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『チート作家の異世界執筆録 〜今日も原稿と畑で世界を綴る〜』
『チート作家の異世界執筆録 〜今日も原稿と畑で世界を綴る〜』
MKT
異世界ファンタジースローライフ
2025年05月15日
公開日
5.6万字
連載中
異世界に転移した売れないラノベ作家・龍介は、「書いたことを現実化する」チート能力でジャガイモ畑を即日完成させ、スローライフを満喫する。森で助けた猫獣人ルナと共にほのぼの日常を送る傍ら、魔王復活の噂を“魔王が土下座して同盟を結ぶ”物語に書き換え、世界に平和をもたらす。農作業も執筆もチート全開の新感覚ファンタジー!

第1話 神様、転移はラノベ仕様でお願いします!

 夜明けの気配が、わずかにカーテンの隙間から忍び込んでくるころ──俺はついに限界を迎えていた。


「はは……ついに三日連続オール達成か。ラノベ作家としてこれ以上ない勲章だな、うん。……いや、普通に死ぬぞコレ!」


 机の上には、空になったエナジードリンクの缶が十本以上、小さなピラミッドを作っている。モニター画面には赤い点滅字幕で「第17回異世界ラノベ大賞・応募締切:あと2時間」が踊っていた。俺、茶川龍介(ちゃがわ・りゅうすけ)、42歳。売れないラノベ作家の悲哀と誇りを背負い、必死で原稿を仕上げた。


「……よし、これで限界だ。いや、むしろこれ以上の文章は俺の脳内から出てこない!」


 目を閉じた瞬間、部屋の空気がスッと変わった。


 ふわり。


「お疲れ様でした、龍介さん。いや、リュウとお呼びすべきかのう?」


 耳元で響いたのは、澄んだ老人声。慌てて目を開けると、そこには銀髪の長髪を背中に垂らし、虹色に輝く羽根をたなびかせた存在が、天井からゆっくりと降りてきていた。ローブは淡い蒼色で、裾がゆらゆらと宙を撫でている。


「えっ、え? ……夢? それとも幻覚? や、ヤバい、エナドリって違法だっけ!?」


「違わぬ。これは夢ではない、ラノベの神じゃ。三徹の執念を持つ者にのみ現れるという伝説の存在……見事じゃ!」


「マ、マジでラノベ神!? そんな設定公式じゃないでしょ!?」


 ぽかんと口を開ける俺に、神様は微笑んだかと思うと──


「ほれ、お主の努力、無にせぬぞ。転移のチャンスじゃ。望む世界を申せ」


「き、来たコレ! 異世界転移!?」


 心の中でガッツポーズ。俺は畳の上に正座し、両手を組んだ。


「神様! どうか、どうかファンタジーな世界に転移させてください! 魔法が使えて、ドラゴンもいて、スローライフで、ハーレムもあって……とにかく全部入りの異世界に!!!」


「お主、欲張りじゃな……ふむ、よかろう。ついでに16歳に若返らせてやろう。ほいっ」


 神様が指をぱちん、と鳴らす。その刹那、部屋の壁がグルグルと渦を巻き、世界が大きく揺れた。


「……あ、ちょ、ちょっと待って! スローライフとハーレム、設定が噛み合ってないんじゃ……!?」


 気づいたときには、もう──


 外は青々とした森。柔らかな木漏れ日が風に揺れる葉の隙間から零れ落ち、薪がくすぶるログハウスの前へ、俺はパンツ一丁で立っていた。


「……なんで服がないの!? ていうか、パンツ一丁!?」


 辺りを見回すと、背後で木の隙間に囲まれた小さな小川がきらきら光り、鳥のさえずりが心地よい。どこかで小動物の足音が枝をかすめる。草の匂い、湿った土の匂い──異世界感は満点だが、俺の全身を駆け抜けたのはただ一つの感情。


 神様、ちょっと雑すぎるやろ!


 だが、この春めいた朝こそ、俺の異世界スローライフ(ただし執筆付き)が幕を開けた瞬間だった。ーー全ては、ここから始まる。

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