俺がコーガス家の執事として働き出して一月ほど経つ。
新居も用意できたので、今日は引っ越しを行う。まあ新居とはいっても、今の屋敷より真面な中古品を俺が多少手直しした程度の物だが。
え? 侯爵邸なのに新築じゃないのかだって? まあ所詮は腰掛けだからな。
後々領地に屋敷を建てて本邸にする事を考えると、領地でもない場所の住居に必要以上に金をかける意味は薄い。
「では荷物を送ります」
引っ越しに当たり、荷物は全て転移魔法でパパっと新居へと送ってしまう。それ程量がある訳ではないが、一々運んだのでは無駄に時間がかかってしまうからな。
「す、凄いですね。転移魔法というのは……」
「便利だねぇ」
魔法で荷物が消える様を目の当たりにしレイミーとバーさんが、目を丸める。
まるで手品を始めて見せられた子供の様な反応だ。
「では、レイバン様の部屋へ参りましょうか」
荷物を送り終えた俺は、手をパンパンと払う。その行為に意味はない。なんとなく手癖的にやってしまった感じだ。まあそんな事はどうでもいいか。残すはレイバンだけなので、3人で彼の部屋へと向かう。
「レイバン様。ユーシャーです。引っ越しの準備が終わりました。失礼してもよろしいですか?」
「入っていいよ」
外からノックして声をかけると、ちゃんと返事が返って来た。良い傾向である。可能な限り、バーさんに同行して食事を運ぶ手伝いをしてきたからな。
コミュニケーションの成果といえるだろうだ。
因みに、屋敷の食事は可能な限り俺が作っている。料理にはかなり自信があったので。現にレイミーには好評だ。それとは対照的に、バーさんは最初少し悔しそうだったが。まあ彼女も料理には自信があったのだろう。
こちとら100年間、魔界の糞不味い料理を少しでも何とかしようと頑張って腕を磨いて来た身だからな。
バーさん程度の小娘には負けんよ。
「失礼します」
部屋に入ると荷物がまとめてあった。昨晩、レイミーと一緒にレイバンが纏めた物だ。
「ではまず、荷物から送らせていただきます」
「すごい……本当に転移魔法が使えるんだ……」
魔法を使って纏められた荷物を新居へと送ると、レイバンが被っている毛布から顔を出してその様子を凝視する。彼の顔を見るのはこれで二度目だ。俺が尋ねた時は、いつも頭からがっちり毛布を被っていたからな。
「私はけっして嘘を申し上げません」
「どうだか……」
声をかけると、また亀の様に頭から毛布をかぶってしまう。まだまだ先は長そうである。
「それでは、最後にここにいる全員を転移させます。宜しいですか?」
「あの、転移ってどんな感じなんでしょうか?」
自分達の番になって急に不安にでもなったのか、レイミーが尋ねて来た。まあ初めての体験だから、直前でしり込みするのも無理はない。バンジージャンプとか、途中までテンションアゲアゲだった奴が飛ぶ直前でしり込みしたりするって聞くしな。
「目を閉じて開いたら、違う場所にいる。そんな感じになります。まあ一瞬の事ですですし、害も全くありませんのでご安心ください」
「そうなんですね」
「では、魔法を使わせて頂きます」
魔法を唱え、俺はこの場にいる全員と共に新居へと転移した。