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第38話 悪夢の入れ替わり

「ううっ…」

 俺は暗闇の中目を覚ました。真っ暗で何も無い空間。いつもの白い神殿すらない。


「ここは…」

 と俺が言うと


「やっと繋がったな…。俺様は夢でずっと見ていたぜ?」

 とそこには何と前世の俺がいた。

 この暗闇なのにはっきり前世の俺の姿をした奴が喋っている!


「誰だ!?お前は!!」


「ふん…俺様はブッシュバウム国の第一王子ジークヴァルト・ゼッフェルンだよ!その身体の元の魂だ!今はお前の身体にいるがな!」


「なっ!どういうことだ!?俺は転生したんだぞ!?」


「そうだ…俺もあの日菓子を喉に詰まらせて一旦死んだ…。だがあの女神に別の身体に転生させる…罰を受けろとお前の身体に押し込められたのさ」


「なっ!?」

 それじゃ俺の身体は生きてるのか!?訳がわからない!!


「お前は辛うじて生きているよ…。俺の魂が入っているからな。だがお前の世界で言う植物人間状態でね?身体一つ動かすこともままならん…。これが俺様の罰だとさ…。しかももうすぐしたら本当に身体ごと死ぬ…」


「何…」


「だからその前に俺様の身体を返してもらおうか?俺様は動けない割に眠ると元の俺様の世界の夢をお前の目を通して見ることができたんだ!そしていつか元の身体に戻れるのではと思った。そしてチャンスが来た!今だよ!ようやく意識をお前と繋げられた!!」


「俺が…王子を辞めると言い出そうとした時か…」


「そうだ、お前のその暗闇を俺様は待っていた!いいだろう?今はクラウディアの顔も見たくないだろう?それにお前の元の身体はもうすぐ死ぬと言ったろう?最後に自分の身体に戻って家族に別れくらい言ってきたらどうだ?喋れないから目だけ動かすことになろうがな!」


「…………」

 俺の家族…弟達に母さん…友達…。

 この世界に来てから忘れたわけじゃない。でもクラウディアが隣にいたから頑張れた…。

 でも俺は…


「お前はクラウディアを守ることはできない」

 前世の俺の姿をした豚王子がニヤリと笑う。

 俺の心がズンと暗くなった…。


「決まりだ!行け!」

 俺は気付くと元の俺になり元の豚王子はジークヴァルトになっていてそいつに俺は押された。


 *


 目覚めると身体が何一つ動かせず目玉だけが動いていた。

 病院の匂い…。身体は火のように熱くて地獄の業火のようだ。

 本当に俺は生きて…?この身体にあいつが入っていた?半年以上も…。

 俺は涙を流した。


 *


 ジークヴァルト様が倒れてから3日経った。王都のタウンハウスで療養をしている。

 ヘンリックとフェリクスさんにユリウス王子も心配していた。


 コンチャーン様は相変わらずお金を貰い娼館で宝珠を集めて帰ってくる。


 その夕方に王子の部屋に訪れるとなんとジークヴァルト様が目を覚ました。


「ジークヴァルト様!!起きたのですね!?」

 私が駆け寄るとジークヴァルト様の視線がねっとりしていた。寒気を感じた。


「やあ…クラウディア嬢か…」


「!!?」


「何を驚いている?くくく…そうか…判るか!?あーはっはっはっはっ!!ついに!ついに俺様は帰ってきた!取り戻した!!あの地獄からな!!あはははは!」


 覚えのある気持ち悪さ…この感じ!


「貴方は…元のジークヴァルト様なのですね?豚王子だった…」


「何だよく判っているじゃないか?流石俺様がパイを投げた女だ!勘がいいのか間抜けなのか!」


「今のジークヴァルト様はどこです!どこへやったのです!?」


「元の身体だよ。事故で全く動かずに全身が業火のように動かない身体にな!俺様は半年以上もそこにいたよ!夢でこの世界の俺を通して見ていたがな!ようやくあいつの心の隙間に繋がりこの魂の入れ替わりが成功したんだ!俺が不在の間努力せずしてこんな美貌の王子にしてくれたことには平民のあ奴には感謝する」


「そんな…そんなことって!では今までのあの方は帰ってこないと?」


「知らんな?それに奴のあの動かせない身体はもうじきに死ぬから最後に本当の家族に別れを告げている頃だろうよ」


「なっ!!し…死ぬですって!!?あの方が!?」

 私は絶望した!!

 あの方は(イケメンには気をつけようね?)と言っていたばかりなのに師匠が戻ってきて昔話に花が咲き私は完全に油断していた!

 まさか師匠が私を慕っていたとは思わなかったのだ!よくよく考えると師匠は女性から人気のある顔であったと気付いたのだ。


 王子は震え店を飛び出した。こんな街で護衛もつけずに飛び出したら危ないのですぐに追おうとした!


「クラウディアちゃん!返事は!?」

 師匠はいつもせっかちだ!こんな時に!


「ごめんなさい!師匠!私は貴方様を師匠としか見ていません!尊敬するただの師です!それ以上でも以下でもありませんわ!そういうことです!!」


「愛してるのはあの顔だけ王子か?」


「顔だけではなく中身です!失礼します!!」

 と私は駆け出しようやく王子に追いついて手を伸ばしたがその手を払われ無理に触るなとか守らなくていいといい…その後王子は急変した。頭を押さえてそのまま気を失ってしまった!!


 追いかけてきた師匠が


「クラウディアちゃん…一旦俺とのことは忘れてこの王子様を運ぶぞ!」

 と王子を抱えてタウンハウスまで戻ったのだ。

 そして目覚めたらになっていた…。


 元の豚王子は笑いながら言った!


「おい、クラウディア!お前との婚約破棄も好きにしていいぞ?この俺様と結婚したい女も側室もすぐに沢山埋まるだろうからな!」


「私は……待ちます!!あの方が戻って来るのを!私が愛したあの方を!」


「ああ?無駄だと言うのに…。もうこの身体は俺のもの…と言うのも変だな?元々俺のものだったわ!あはははは!」

 そして豚王子は旅先にも律儀にあの方が持ってきていた私とあの方の人形が置いてあるのに気付いてそれを足でグシャグシャ踏みつけた!


「あっ!!やめてください!」

 思わず人形に駆け寄り庇う。


「ふん!?こんな人形なぞ作りおって!俺様は女子供のような遊びはしない!それより菓子はどこだ?菓子を持て!」

 髪が震える…悪夢が戻ってきた…。最悪の形で…。あの方は強くなろうと毎日毎日私に剣を習っていた。


「守らなくていい…」

 そう辛そうに最後に言わせたことに私は後悔していた。私がさっさと師匠と別れていたら良かったのだ。こんなことにはならなかった!

 人形を持ち、そっと部屋を出て涙を流していると師匠やヘンリックやフェリクスさんにユリウス王子とローゼちゃんがやってきていた。


 ユリウス王子は…


「兄上…また元の下衆な奴になっちゃったの?」

 と聞いた。私は…


「きっと…戻って来ます…。優しい貴方のお兄様は…」

 女神様…どうかあの方をよろしくお願いします!と私は祈った。

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