐにスベらなくなるからな!」
魔物退治をすることで、面白いネタを仕入れて、爆笑をとる。
ほら、簡単だ。
簡単で完璧な計画だ。
「じゃあ当初の予定通り、期間限定ヒーローのお笑い芸人を目指すわけだね?」
「そういうこと!」
身体中がやる気で満ちて昂った俺は、ジャングルジムまで走って行って、その勢いのままジャングルジムのてっぺんに登った。
お笑いのてっぺんにも、こんな感じで軽々と昇ってやる!
『爆ウケダイナマイツ』は最強なのだから!