｢やったああああ！　難易度激高、乙女の厚い友情モード、クリア！｣

　スペシャルモード、クリア！　

　喜び、感激。この感動、早く伝えたい。

　伝える相手。それはもちろん、共にこのスマホゲーム『聖女は学びも愛したい』を愛する掲示板、スレッド仲間の皆さんだ。

　さっそく、『聖女は学びも愛したい』略して『まななび』、悪役令嬢推し掲示板に入る。悪役令嬢様推し、が私。

1000　悪役令嬢様推し　こんばんは。乙女の厚い友情モード、クリアしました！

1001　推して押されたい　

>>1000 やったね！　それにしても、課金要素よりも運要素、ルートを出すのも鬼仕様なのに、よくやった！　もしかしたら最速クリアじゃない？　公式に伝えた？

　よくやり取りをしている、推して押されたいさんがさっそく反応してくれた。

　このスレッドは基本、このゲームの悪役令嬢様推ししかいない、落ち着ける雰囲気のスレだ。

　おかげで、公式さんから、クリアしたあなたに、みたいなメールがきてたことを思い出せた。

　パソコンを開いたままで、スマホを確認。

　それにしても、クリアとほぼ同時にお祝いメールってすごくない？　しかも、私から連絡してないのに。

　メール、開封。

　最近、メッセージアプリばっかりだから、なんだか懐かしいな。

　えーと、なになに。

『乙女の厚い友情モードクリア、誠におめでとうございます&ありがとうございます。副賞といたしまして、主役であります聖女とあなた様の魂を入れ替えさせて頂きますので、どうぞ、あなた様の推しとの異世界生活をお楽しみください……』

　……、よくできた設定メールだなあ、と思って次の文字を読もうとしたら。

　私、浮いてる。

　それなのに。

　真剣な顔で、スマホを覗いてる私がいた。

　そう、私の体が、下にあるんだ。

　なんで？　

　ちょっと待って？

　浮いてるこの私が、私だよ？

1002　推して押されたい　あれ、どうしたの？　もしかしたら徹夜とかだった？　寝てた？

　コメがきてる。徹夜はしてないし、起きてるよ！

1003　悪役令嬢様推し　

>>1002大丈夫、ごめんね！　運営からおめでとうメールもらえてて、返信してたの！

　うそ。

　スマホを置いて、キーボードを叩いてるの、私だ。

　違うよ、私は、私なのに。

　ちが、まで言いかけたとき。

　私は、スマホに吸い込まれた。

　その瞬間、私は、私と目が合った。

｢アントラサイト様を、よろしくね｣

　私の声で、私が言った名前。

　アントラサイト様。

　それは、私が大好きな、悪役令嬢様だ。

　気高く優しく美しく。

　王家に長年お仕えする大貴族のご令嬢でありながら、平民である聖女への敬意も示し、聖女を軽んじる学院生を諫いさめ、とんまな婚約者を導くべく努力を怠らず。

　……うん、大好き。

　そう思っていたら、私はほんとうに、私のスマホに吸い込まれてしまったんだ。