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第56話 三点セット

「少々お待ちくださいませ」


そう言って侍女が部屋を出ていく。


ここはコーダン伯爵家の待合室。俺はコーガス侯爵家の名代みょうだいとして、伯爵と接見する為にやって来ていた。もちろんその目的は、三年前の真実を確認する為だ。


先代夫妻の死。それが病死か暗殺だったのか。そして暗殺ならば、何故そんなふざけた真似をしたのかを究明する。


「しかし……正面から堂々と乗り込むとはな」


横に座る魔王が俺を見てそう言う。


「限りなく黒に近くはあるが、まだ確定した訳じゃないからな。まずは確認しないと」


忍び込んでから実は関係ありませんでしたでは洒落にならない。記憶を消す魔法があるならまた話は変わって来るが、そう言う死ぬ程都合の良い魔法はないからな。だからまずは名代として堂々と乗り込み、白黒先につけておかなけばならないのだ。


そしてそのための嘘発見器まおうである。


ほんと、こいつは便利だよな……


「ふむ……安物だな」


魔王が用意された紅茶を飲み、一言そう呟く。侍女が用意した物は安物だった。俺は口にはしていないが、漂っている香りだけでもそれがハッキリと分かる。


「ああ、没落した家門の執事だから舐められているんだろう」


ハッキリ言ってこれは、伯爵家が客人に出す様なレベルの品ではない。そんな物が当たり前の様に出される当り、コーダン伯爵家は、コーガス侯爵家を軽んじている事を隠す気がない様である。


派手に復興作業に取り掛かっているが、伯爵家はまだうちを没落貴族と認識しているみたいだな。もしくは……


敵視しているか、だ。


暗殺の一件が無ければ、俺は表層的な情報から確実に前者と受け取っていただろう。だが裏が見えて来ると、その捉え方も多少変わって来る。まあ、白黒はっきりしていないからあくまでも推測の域を出はしないが。


「準備が整いましたので、どうぞこちらへ」


待つ事小一時間。執事がやって来て、俺達はコーダン伯爵の元へと案内される。最悪何時間も待たされると思っていたが、そこまであからさまな真似はしない様だ。まあ訪問時間は事前に伝えてあるので、一時間でも大概長いっちゃ長いが。


俺達が通されたのは、派手な金ぴかオブジェが並べられた場所だった。しかも一番奥には金の椅子が置いてある。


まさか伯爵はあそこに座るつもりか?


「お前達が侯爵家からの使いの物か」


太ったちょび髭の中年が従者を連れて入ってきて、予想通りと言うか、そのまま金の椅子に座ってしまう。この性格の悪そうな顔をしたデブがコーダン伯爵家当主、レガン・コーダンだ。


『ここの主は頭が悪そうだな』


エーツーの意見には同意せざるえない。これでは高位貴族ではなく、ただの拗らせ成金である。


「お初にお目にかかります。名代を務めるタケルと申します」


「同じく、名代を務めるエーツーと申します。以後お見知りおきを」


俺とエーツーが挨拶すると、レガンが興味深げに俺達を見た。

正確には――


「ほう、美しいな」


――魔王を、だが。


まあこいつは顔がかなり良いからな。王城でも王子にナンパされた事からも、それが良く分かるだろう。


「ありがとうございます」


「只の小間使いにしておくにはもったいない美貌だ。どうだ?この際侯爵家など辞めて私の妾にならんか?」


見た目。趣味。言動。どれをとっても、100点満点を与えたくなるゴミっぷり。こんな奴にコーガス侯爵家の当主夫妻が殺されたのかもしれないのかと思うと、怒りがこみあげて来てしょうがない。


「私はコーガス侯爵家に骨を埋める覚悟でお仕えしていますので、大変栄誉な申し出ではありますが……申し訳ございません」


「ふん、物の道理の分からん小娘め」


エーツーが丁寧に断ると、レガンのにやにやした嫌らしい表情が不機嫌そうな物へと変わる。まさかこいつ、さっきの口説き文句でイエスが貰えると思ってたんじゃないだろうな?


「まあいい。さっさと用件を言え」


「はい。本日お尋ねしたのはバー・グランについてでして――」


レガンに言われ、俺は本題へと入った。

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