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第15話 いや臭いし!赤いし!

 森に慎重に入る俺たち。クラウディアは周囲の気配を探っている。


「こっわ~い!ジークヴァルト王子ぃ~!!」

 とレーナ嬢が後ろから俺に抱きついてこようとするのをクラウディアが髪で牽制する。


「殿下に抱きつかないでもらえるかしら?一歩間違えば貴方の怪力で殿下の背骨もバラバラですわ!」

 こっわ!魔物より怖いわ!それ!


「ひっどーい!王子聞きましたぁ?クラウディア様が嫌味ったらしく私のこと侮辱してますう!殿下にそんなことするわけないじゃないですかぁ!」


「……クラウディア!怖いっ!」

 と俺はクラウディアの後ろに回った。


「おほほほ!ほら見なさい!貴方が怖いらしいわよ!殿下は!」


「王子ぃ~?私怖くありませんわよぉ?ですから出てきて私のお胸で保護して差し上げますわぁ!」

 とまるで怯えた小動物をあやすかのような言動に俺は溜息をついた。


 とそこで二人の女の顔つきが変わった。


「あら、どうやらおでましですわ!」


「ふふっ!全部私が倒して差し上げますね殿下!」

 と先にレーナ嬢は土を蹴り跳躍した!

 大きな肉塊が上から襲ってきた!

 あれが!魔物!!キモッ!

 それをレーナ嬢が拳を作り肉塊の中心を突き破った!


「はあああ!!」


 肉塊はバラバラになり雨になる。

 クラウディアはそれを髪でバシバシと俺に当たらないようにしてくれる。


「ありがとうクラウディア!」


「ちっ!先を越されましたわ!」

 地面に降りたレーナ嬢はにこりと笑って


「あら、クラウディア様申し訳ありませんわ…獲物を横取りしましたわ…うふふ」

 と笑う。クラウディアは悔しそうな顔だ。


 俺はハンカチを取り出しクラウディアに少しかかった残骸を拭いた。


「殿下!そのようなことしなくてもいいのです!」


「でも綺麗な顔が…」


「まだ沢山出ますし!後でも…」


「いや俺何の役にも立たないしこれぐらい…」

 と言うとクラウディアはまた照れた。

 しかしレーナ嬢が


「王子ぃ!私の顔も汚れましたわぁ!」

 と目を瞑って拭いてくれと言わんばかりにこちらへ突き出す。


「フェリクス…タオル投げてやれ」


「はいっ」

 とフェリクスは投げるとまではいかなかったけど彼女のあたまの上にちょこんと置いた。

 それを見てクラウディアは少し笑った。


 でもすぐ向こうからどす黒い肉塊がぞろぞろ現れた!よく見たら小さな足生えてない?キモッ!


「まぁ…これで私の勝ちですわ!」

 と彼女は髪を剣にして肉塊に向け一斉に突き刺した!肉塊はバラバラになることもなく動かなくなる。鮮やかな殺し方だ。急所を心得ている。しかしとんでもない異臭が鼻をついた。


「くっさ!!」

 思わず鼻を摘む。


「申し訳ありません殿下!魔物は殺すと臭いのです!ヘンリックすぐに土を!」


「はい!お嬢様!」

 とヘンリックが背中に担いでたスコップで土を肉塊にかけ始めた。


「あらクラウディア様!そんなひと突きで殺すから空いた穴から異臭がするのですわ!私のようにバラバラにした方がいいのではないですかぁ?」

 とコテリと首を愛らしくあざとく傾げるレーナ嬢にクラウディアは


「貴方のような汚い殺し方では辺りに飛び散り森も汚れが酷くなりますわ!」

 だよな!クラウディアのは確かに臭い匂いするけど、レーナ嬢の殺し方は確かに汚い。


「まぁ、私は私のやり方で魔物を殺すだけですわぁ!勝負はまだ終わっていませんからね!」

 と彼女は駆け出し草に潜んでいる小さな肉塊の魔物を捕まえて拳でグシャリと潰した。


 うっ!!あんな小さいのも…。

 思わず顔をしかめる。


 その後も二人は恐ろしい速さで魔物を仕留めて行く。ヘンリックは魔物に土をかけ匂いを緩和し、フェリクスも一応流れ弾的にこちらに向かってくる魔物を空中で斬る。意外とやるな。フェリクスも!

 しかしそこでぼこりと地中から肉塊が現れ俺の足に巻きつこうとした!


「げっ!キモっ!」

 俺は必死でそれをグサグサと持ってた剣で刺したけど威力が弱いのか離れねえ!

 しかしクラウディアが気付いてグサリと思い切り地中深くまで指し、血が吹き出した!


「殿下!」

 クラウディアは俺を庇い血を浴びた!


「クラウディア!!」

 服が顔が真っ赤に染まり、レーナ嬢は


「うふふふ!鮮血姫ですわ!なんて恐ろしいのかしらぁ!」

 と言う。

 俺はクラウディアにハンカチを差し出すが断られた。


「このままで…いいですわ」


「良くない…」

 さっきのハンカチ汚れてるから俺はクラウディアを引っ張って自分の白いシャツで顔を拭いてやると


「殿下のシャツが!!お辞めください!」


「いいや辞めない!」

 するとクラウディアは涙を浮かべた。


「私こんな…扱いは…」

 とクラウディアが俺の胸に縋った。

 は!一気にドキドキした。


 しかしそこでグシャリと肉塊はボロボロにされた音がした。


「クラウディア様!ずるいですわ!殿下に抱きつくなんて!」

 クラウディアはすぐ離れ


「ち、ちち違いますわ!これは!さあ!勝負の再開ですわ!私の方が多いはず!」


「私のが1匹勝ってますわ!!」

 と二人は狩を続けようやく湖へとたどり着いた!しかし


「なんだこの赤い湖は!!」

 まるで血のように赤い湖だ。


「クラウディア様のご先祖が地に濡れた髪を洗ったからと言われてますわよね?確か!きったな~い!」


「うちのご先祖を愚弄するのはおやめなさい!」

 とクラウディアが怒る。当たり前だ。


「それじゃ俺はここで1時間祈りを捧げるよ…その間…怪我するなよ?」

 クラウディアの頭をポンポンすると恥ずかしそうに目を細め了承する美少女めっちゃ可愛い!

 レーナ嬢もあたしもと頭を差し出すので仕方なく雑に撫でて俺は湖に入る。


 冷たい!!

 しかし赤くて底は見えないけどちゃんと足は付く。湖の真ん中まで歩き俺は月を見上げる。

 すると不思議な光…あの女神が最初に俺にしたように白く光り出した。


「あれは!」

 クラウディアが魔物を倒しながらその光景を見た。


 俺は手を組み祈り始めた。


「女神ザスキア様…貴方は気高く美しく聡明で我らブッシュバウムの民を愛しておられる素晴らしいお方!どうかこの私にその力を与えたもう!この国があるのもザスキア様のおかげ!どうか私に奇跡を!」

 この祈り方は先代の王族がやっていたのを本で読んで真似たのだ。

 こんなんでいいのか知らんが。

 しかし俺の周りの湖の水が綺麗になりだした。


 え?嘘?あんなに赤い湖が俺の周りだけ澄んでる!


 俺はまた同じ言葉を繰り返すとまた湖が少しずつ澄んでいく!まさか!

 1時間ってそう言うことか!

 1時間以内にこの湖を祈りで綺麗にしてくのね!?


 ようやく理解して俺は祈り続けた。


 湖の周りでは魔物が沢山現れている。新月の効果なのか産まれるスピードがいつもより速い!

 魔物は暗闇からどんどん出てくる!


「55!56!…57!」

 とクラウディアは魔物達を剣で刺す。

 臭いがキツい!ヘンリックもざかざか土をかけるが追いつかない。


「54!55!」

 レーナ嬢も魔物を辺りにぶち撒けながら数えている!くっ!あの娘!


「クラウディア様!」

 フェリクスさんが一匹斬り殺す!

 よそ見はダメね!


「今の分はフェリクス様のだから数えちゃだめですからねっ!」

 と彼女は笑う!くっ!

 クラウディアは魔物達を再び狩るのに集中した!

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