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第8話 ついに、真のざまあ(も)!だけど、期間限定?聖女はまだ続く。(最終話)

「婚約解消撤回? 何を仰っておられますの。おふざけが過ぎましてよ。そもそも、殿下には守護聖獣様より、聖女様ご視界接近禁止のご通達がございましょうに!」

「いや、俺が近付いているのは、アントラサイト、お前になのだが」

「婚約者でもない方に呼び捨てやお前呼ばわりされるいわれはございませんが? 観察処分中の王子殿下?」

「アントラサイト……嬢、たいへん失礼をした……しました……が、お、僕が再度の婚約関係をおま、き、貴女のお家にお願いしたいのでなんとかしてほし、頂きたい、と言い……申したのは、聖女様には関係なく……」

「なんということ! 聖獣様のありがたきお言葉により、私ことアントラサイトは聖女様に生涯お仕え申し上げますことにつきましては、我が公爵家はもちろん、王家からもご快諾を賜っております。即ち、私の身は聖女様の御身とも申せますの。王子のその言葉、ちゃんちゃらおかしいのでございますよ!」


 精巧な魔石細工の意匠も美しい扇をきらめかせ、アントラサイト様がざまあをなさっている。

 かつん。小さく、鋭く鳴り響くヒールの音も、実に爽快だ。

 ああ、いい……。

 感動。全私が、震えた。

 ありがとう、聖女コーパルちゃん、おんおん。


 生きててよかった……私、生きてるよね?

『生きてるから安心するおん。感動しすぎて、聖魔力が漏れてるおん。ほい、からの魔石だおん』

 おんおんが、モフモフから空の魔石を取り出して浮遊させ、私の手元にぽとりと落としてくれた。

『ありがとう、おんおん……よし』

 いけない。推しの美しさに、みなぎる聖女パワーが溢れ出てしまった。

 貴重な聖魔力を無駄にしないように、空の魔石にしっかり貯めておく。聖魔力入りの魔石は貴重な資源なのだ。

 さすがはおんおん。できる守護聖獣さんである。

『それほどでも……あるおん』

 肉球で聖魔石となった魔石を受け取り、モフモフの中に戻すふふん、な感じのおんおん。

 たいへんに、かわいらしい。


「この穢れなく愛らしい聖魔力は……聖女コーパル様! いやですわ、このアントラサイト、はしたない姿をお見せしてしまいましたわ!」

 穢れなく愛らしい? おんおんが、の間違いじゃないのかな。

 それにしても、ヒールで競歩ってできるんだね。すごいや。

 スタスタスタ、とこちらにいらしたアントラサイト様だったけど、私の前ではテレテレなところは、とてもかわいらしい。


 とんま王子は、気絶寸前。

 これで王宮には守護聖獣様おんおんから再度の通達が入るから、学院には通学できなくなるかも。

『筒抜けおん』

 おんおん、仕事はやっ。


 それにしても、王子殿下としての資格観察処分中でも、学院には通わせてもらえていたのに。何をしてるんだか。

 王宮での学習になると、取り巻きも連れて歩けないよね。連中も、それどころじゃないだろうけど。

 うんうん、よかった。


 そうだ、アントラサイト様の次のご婚約のお相手。

 婚約解消、聖女には一応の責任があるからね。きちんと考えてあげなくちゃなのかも。

 同世代がだったから、イケショタらしいと掲示板でも噂だった第六王子様とか? 

 攻略対象者じゃないから掲示板のスレと、あとは『まななび』公式情報サイトでちらっと見ただけで、よくは知らないんだけど。


「新たな婚約者様など、必要ございません。聖女コーパル様とともに生き、ともに果てるのみでございます」

 アントラサイト様、心が読めるの? 

 あと、不穏な言葉を聞いたような……。

「なんでもございませんわ、聖女様」

 そうか、アントラサイト様がそう言うのなら、気のせいだね!

『知らぬは聖女ばかりなりだおん』

 おんおん、ひどいなあ。

 私、いろいろ頑張ってるでしょう?

『そっちじゃないんだおん』


「聖女様、俺の話を聞いてくれ……げふっ」

「近づくな、下衆げすが!」

 あ、別の攻略対象者とんまが来た! 

 で、即、ざまあみたいなもの、開始!


 お父様、つまりは副団長閣下のお怒りが凄まじく、実家からは勘当、つまり、騎士団副団長令息ではなくなりそうな奴。

 そいつが、鍛錬を重ねた元婚約者様にボコられたのだ。

 ちなみに、これは暴力じゃなくて、やむを得ない行いだから、セーフ! 

 か弱いご令嬢が、聖女様の御為にと、健気に拳を奮ってくれているだけ、武器もなし。 

 そう、聖女様を御守りするための、正当な行為なのです!


「聖女様のご指導の賜物にございます」

 あれ? 無事に追い払えたあと、なぜか私が感謝をされている。

 『まななび』の身体強化魔法を教えてあげただけなんだけどね。

「聖女様にお尽くしできますよう、日々鍛練に励んでおります」

「ありがたいけど、無理はしないでね。ご自身を大切に」

「はい!」

 こんな感じで、悪役令嬢様も、ほかの皆様も素敵な方々で。そうとうなかよしになれているんじゃないかな。


 ざまあも(多分)無事、進行中。

 よかった、よかった。


『やっぱり、分かってないおん』

『分かってるって!』

『聖獣様。どうぞ、ご内密に』

『念話を独自習得とは……すごい執念なんだおん』

 アントラサイト様、念話の術式を独自習得したの? すごい! 

 私には内容までは伝わらないけど、念話なのは分かるよ。

 おんおんには、ちゃんと聞こえてるんだね。


「執念じゃなくて、アントラサイト様の努力ですよ! すごいです!」

「ありがたきお言葉……」

 感激の、アントラサイト様。


『燃料投下してどうするおん。聖女様、期間限定じゃなくなっても知らないおんよ』

『期間限定……知ってるよ!』

 なかよくなりすぎたら帰り難くなる、ってやつでしょ?

 大丈夫。わきまえてるよ!

『違うおん……』

 おんおん、まだ誤解してる?

 その時がきたら、ちゃんと私、異世界現世に帰れるよ。

 すごく寂しく……なるかもだけど。


『まあ、今はそれでいいおん……』

『ね、いいんだよね!』


 そう。期間限定、聖女様。

 期限まで、きっちりしっかり勤めるからね!




(……やっぱり分かってないんだおん。でも、とりあえず、めでたしめでたし、で、完、なんだおん!)

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